【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
53 / 59
恋愛開始

弟の我儘

しおりを挟む

「………な、何だよ………これ……」
「…………お前の名前で借りたお袋の借金と、目の治療費代の一部………お前が俺との約束守るなら、目の治療費全額用意してやる」
「……………は?……何……言ってんの?」

 優馬のプライドが傷付けられたのか、ワナワナとテーブルの上に置いていた手が震えている。

「お袋と距離置け………一緒に居たらお前壊れるぞ」
「…………出来る物ならとっくにやってるよ!」
「白河酒造の弁護士が、お袋に破産宣告させる為に動いてくれる………借金はチャラになる……だが、お前の方は、俺が払ってやる、て言ってんだ………これでも、白河酒造で働いた金で地道に貯めた金だ………お前が欲しがった俺の全財産に近いだろうがな………紗耶香も白河酒造の俺の立場はやれねぇ………借金チャラと、目の治療費代を俺からの詫びとして受け取れ」
「……………くっ………」
「お前が、俺からの忠告を守るなら、これからも俺はお前の兄貴として傍にいてやる………これ以上、俺の邪魔するなら、とことんお前を排除するが如何する?………せっかくここで働き始めた職も奪うし、借金の援助も、治療費代もナシだ………お袋といつまでも暮らせや」

 逃げたくても逃げれなかった理佳の存在。破産宣告をしてくれたら、借金に悩まされる事も無くなり、更に裕司が借金を肩代わりしてくれるのだ。
 正攻法で、裕司を引き釣り下ろし、理佳と離れるよりか優馬の負担は少ない。

「…………分かった………母さんを破産宣告してくれ………」
「距離置くと約束するか?」
「…………うん………したかった………」
「…………親父の連絡先知ってるか?」
「…………知らない……」
「連絡してやれよ……心配してると思う」
「…………兄さんは会ってるのか?」
「航の店で会った………月1で、俺の様子を確認してたらしい………10年掛かったがな」
「……………仕事………戻るよ……」
「あ、おい!金は?」
「…………借り作りたくない……自分で自分の借金は返してく………兄さん、その金は必要で貯めてたんなら、自分で使いなよ」

 優馬は、休憩を早めに終わらせて、仕事に戻ってしまった。

「やっぱり、裕司は優しい」
「あ?」
「そのお金、本当に優馬さんに貯めてたんじゃないの?」
「…………そういうつもりは無かったが、優馬になら使ってもいい、と思ってたのは事実だな………」

 封筒をまた裕司はスーツに入れる。分厚い封筒はまた裕司に重量感を与えたが、行きより軽く感じたのは、気持ちが軽くなったからだろう。

「あぁ………もう、食べさせ合いなんて慣れてないから、本当恥ずかしかった!」
「これから慣れてくか?」
「…………2人きりの時にして!」
「プッ………したかったんじゃねぇか」
「…………それは……」
「…………結婚式に使うか……この金……」
「……………式場、あそこがいいな……」
「何処だよ」
「彬良さんのホテル」
「……………あぁ………そろそろ新婚旅行から帰ってくるな……」
「旅行の話聞きたいから、また皆で集まりたいね」
「………だな」

        ☆☆☆☆☆

 白河家。

「え!何でホテルじゃいけないの!?」
「白河家は代々神社で神前式なのよ」

 結婚式について、紗耶香は帰宅後、母に如何してたかを聞いていた。すると、白河家は昔から神前式を行い、屋敷内で親族にお披露目するだけなのだと言う。
 親戚筋は決められてはいないが、本家になる紗耶香の家は覆せないのだと母は言った。

「私も結婚式場で挙げたかったのよ?でもお義父様がねぇ………」
「お祖父様なんて放っておいていいのよ!別荘に隠居してくれてれば!」
「そうはいかないわよ、紗耶香………幾ら隠居されたからと言っても、会社内の事は意見通らなくても、当主ではまだ居らるのだし……それに、裕司との結婚をまだお義父様に了解獲てはいないのよ?」
「…………そうだったわ……」

 白河家のリビングで、母との会話で、めっきり存在感を無くした祖父の意見も聞き入れなければならないかもしれないと思うと、背中が痛む気がする。

「お嬢様、準備が整ったそうです」
「!…………本当?」
「紗耶香、キッチンで何をするの?」
「料理を覚えようかと」
「料理?………貴女は必要ないでしょう?」
「裕司に食べて貰いたい料理があるんです!裕司の好物は私が作りたいから」
「…………まぁまぁ」

 もう家の中で塞ぎ込む姿を見せる事が無くなった紗耶香を見て、紗耶香の母も嬉そうだ。お手伝いの者達も温かく紗耶香と裕司を見守っている。

「お、お嬢様!卵を割る時は軽く殻を当てるだけで割れます!」
「あぁ!殻が中に入っております!」
「目を離してはいけません!焦げて……あぁ!」

 キッチンから聞こえる料理人の嘆き。

「あらあら………先が思いやられるわね……」
「ただいま帰りました」
「あら、裕司………おかえりなさい」
「…………紗耶香様は?先に今日は帰宅しているかと……」
「紗耶香はキッチンよ」
「キッチン?」
「紗耶香様!だし巻き卵が炭になります!」
「…………だし巻き卵?」
「紗耶香が裕司の好物を作って食べて貰いたいそうよ?………今日は炭かしら?」
「…………胃薬用意しときます……」
「そうね、それがいいわ」

 食品を扱う会社に勤めている以上、食べ残しには煩い白河家の食卓に、裕司の前に出された炭になっただし巻き卵を見て、裕司は苦そうに食べたのだった。

 ―――不味っ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...