【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

文字の大きさ
上 下
43 / 59
恋愛開始

10年振りの再会

しおりを挟む

 割烹料亭おさないに紗耶香を連れて着いた裕司。
 まだ紗耶香には裕司がこの店に来た意味を伝えてはいない。

「久しぶり~……また煮凝り食べれるかな」
「お前、見た目で気に入ったもんな」
「季節に合わせて綺麗なんだもん」
「はいはい………女子だねぇ」

 見た目綺麗で可愛い物が好きな紗耶香。30歳過ぎた裕司にはその感覚は無い。

「いらっしゃいませ」
「2人ですけど」
「ご無沙汰してます」
「まぁ、紗耶香ちゃんも一緒?………カウンターでいいかしら?」
「……………今日、テーブル空いてたらそっちでいいです?………居るんでしょ?」

 航の母が出迎えた店内。

「カウンターでお願い出来るかい?」
「っ!」

 普段なら、航が居る前に座る裕司だが、航の父がカウンターを促し、航の父の前に目配りされた裕司。航の前には、裕司の父が黙々と食事していて、L字のカウンター越しに向かい合う様な位置になっている。

「裕司?」
「しっ!」

 名前は控えてくれている航の両親。その対応に紗耶香は疑問の色を見て、裕司の顔を覗き込むが、裕司に紗耶香は止められる。

 ―――白髪増えてやがる……何だよ、あの老いぼれ………航の親父より老けて見えるぞ

「………さ、飲み物如何します?」
「あ………車なんで、俺はお茶で………紗耶香は飲むよな?」
「私もお茶でいいよ……お酒飲みたいのに1人我慢させたくないし」
「帰ったら飲むさ」
「じゃ、私もそれに付き合う」
「は?………部屋飲みしてぇのに、お前との部屋行き来出来ねぇんだから、付き合う事ねぇよ」
「よぉ………」
「…………おぅ……」
「ほれ、お茶」
「サンキュ、航」
「……………」
「っ!」
「……………」

 平日の客が少ない店内では会話が耳に入りやすい。しかも、紗耶香と裕司にお茶を持って来たのは航で、親しげな雰囲気でいる裕司と航に勘付かれたのか、裕司の父は裕司を見ていた。
 目が合った瞬間、裕司は目を逸らしてしまう。

「…………女将、ごちそうさま……会計してもらえるかい?」
「あ、はい!少々お待ち下さい」

 ―――やっぱり、俺に無関心は相変わらずか……俺を見ても分かんねぇよな……

「こちらになります」
「…………元気そうで安心した、と伝えて下さい………私はもうここには来ない様にしますから……」
「まぁまぁ、そんな事仰らずに………結婚するらしいんですよ?息子さん」
「…………隣のお嬢さんと?」
「その様です……可愛らしいお嬢さんでしょう?」
「…………そう………ですか………私の様になるな、と………それも伝えて下さい」
「……………何だよ!話掛ければいいじゃねぇか!何おばさんとコソコソ俺の事話てんだよ!」
「ゆ、裕司?ちょっと!お店にご迷惑掛けるから!」

 カウンターの隅に座る裕司をチラチラと見て、航の母と話をしていたら、流石に裕司も分かってしまう。自分の事を話ていると。
 他に2組程しか居ない店内で、裕司は注目を集めてしまう。

「裕司………すまなかったな……こんな父親で」
「っ!………如何でもいい!………てめぇは……てめぇ等は………親でも何でもねぇ!航の両親のが俺に親らしい事をしてくれたよ!二度と俺の様子を伺いに来るんじゃねぇ!」
「裕司!」
「くっ!」

 航の父親が裕司に怒鳴る。

「黙れ、裕司………小松さんはそれでもお前の父親だ………どんな親だろうと親は親だ………ここに来ている理由はお前は知らないし俺も知らない………だが、来てくれているのはそれなりの贖罪の念なら、お前も聞く権利はあるんだ………知りたいからお前は今日来たんだろ………航、奥の個室で話させてやれ」
「…………分かった………裕司、飯はそっちに運ぶから親父さんと話せよ…………紗耶香ちゃんは……」
「…………わ、私は後から裕司に聞きます……私に聞かれたくない事もあるかもしれないし」
「行かね………悪い………今日は帰るわ……無視してくれりゃ良かったのによ………胸糞悪い」
「っ!ちょっと来い!」
「!」

 航が傍に居たので、裕司の服の襟を掴み店の外に連れ出して行く。

「航!離せ!」
「いいから来い!」
「すいませんね、お騒がせしまして………後は大丈夫ですから」

 何が大丈夫なのか、と言いたいが、航の母はその場を収め、裕司の父に声を掛けた。

「小松さん、謝罪だけなら簡単なんですよ?裕司君の積年の苦悩を一度の謝罪で済まそう等はなさらない様になさって下さいね…………貴方方が裕司君にして来た事は、私達も許せた物では無かったんですから」
「…………謝罪等出来ましょうか……親らしい事をして来なかった私を許せないのは分かっています……この店に来たのは、裕司の様子を伺えられるだけで良かった………まさか会えるとは思わなかったので驚きましたが………結婚……するんですね……本当に私の様になるな、と言えればそれで………」
「また逃げるんですか?裕司から」
「紗耶香ちゃん」
「…………裕司の………」

 紗耶香が、裕司の父に近付いて、航の母との会話を聞いていたからか、口を出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

俺は彼女に養われたい

のあはむら
恋愛
働かずに楽して生きる――それが主人公・桐崎霧の昔からの夢。幼い頃から貧しい家庭で育った霧は、「将来はお金持ちの女性と結婚してヒモになる」という不純極まりない目標を胸に抱いていた。だが、その夢を実現するためには、まず金持ちの女性と出会わなければならない。 そこで霧が目をつけたのは、大金持ちしか通えない超名門校「桜華院学園」。家庭の経済状況では到底通えないはずだったが、死に物狂いで勉強を重ね、特待生として入学を勝ち取った。 ところが、いざ入学してみるとそこはセレブだらけの異世界。性格のクセが強く一筋縄ではいかない相手ばかりだ。おまけに霧を敵視する女子も出現し、霧の前途は波乱だらけ! 「ヒモになるのも楽じゃない……!」 果たして桐崎はお金持ち女子と付き合い、夢のヒモライフを手に入れられるのか? ※他のサイトでも掲載しています。

処理中です...