【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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野獣の弟と母

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 某所マンションで只管PCに向かい、SNSや記事を覗く優馬。

「…………っ!……クソッ!」

 左目を押さえ、顔を顰めてしまう。

「優馬ぁ………お酒買ってきて頂戴……」
「………母さん、自分で買ってきなよ………金渡しただろ?」
「もう無いわよ」
「なっ!………いい加減にしてくれよ!金金金金金!口を開けば金!………金を渡したら直ぐに使い込む………如何してそんなに金が要るんだ!」
「何って、優馬の目の治療費じゃないの……」
「もう俺の目は治らないんだよ!失明したままだ!治療ももうしてないのに、目の治療費で俺に要求するのは止めてくれ!」
「いいわよ………いい金づる見つけたし……」
「金づる?」

 酒に酔っているのか、ふらふらと所在不明な足取りで理佳は優馬のPC画面を指刺す。

「何日か前にいい金づる見つけたのよ………あの馬鹿息子がネットに出てるんだもの………笑っちゃったわ………何?あの子………刑務所出てそんな大企業に勤めて、社長令嬢と結婚?婿養子?あの馬鹿が!………大爆笑よ!」
「…………まさか……見たのか?」
「拡散してるんだってねぇ……優馬……喜びなさい…………母さんがあの馬鹿引き釣り下ろして、アンタを大企業の社長にしてあげる」
「…………何やったんだ?」
「何やった?…………はははははは……社長令嬢にアンタを売り込んでやったのよ!あの馬鹿より優馬のが優秀だってね!」
「…………どうやって!」
「手紙送っただけよ~……何怒ってるのよ、優馬」
「何で証拠が残る様な事したんだよ!手紙なんて残るだろ!俺が証拠残さない様に、アイツから全て奪うつもりだったのに、上手く行かなくなるだろ!」

 PC画面を閉じ、理佳に詰め寄る優馬。

「部屋から出てけ!」
「な、何よ!お金は?」
「渡せるか!出てけったら出てけ!」

 理佳を追い出すと、ドアに鍵が無いのか、開かない様にドアの内側に本棚を運ぶ優馬は頭を抱えた。

「SNS投稿もネカフェからやって拡散に持ち込んだのに………アカも俺に繋がらない様にしてまでやったのに………何で……母さんSNSやらないから見ないとばかり………脅迫してたら訴えられるじゃないか!」

 優馬の考えたのは正攻法だ。護衛が付いている紗耶香と2人きりになって、口説こうと思っていて、裕司より優馬を好きにさせてしまえば、優馬は母を捨て婿養子に入れば理佳から逃れられると思っていたのだ。
 裕司への恨みと、理佳が優馬に執着する呪縛から抜け出したかった優馬が、就職したカフェのオーナーが紗耶香で、紗耶香の恋人が生き別れた兄裕司だと知り、計画を思い付いたのだ。

 ―――兄さんは相変わらず、素行が悪そうだった……知的なあの女が兄さんに惚れるのなんて、一時の事さ………間違いを正してやれば直ぐに落ちる

 優馬は紗耶香と裕司の関係を薄っぺらい関係なのだと思っている。一瞬見た兄裕司が紗耶香を助けに入った時、一端の騎士の様に見えたのだ。それが紗耶香はほだれて、裕司を自分の物にしたい、と令嬢の我儘で決まった結婚だと思っている。

 ―――なるべく時空けずに会う様にしないと……

 と、優馬は理佳にまた手を出される前に動くのを決意した。

        ☆☆☆☆☆

「エスプレッソダブル頂戴」
「いらっしゃいませ………エスプレッソダブルですね?」
「そっくりだな、やっぱり……」
「…………え?」
「…………あぁ、その目……優馬だ」
「あの………何方でしょう?」
「覚えてねぇ?俺、航だよ………お前の兄貴の
「っ!」
「ほら、会計してくれよ……QRコードな」

 翌日、優馬が働くカフェに航がやって来る。

 ―――な、何で………航さんがこの店に……知らない筈だ………兄さんとまだ付き合いあるのか?

「なぁ、優馬………ちょっと休憩中に話出来ねぇ?」
「…………な、何の用事ですか?貴方の事知らないんですけど………」
「あ、そう来る?お前の、ここで暴露しようか?優馬」
「なっ!………わ、分かりましたから!30分後には休憩入りますから!」
「じゃ、その席に居るからな」

 優馬の幼い頃を知る航だ。都合の悪い事を暴露される訳にはいかない。それに優馬には兄弟が居ないと言って働いている。
 30分後、着替えて航の前に優馬は座った。

「何ですか?」
「…………お前、何で今更近付いた?」
「近付いた訳じゃないですよ………バリスタで雇われたカフェのオーナーが白河酒造の令嬢だと、知ったのは最近ですし」
「…………で?脅迫文送りつけてか?お袋さん使って………」
「母さんが勝手にやったんだ!………俺は……SNSに記事載せて拡散しただけだ……」
「…………お袋さんと住んでるのか?」
「……………それが何か?」
「お前は、何がしたいんだ?裕司の全て奪って」

 エスプレッソのカップを持ち、ふんぞり返って長身の足を組む航は目立つ。裕司と風貌が似ているのも優馬はよく知っていて、航も裕司と同等に女性からモテる存在だった。ただ航は硬派、裕司は軟派な為、航はチヤホヤされても靡かないが、カフェの女性客の注目は、優馬より航に行っている。

「航さん………フェロモン出し過ぎです」
「知るか……俺は俺のやりたい様にやる……何だ?お前のファン奪ってる、てか?」
「そ、そうじゃないですよ……俺は、兄さんから全部奪って兄さんを引き釣り落としたいだけだ」
「奪える訳ねぇじゃん、裕司だぞ?………アイツは前科云々で、堕ちる奴じゃねぇ………堕ち切った場所から這い上がって来て今の場所に居る。もう二度と闇に堕ちる訳にはいかねぇし、闇に堕とす奴が居たら、全力で阻止する………それが、裕司にとって大事な弟であってもな」
「っ!」
「お前が失明したのも、裕司は知ってる………裕司も責任感じてやがるが、俺は裕司にお前への贖罪なんてさせねぇぞ………脅迫するならな……」
「だから、脅迫文は母さんが………」
「一緒だろ……裕司の場所を奪う事をしようとするならな………あぁ、あと……紗耶香ちゃんと裕司は別れねぇぞ、何があろうとな」
「……………え?」
「理由は裕司に聞けよ………連絡先教えとく」

 エスプレッソのカップに、裕司の連絡先を書いて、優馬に渡すと航は店を後にした。
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