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恋愛開始
弟の我儘
しおりを挟む「………な、何だよ………これ……」
「…………お前の名前で借りたお袋の借金と、目の治療費代の一部………お前が俺との約束守るなら、目の治療費全額用意してやる」
「……………は?……何……言ってんの?」
優馬のプライドが傷付けられたのか、ワナワナとテーブルの上に置いていた手が震えている。
「お袋と距離置け………一緒に居たらお前壊れるぞ」
「…………出来る物ならとっくにやってるよ!」
「白河酒造の弁護士が、お袋に破産宣告させる為に動いてくれる………借金はチャラになる……だが、お前の方は、俺が払ってやる、て言ってんだ………これでも、白河酒造で働いた金で地道に貯めた金だ………お前が欲しがった俺の全財産に近いだろうがな………紗耶香も白河酒造の俺の立場はやれねぇ………借金チャラと、目の治療費代を俺からの詫びとして受け取れ」
「……………くっ………」
「お前が、俺からの忠告を守るなら、これからも俺はお前の兄貴として傍にいてやる………これ以上、俺の邪魔するなら、とことんお前を排除するが如何する?………せっかくここで働き始めた職も奪うし、借金の援助も、治療費代もナシだ………お袋といつまでも仲良く暮らせや」
逃げたくても逃げれなかった理佳の存在。破産宣告をしてくれたら、借金に悩まされる事も無くなり、更に裕司が借金を肩代わりしてくれるのだ。
正攻法で、裕司を引き釣り下ろし、理佳と離れるよりか優馬の負担は少ない。
「…………分かった………母さんを破産宣告してくれ………」
「距離置くと約束するか?」
「…………うん………したかった………」
「…………親父の連絡先知ってるか?」
「…………知らない……」
「連絡してやれよ……心配してると思う」
「…………兄さんは会ってるのか?」
「航の店で会った………月1で、俺の様子を確認してたらしい………10年掛かったがな」
「……………仕事………戻るよ……」
「あ、おい!金は?」
「…………借り作りたくない……自分で自分の借金は返してく………兄さん、その金は必要で貯めてたんなら、自分で使いなよ」
優馬は、休憩を早めに終わらせて、仕事に戻ってしまった。
「やっぱり、裕司は優しい」
「あ?」
「そのお金、本当に優馬さんに貯めてたんじゃないの?」
「…………そういうつもりは無かったが、優馬になら使ってもいい、と思ってたのは事実だな………」
封筒をまた裕司はスーツに入れる。分厚い封筒はまた裕司に重量感を与えたが、行きより軽く感じたのは、気持ちが軽くなったからだろう。
「あぁ………もう、食べさせ合いなんて慣れてないから、本当恥ずかしかった!」
「これから慣れてくか?」
「…………2人きりの時にして!」
「プッ………したかったんじゃねぇか」
「…………それは……」
「…………結婚式に使うか……この金……」
「……………式場、あそこがいいな……」
「何処だよ」
「彬良さんのホテル」
「……………あぁ………そろそろ新婚旅行から帰ってくるな……」
「旅行の話聞きたいから、また皆で集まりたいね」
「………だな」
☆☆☆☆☆
白河家。
「え!何でホテルじゃいけないの!?」
「白河家は代々神社で神前式なのよ」
結婚式について、紗耶香は帰宅後、母に如何してたかを聞いていた。すると、白河家は昔から神前式を行い、屋敷内で親族にお披露目するだけなのだと言う。
親戚筋は決められてはいないが、本家になる紗耶香の家は覆せないのだと母は言った。
「私も結婚式場で挙げたかったのよ?でもお義父様がねぇ………」
「お祖父様なんて放っておいていいのよ!別荘に隠居してくれてれば!」
「そうはいかないわよ、紗耶香………幾ら隠居されたからと言っても、会社内の事は意見通らなくても、当主ではまだ居らるのだし……それに、裕司との結婚をまだお義父様に了解獲てはいないのよ?」
「…………そうだったわ……」
白河家のリビングで、母との会話で、めっきり存在感を無くした祖父の意見も聞き入れなければならないかもしれないと思うと、背中が痛む気がする。
「お嬢様、準備が整ったそうです」
「!…………本当?」
「紗耶香、キッチンで何をするの?」
「料理を覚えようかと」
「料理?………貴女は必要ないでしょう?」
「裕司に食べて貰いたい料理があるんです!裕司の好物は私が作りたいから」
「…………まぁまぁ」
もう家の中で塞ぎ込む姿を見せる事が無くなった紗耶香を見て、紗耶香の母も嬉そうだ。お手伝いの者達も温かく紗耶香と裕司を見守っている。
「お、お嬢様!卵を割る時は軽く殻を当てるだけで割れます!」
「あぁ!殻が中に入っております!」
「目を離してはいけません!焦げて……あぁ!」
キッチンから聞こえる料理人の嘆き。
「あらあら………先が思いやられるわね……」
「ただいま帰りました」
「あら、裕司………おかえりなさい」
「…………紗耶香様は?先に今日は帰宅しているかと……」
「紗耶香はキッチンよ」
「キッチン?」
「紗耶香様!だし巻き卵が炭になります!」
「…………だし巻き卵?」
「紗耶香が裕司の好物を作って食べて貰いたいそうよ?………今日は炭かしら?」
「…………胃薬用意しときます……」
「そうね、それがいいわ」
食品を扱う会社に勤めている以上、食べ残しには煩い白河家の食卓に、裕司の前に出された炭になっただし巻き卵を見て、裕司は苦そうに食べたのだった。
―――不味っ!
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