【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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野獣の母子は野獣

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 紗耶香は日課の店舗監査に部下と来ていた。

「………うん、この店も好調ね」
「そうなんです、最近入られたバリスタがイケメンで、その人目当てに女性客も増えて」
「若い女性客は移り変わりが激しいんだから、余りあてにしないの」
「オーナーも若い女性じゃないですか」

 カフェの視察中でも、客ではないので厳しい目を怠る事はない。

「でも、その人長続きして居てくれたらいいわね……今居るの?」
「はい、彼処に居る彼です」
「サングラス?」
「視力が片目見えないそうで、義眼なので色が入っている眼鏡で目を隠しているそうです………それがまた女性客にバズってて」
「…………そう……片方の目が見えないのね……話出来るかしら」
「ちょっと待って下さい」

 店舗スタッフが義眼のバリスタに声を掛けに行くと、紗耶香は背筋が凍る。

「っ!…………貴方、お名前は?」
「佐原 優馬です………あの……やはりこの眼鏡駄目ですかね?………瞼にも傷があってそれも隠しておきたいんです」
「あ………いえ……貴方が真面目に仕事をしてくれていたら問わないけど、薄いレンズにしてくれているし、異物混入しないよう気を付けて下さいね」

 黒ではない薄い水色のサングラスで長めの前髪で極力隠している左目。

 ―――似てる……笑わない目が特に……あの時の裕司に……

「はい、勿論です」
「あの………お兄さん居たりします?」
「……………居ませんよ……母1人子1人の母子家庭ですが」
「そ、そう………ごめんなさい、変な事を聞いて………知り合いに似てるから……」
「代表、それって小松さんですかぁ?」
「っ!………ち、違うわよ!知り合いよ!知り合い!」
「……………小松……」
「あ、ごめんなさい、仕事に戻って下さい」
「…………失礼します」
「もう!今裕司の話出さないでよ!」

 バリスタの優馬が離れた時、紗耶香は部下に惚気話を振り掛けられ、裕司の事を考えていたのを優馬に知られてしまう。
 偶然ではあるだろう、この出会い。優馬に紗耶香が睨まれていたとは、優馬以外誰も知らなかった。
 紗耶香が各店舗視察を終えて、帰社したのは夕方で、如何しても優馬が気になった紗耶香は、社長室に駆け込む。

「お父様、今宜しいですか?」
「如何したんだ?紗耶香」
「あの………裕司って弟さん居ます?」
「…………」

 PCの画面に向いていた紗耶香の父は、手を止めて紗耶香に問う。

「裕司に渡した茶封筒は紗耶香は見ていないのか?」
「見ていません………裕司も見てはいないと思います」
「では、紗耶香は如何して知った?」
「新店舗の店の視察に行ったら、バリスタが裕司にそっくりで……」
「名は?」
「確か、佐原 優馬……」
「…………そうか………紗耶香、彼には気を付けなさい……裕司の弟に間違いないだろう……」
「気を付けなさい、て何ですか?私、裕司のお父様には会いましたけど、そんなに悪い印象は無かったです」

 紗耶香の父は、机から離れソファに移動すると、紗耶香に目配りした。

「座りなさい」
「は、はい」
「あの茶封筒に記載した所在地には裕司の父親のしか記載していない」
「バラバラなんですか?お父様の所在地だけって………」
「離婚していて、母親と弟も調べてはいたが、どうも裕司だけでなく、こちらには良くない気がして、あの茶封筒には母親と弟の所在地は記載しなかった」
「な、何故ですか?」
「…………金銭的要求して来るかとな」
「…………それは、裕司を恨んでるからですか?」

 紗耶香も見た優馬の目。笑顔でいても目が笑わない表情が裕司と似ている。
 紗耶香に裕司は家族離散した事しか聞いてはいないのだ。白河家が調べ挙げる事でも、紗耶香自身が出来る権限は無く、裕司に対して身辺調査をしたいとは思ってはいない。知りたければ本人から聞きたいからだ。

「………そうだ……裕司の弟を見たら分かるだろうが、彼は裕司が逮捕されてから、暴力事件の被害者になっている」
「それで目が………」
「治療費工面も大変だったんだろう……母親は金融機関に借金も作っている………弟本人にもあると調べがついている」
「で、でもそれなら……裕司にも責任ある筈で、裕司が弟さんを放っておくとは……」
「だからだ」
「………え?」

 裕司を知る紗耶香なら、裕司は優馬をまだ家族と見ているなら、助けようとするだろう。先日の裕司の父との対面での裕司は、スッキリとした顔をしていたのだ。母親や弟にも同じ事を望むかもしれない。

「治療費も調べていたが、既に完済しているのに借金をしている………それはおかしいだろう?使い道も私利私欲の物の様だ」
「……………それが理由で、気を付けろ、と……」
「そうだ……裕司に金を要求して来る可能性もあるから、母親と弟の所在地は記載していない………離婚しているから、父親の方は教えた………だが、何故茶封筒を見ていないのに、父親に会えたんだ?」
「…………お父様が割烹料亭おさないに、月に一度食べに来られていて………裕司は知っていたみたいでしたけど」
「…………あぁ……納得した……小山内氏側から知らされたのか……それで紗耶香の印象は?」
「裕司に謝ってました……何を話ていたかは聞いてはいませんが………裕司は戸惑ってましたが話が出来て嬉しそうでした」
「…………そうか………それならいい……だが、母親と弟には………」
「裕司に話た方がいいですか?」
「…………それは私の方から伝えておこう」
「…………はい……お願いします」

 紗耶香が、裕司に秘密を持ってしまった。今迄裕司には秘密を持った事は無かったのだが、この件に関しては注意が必要だった。
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