【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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野獣の弟

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 紗耶香が帰宅するので、駐車場に出ていた。
 運転手、護衛付の紗耶香だが、乗り込もうとしていた紗耶香に突然声を掛けられる。

「すいません!」
「え?」
「誰だ!」
「…………あ………」

 声を掛けてきたのは優馬だった。

「貴女を待っていたんです!」
「白河家のご令嬢に、無闇に近付くな!」
「………待って……系列カフェの店員よ……暴漢ではない………とは思うけど……話があるなら聞きます………でも、ここで話して………彼等は護衛なの……貴方とは2人きりにはならないわ」
「……………あ、あの……一目惚れしまして……付き合って頂きたい、と………」

 護衛と運転手に挟まれた優馬が、言い難そうに告白する。

「…………生憎だけど、結婚前提にお付き合いしている人が居るの………私は彼以外考えていないわ……ごめんなさいね」
「…………前科のある男は良くて、男は嫌なんですね………」
「っ!」

 裕司が前科持ちだという事を知らない護衛や運転手も居る。裕司より後から白河家に雇われた物は殆ど知らされてはいない。

「え?小松が?」
「お嬢様?」
「……………何故貴方は私のが、そうだと思うのかしら……」
「…………知っているからですよ、という男を……」
「では貴方は、裕司の何を知っているのかしら………私には情に熱くて優しい彼しか知らないの………友人の為に、暴力事件起こして、逮捕されても親友を裏切らない彼は私の誇りよ!」
「くっ!…………では、その男からぶん取らせて貰いますよ………この目の代償に」
「させないわ………もう治療は終わっている筈よ」
て物があるでしょう?オーナー……精神的苦痛、その頃の当面の生活費、治療費………で俺がこんな苦痛を味わってると思います?全部アイツのせいだ!学校の成績も落ち、志望校にも入学出来ず、俺は奈落に落とされたんだ!それなら、アイツの立場を奪って何が悪い!」

 負の連鎖がここにもあった。

「だから貴女をアイツから助けてあげますよ……」
「っ!」
「止めないか!……ぐあっ!」
「ゔっ!」

 紗耶香と優馬の間に護衛と運転手が割って入る。だが、武道をかじっているのか、護衛と運転手は投げ倒される。

「さぁ、俺と行きましょう」
「嫌っ!」
「紗耶香!」
「っ!」
「何だ!てめぇは!俺の女に何してやがる!」

 裕司も帰宅するつもりだったのだろう、自分の車で出勤している裕司が紗耶香に気付き、割って入ってくれた。
 優馬の腕を締め上げ、優馬を見下ろす裕司は、怒りを顕にしている。

「裕司!駄目よ!彼は………」
「誰だろうとお前に手出す奴は許さねぇ!」
「貴方の弟なの!」

 肩の関節を締め上げる裕司の腕が緩む。

「…………え?………お前………優馬なのか………?」
「ぐっ!」
「待て!優馬!」

 優馬は裕司と顔を合わせたくなかったのか、逃げてしまう。追い掛けようと裕司はしたが、足下に転がる護衛や運転手を見て、押し留まった。

「…………おい!大丈夫か!」
「………な、何とか……」
「こっちも、受け身とり損ね………たが……」
「乗れ!病院に連れてってやる!鍵は?」
「ポケットの中……」
「……………紗耶香も乗れ!」
「う、うん……」

 裕司は近くの病院を検索し、白河家の車を発進させ、病院に護衛と運転手を連れて行った。

「許さねぇ………優馬………」
「裕司………私は大丈夫だから」
「何で優馬が紗耶香を知ってる」
「…………系列カフェで働いていたのを、さっき知ったの………裕司に似てるから、私が『お兄さん居る』か聞いて、母子家庭だと返されたんだけど………そうしたら同行した子が『小松さんに似てますね』て………彼に聞かれたから」
「……………」
「ゆ、裕司?」
「あいつは頭がキレる……だから親父達は、俺に無関心になった………その会話で紗耶香が俺と関わってるのを知る材料にはなった、て事か………それで優馬は何て?」
「…………それ言って怒りそうだから、後で話すわ………ここは病院よ……」
「……………後で必ず聞かせてくれ」

 ピリピリと裕司から怒りを感じている紗耶香。診療中の護衛と運転手を待つ待合室で、横に座る裕司の手に紗耶香は自分の手を重ねる。

「…………うん……」
「…………タバコ……吸ってきていいか?」
「行ってきて………私は此処に居るから、ちゃんと戻ってきてよ?」
「戻るさ………ぶん殴りたい優馬の居場所なんて俺は知らねぇし」

 喫煙所に足取り重く歩いて行く裕司の後ろ姿は、悲しそうだった。

「………如何だった?」
「打撲で済みました……一応、鍛えてはいたので…」
「俺もです……でも無理はしないように、と」
「運転手や護衛は、私からお父様に変更頼むから大丈夫………貴方達は休暇を取りなさい」
「護衛は俺がやる………優馬を近付かせてたまるか」
「裕司は、裕司の仕事があるでしょ!」
「関係ねぇ………帰るぞ」

 ―――駄目だよ、裕司………護衛に戻っちゃ………

 怒りと悲しみに浸る裕司に、紗耶香はどう接していいかまた悩み始めるのだった。
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