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恋愛開始
10年振りの再会
しおりを挟む割烹料亭おさないに紗耶香を連れて着いた裕司。
まだ紗耶香には裕司がこの店に来た意味を伝えてはいない。
「久しぶり~……また煮凝り食べれるかな」
「お前、見た目で気に入ったもんな」
「季節に合わせて綺麗なんだもん」
「はいはい………女子だねぇ」
見た目綺麗で可愛い物が好きな紗耶香。30歳過ぎた裕司にはその感覚は無い。
「いらっしゃいませ」
「2人ですけど」
「ご無沙汰してます」
「まぁ、紗耶香ちゃんも一緒?………カウンターでいいかしら?」
「……………今日、テーブル空いてたらそっちでいいです?………まだ居るんでしょ?」
航の母が出迎えた店内。
「カウンターでお願い出来るかい?」
「っ!」
普段なら、航が居る前に座る裕司だが、航の父がカウンターを促し、航の父の前に目配りされた裕司。航の前には、裕司の父が黙々と食事していて、L字のカウンター越しに向かい合う様な位置になっている。
「裕司?」
「しっ!」
名前は控えてくれている航の両親。その対応に紗耶香は疑問の色を見て、裕司の顔を覗き込むが、裕司に紗耶香は止められる。
―――白髪増えてやがる……何だよ、あの老いぼれ………航の親父より老けて見えるぞ
「………さ、飲み物如何します?」
「あ………車なんで、俺はお茶で………紗耶香は飲むよな?」
「私もお茶でいいよ……お酒飲みたいのに1人我慢させたくないし」
「帰ったら飲むさ」
「じゃ、私もそれに付き合う」
「は?………部屋飲みしてぇのに、お前との部屋行き来出来ねぇんだから、付き合う事ねぇよ」
「よぉ………」
「…………おぅ……」
「ほれ、お茶」
「サンキュ、航」
「……………」
「っ!」
「……………」
平日の客が少ない店内では会話が耳に入りやすい。しかも、紗耶香と裕司にお茶を持って来たのは航で、親しげな雰囲気でいる裕司と航に勘付かれたのか、裕司の父は裕司を見ていた。
目が合った瞬間、裕司は目を逸らしてしまう。
「…………女将、ごちそうさま……会計してもらえるかい?」
「あ、はい!少々お待ち下さい」
―――やっぱり、俺に無関心は相変わらずか……俺を見ても分かんねぇよな……
「こちらになります」
「…………元気そうで安心した、と伝えて下さい………私はもうここには来ない様にしますから……」
「まぁまぁ、そんな事仰らずに………結婚するらしいんですよ?息子さん」
「…………隣のお嬢さんと?」
「その様です……可愛らしいお嬢さんでしょう?」
「…………そう………ですか………私の様になるな、と………それも伝えて下さい」
「……………何だよ!話掛ければいいじゃねぇか!何おばさんとコソコソ俺の事話てんだよ!」
「ゆ、裕司?ちょっと!お店にご迷惑掛けるから!」
カウンターの隅に座る裕司をチラチラと見て、航の母と話をしていたら、流石に裕司も分かってしまう。自分の事を話ていると。
他に2組程しか居ない店内で、裕司は注目を集めてしまう。
「裕司………すまなかったな……こんな父親で」
「っ!………如何でもいい!………てめぇは……てめぇ等は………親でも何でもねぇ!航の両親のが俺に親らしい事をしてくれたよ!二度と俺の様子を伺いに来るんじゃねぇ!」
「裕司!」
「くっ!」
航の父親が裕司に怒鳴る。
「黙れ、裕司………小松さんはそれでもお前の父親だ………どんな親だろうと親は親だ………ここに来ている理由はお前は知らないし俺も知らない………だが、来てくれているのはそれなりの贖罪の念なら、お前も聞く権利はあるんだ………知りたいからお前は今日来たんだろ………航、奥の個室で話させてやれ」
「…………分かった………裕司、飯はそっちに運ぶから親父さんと話せよ…………紗耶香ちゃんは……」
「…………わ、私は後から裕司に聞きます……私に聞かれたくない事もあるかもしれないし」
「行かね………悪い………今日は帰るわ……無視してくれりゃ良かったのによ………胸糞悪い」
「っ!ちょっと来い!」
「!」
航が傍に居たので、裕司の服の襟を掴み店の外に連れ出して行く。
「航!離せ!」
「いいから来い!」
「すいませんね、お騒がせしまして………後は大丈夫ですから」
何が大丈夫なのか、と言いたいが、航の母はその場を収め、裕司の父に声を掛けた。
「小松さん、謝罪だけなら簡単なんですよ?裕司君の積年の苦悩を一度の謝罪で済まそう等はなさらない様になさって下さいね…………貴方方が裕司君にして来た事は、私達も許せた物では無かったんですから」
「…………謝罪等出来ましょうか……親らしい事をして来なかった私を許せないのは分かっています……この店に来たのは、裕司の様子を伺えられるだけで良かった………まさか会えるとは思わなかったので驚きましたが………結婚……するんですね……本当に私の様になるな、と言えればそれで………」
「また逃げるんですか?裕司から」
「紗耶香ちゃん」
「…………裕司の………」
紗耶香が、裕司の父に近付いて、航の母との会話を聞いていたからか、口を出した。
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