【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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野獣の涙

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 暫くして、裕司と裕司の父は個室から出て来る。

「裕司、元気でな」
「…………親父もな」
「お前が許すなら…………いや……止めておこう……幸せになりなさい」
「…………あぁ……」

 裕司の父が言いたい事は、航の両親なら理解出来るが、裕司と裕司の父の会話には入り込まず見守っていた。
 また会えるなら、会いたいと言うつもりだったのだろう。だが、裕司にはまだ分からない。親になった事もないのだから。

「挨拶してきていいか?彼女に」
「…………あぁ……気にしてる筈だから……」
「…………」

 裕司が紗耶香の事を語る時は穏やかな表情になるのを、裕司の父は気が付く。それに、フッと笑みを見せ、紗耶香の方へとの歩く裕司の父。
 紗耶香も自分の方へと来る裕司の父に失礼の無いように、箸を置き立った。

「先程は失礼したね………裕司の事、宜しくお願いします」

 一礼した裕司の父に、紗耶香も一礼する。

「こ、こちらこそ………宜しくお願いします」
「…………私では、宜しくお願い出来ないよ………裕司が許さないだろうからね………婿養子に入ると聞いた………有り難い縁に感謝します………小山内さん、裕司を………息子が迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした……そしてありがとうございました」
「いえ………裕司が居てくれたから、今の航が居るんです……裕司もまた航が居たから、今の裕司があるので、お互い様ですよ、小松さん」
「そうですよ」
「…………ありがとうございます……また、食べに来ますので……その時は裕司に知らせなくていいからね、航君」
「ははは……」
「航君も裕司の友達で居てくれてありがとう……」
「またのお越しをお待ちしてます」
「…………親父……
「っ!………あぁ……

 裕司の父の目頭にうっすらと涙が浮かぶと、踵を返し、店を出て行った。

「和解出来たんか?裕司」
「…………あれがと言うのか?分かんねぇよ……俺は航みたいな親子の関係では無いし、許してねぇし許されているとは思えねぇから、和解は出来てねぇと思う」

 裕司が個室で話している間に、店にはお客が入れ替わっていたが、深刻そうな話をしている裕司達を気にするお客もちらほら見えた。

「裕司………早く座って食べて行け」
「あ………あぁ、ごめんおじさん」

 裕司が紗耶香の横に座ると、出来上がったばかりのだし巻き卵と、煮魚が裕司に出される。

「お前の親父さんが好きな物だ……今日も食べていった…………親父さんと同じ物食べて行け………ずっと食卓囲んでこなかったろ?親父さんと……」
「………っ!」
「それにな………親って者は、いつ迄も子を思ってるもんさ………鹿な」

 昨今、そういう親ばかりではないのだが、裕司の父はその類いではない事を知ったばかりの裕司。
 そして、目の前に置かれただし巻き卵は裕司の好物だ。それを知っていたのかいなかったのかは裕司には分からない。今更不器用な父だと分かり、思わぬ涙を溢す裕司。

「因みにね、裕司君……小松さんに裕司の好物は何ですか?と聞かれたのよ?」

 そっと、淹れ直された温かいお茶を差し出す航の母。

「好きよね?だし巻き卵」
「……………うん……」
「毎回食べてたぜ、親父さん」
「…………そっか………」
「……………」
「っ!泣いてねぇよ!」
「……………」

 横に座る紗耶香からハンカチを出され、裕司は拒否すると、紗耶香の表情が強張っている。

の物使えないものね?」
「…………おまっ………貸せ!」

 裕司は以前、『紗耶香様の物は使えない』と、紗耶香を引き離した経緯を思い出す。それに傷付いた紗耶香にまた同じ様な思いをさせるつもりはなかった裕司は紗耶香から差し出されたハンカチを奪っていった。

「…………ごめん……思い出しちゃって変な顔したね」
「何でお前が謝るよ……俺のプライドで今は跳ね除けただけだ………あの時とは違う」
「恥ずかしがり屋さ~ん」
「航!てめぇ!」
「裕司!お店に迷惑掛かるってば!」

 航に揶揄われ、逃げる様にカウンター内に入って行く航を捕まえ様とした裕司を掴む紗耶香。

「…………はぁ……腹減った……」
「うん、食べよ」
「……………うめっ……マジ久々のだし巻き卵」
「…………だし巻き卵作ってみる」
「………多分無理………おじさんや航の作った出汁じゃねぇとこの味は出せねぇな」
「…………」

 美味しそうに頬張る裕司の隙を抜き、紗耶香もだし巻き卵を摘む。

「あ!俺の!」
「いいじゃない………本当……美味し……」
「だろ?………あぁ美味い」
「作り方教えてもらえないかなぁ」
「…………料理教えて貰えよ、家の料理人によ」
「でも、この味は出せないんでしょ?」
「それでも、店の味は教えて貰えねぇと思うし、先ず基礎覚えたら如何だ?」
「…………そうだよね」

 裕司は余程お腹が空いていたのか、バクバクと掻き込んでいた。
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