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恋愛開始
野獣対野獣擬き
しおりを挟む夕方、裕司のスマートフォンに着信が鳴り、仕事の手を止めた。
「…………もしもし」
『………兄さん……』
「優馬!てめぇ何してくれやがった!」
「こ、小松………会社でその………言葉使いは……」
「………あ、すいません……ちょっと場所変えます」
バイヤー部署から、喫煙所に来た裕司。
「優馬、脅迫文はお前のした事か!」
『…………違う………母さんだ』
「………変わらねぇだろ!お袋がやった事でもSNSの誹謗中傷も!」
『誹謗中傷を拡散してたのを、母さんが勝手に送ってたんだ………俺はただ、兄さんと俺の立場を入れ替えたかっただけ………』
「脅迫も誹謗中傷も一緒だ!優馬!俺にとっては一緒なんだよ!いいか!もう弁護士も動き出してる!もうお前は何もするな!」
『…………それは無理だね……』
「何?」
『白河酒造の令嬢に前科のある兄さんは不釣り合いでしょ……それを分からないお嬢様なんて、頭悪いよね?だから本気で落とすから、彼女が俺に落ちたら、兄さん諦めてその場所譲ってよ………兄さんは俺と航さんの妹には優しかったでしょ?』
「……………お前………頭イカれたな……」
『イカれてるのは兄さんじゃないか』
「お前に紗耶香は惚れねぇよ………それに、俺の優しさをお前と羽美にしか見せてたと思ってる勘違い野郎には、一生分からないだろうな」
10年以上会っていなかったのはお互い様で、お互い理解出来ていたのはそれ迄の事だ。それでも裕司には優馬より場数を踏んで来た世あたり上手であると自負している。
裕司は言いたい事だけ言って、優馬からの通話を切り、着信履歴から優馬の連絡先だと願い登録する。
―――お袋が勝手に脅迫文?……優馬とは別か?
仕事は溜まっているが、バイヤー部署に戻らず、裕司は社長室に面会を求めた。
「社長に会えないだろうか?」
秘書も裕司の顔見知りだ。一時期、秘書業務も教えてもらい、紗耶香の父に付いていた時もある。
「ちょっと待ってね……社長、小松君が面会を求めてますが……」
『…………裕司?入れてくれ』
「だって」
「サンキュ」
「お礼はデート一晩……」
「一昨日なら良かったがな」
「…………もぅ!」
後腐れない態度であしらわれる秘書は、何度も裕司に言い寄っていたのだろう。だが、裕司が靡く事も無いので、冗談交じりの挨拶になっていた。
前科があっても、その人間関係を積み重ねて来たのは裕司の力量だ。裕司に対する誹謗中傷は素行の悪さだけで、人間性は社内では悪く言う者も減っていた。
元々、クラブやバーでの裕司の評判は良かったのもある。その業績は裕司の力でもあったのを知る者も多く居たのだ。
「失礼します」
「裕司、如何した?急に」
「先日、俺の家族の所在地について渡して頂けましたが、アレに母親と弟は記載してましたか?」
「…………まだ見てないのか?」
「見てません………俺は家族に捨てられたので、俺からは連絡する訳にはいかないんです」
「…………裕司らしい答えだ……それで、あっちから連絡があった、と?」
「…………はい……誹謗中傷しているのは俺の弟です……紗耶香様の横を狙っています」
「…………ほぉ……君は如何するつもりだい?」
紗耶香の父は手を組み、その手に顎を乗せ見据える。
「横に居るのは俺1人で充分です………弟であっても譲らない」
「脅迫文は?………紗耶香から預かっているが」
「それは俺の母親です………母親の対応次第で俺は白河に牙向いたツケを払ってもらいます……弟は、俺が全力で紗耶香様を守ります」
「…………分かった……脅迫文を証拠に弁護士と警察に対応願う………そっちは任せなさい………弟の方は、裕司に任せる」
「…………はい」
「…………裕司」
「はい」
急に、真剣になっていた顔だった紗耶香の父の顔が綻び、裕司は首を傾げた。
「いい顔になったな」
「…………顔、ですか?」
「…………フッ………紗耶香を安心して任せる顔になった、という事だ………これが落ち着いたら、結婚式準備を始めなさい」
「っ!」
「何を驚く?覚悟していたんだろう?許可が降りただけじゃないか」
「ありがとうございます!」
慌てて裕司は頭を下げた。セットしていた髪は崩れる程、その一礼は早かった。
「紗耶香に伝えておく………それか自分で言うか?」
「自分で伝えます!失礼します!」
「フッ………」
社長室から、早足で出て行く裕司。
「小松君、休憩一緒にしない?」
「一生無理!」
「…………え?」
この時点から、裕司の女のあしらい方が変わるのだが、その意味は直ぐに社内の女性社員に知られる事になる。
「紗耶香!」
「!…………急にびっくりするじゃないの……如何したの?慌てて………珍しい……」
「結婚出来るぞ!」
「……………は?」
「だから、社長から許可降りたって言ってんだ!」
「……………う、嘘………」
「嘘じゃねぇ!認めてくれたんだよ!」
「……………本当に?」
「あぁ………紗耶香………俺と結婚してくれるよな?」
「うん!…………勿論よ!」
紗耶香が立ち上がり、裕司目掛けて抱き着いて行く。そこは飲食部署のフロア内。社員が多く居るフロアで、抱きしめ合う2人に奇声が挙がるのだった。
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