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恋愛開始

野獣の願い

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「おばさん」
「何?」
「…………いつになるか分からねぇけど、今付き合ってる女と結婚しようと思ってる………そしたらさ………おじさんとおばさんが両親代わりに出てくれねぇ?結婚式」
「…………裕司……お前……」

 厨房で、仕入れた材料を片付ける裕司は、中学高校の時、手伝っていた事で思い出してやっている。

「裕司………それは出来ないぞ」
「!」
「そうね、おばさんも出来ないわ」
「お前の両親は2人だけだ………連絡取り合わなかったとしてもな………だが、お前の結婚式なら喜んで行かせてもらう」
「おじさん………」
「俺、裕司と兄弟扱いされたくねぇぞ」
「…………」
「お前は俺の親友だ」
「…………航…………あぁ、そうだな……」

 厨房には航の父親も居て、仕込み最中だった。
 裕司の結婚については、航の両親は喜んでくれている様で、裕司も嬉しそうな顔を見せる。

「裕司の親父さんは、月に一度顔出す………その時に航から連絡してやれ」
「何だよ、親父………裕司の親父さん知ってたのか」

 大根の桂剥きをしながら、航の父は手を止めずに語る。

「裕司が、警察に捕まった頃、新しい住所と連絡先を知らせていったからな………『裕司が世話になって、また世話を掛けるかもしれないから』と………後悔していそうだったが、あれだけ裕司を放置しておいて、今更何を言うんだ、とお前の親父さんを詰ったが………面目ない、と平謝りだ………俺もお前の両親は許せんが、来たら知らせてやる」
「…………俺の母親は?」
「そっちは知らんな……来た事もない」
「……………」

 裕司が上着から茶封筒を取り出す。

「何だよそれ」

 航が裕司の手の中にある茶封筒を見つめた。

「俺の両親と弟の所在地」
「それがか………見ないのか?」
「…………見るかよ………だが、航………親父が来たら知らせてくれ……」
「分かった」

 裕司が悩んでいるのは明らかで、航は頷く。
 裕司の手に握り締められた茶封筒は、航が裕司を送って行く迄、握り締められていた。

       ☆☆☆☆☆

 後日、航から夜間に連絡が裕司に入る。

『来たぜ、親父さん』
「…………そうか………まだ仕事してるんだが、終わったら行く」
『その前に帰りそうだったらまた連絡する』
「頼む」

 裕司の仕事はバイヤーだ。紗耶香とは違う仕事をしている為、別行動になる日が続き、仕事中は会えないのだが、裕司はマンションを引き払い、白河の家に移り住んで数日が経っていた。

 ―――白河家に連絡入れとくか……飯要らねぇし

 ♫•*¨*•.¸¸♪✧

「っと………紗耶香か」

 外回りに出ていた裕司に紗耶香から連絡が入る。

『裕司、今日は仕事早く終わる?』
「もう終わるが、航ん所行って帰る」
『お店に食べに行くの?』
「………まぁな」
『ズルい!私も行きたい!』
「……………言うと思った……車で行くぞ?俺……酒は付き合わねぇからな」
『いいよ、それでも………会社で待ってる』
「…………あぁ」

 店長だったバーは後輩バーテンダーに全て任せ、バイヤーとして新たな仕事を覚えるのに必死ではあった裕司だが、経営側は諦めていた訳ではない。
 少しでも、紗耶香の役に立ちたくて、他部署であろうとも初心で仕事に取り組んでいた。会社内では未だに紗耶香の扱いにされてはいたが、裕司は無視をし続け、やっと言われなくなった時に、裕司の両親の話を聞かされ、なかなか落ち着く隙は無い。

「裕司!」
「…………お疲れ、紗耶香」
「…………何かあった?」

 会社に戻ると、バイヤー部署の部屋前で待っていた。

「…………よく分かったな」
「如何したの?」
「後で話す………後処理してくるから、飲食部署で待ってろよ」
「別にここでも変わらないわ」

 紗耶香への風当たりは、いい物では決してない。それは、裕司の存在もある。端から見れば、裕司は逆玉の輿なのだから、やっかみも強いが紗耶香の祖父が居た時と比べられた紗耶香の変貌振りが、男で変わり、その事で色目を使う女だと思われているのを、紗耶香も気が付いている。
 紗耶香は威圧的態度を止めただけで、言われているのだから、まだ社内の反感も強かったが、社員より祖父の方が怖かった紗耶香には平気な顔を見せていた。

「…………そうか……じゃ、待ってろよ」
「小松、この商品なんだが」
「………何かありました?」

 酒の知識は紗耶香の引けを取らない裕司に、商品説明を聞いて来る社員も見られる様にもなり、紗耶香はその姿を見れるだけで約得に思えた。

「………また来てる」
「別れてくれないかしら………私狙いたいのに」
「無理無理……以外相手してくれないじゃない」

 ―――少し前なら、だけでも、嫉妬したけど、自信付いたからかな

「別れねぇぞ、俺は」
「「!!」」

 同僚社員、特に女達には冷たい態度になる裕司が見れる優越感も味わえるからだろう。地獄耳なのかという目で見られながら、裕司は仕事を終えて、紗耶香の方に来ると、冷たい表情から柔らかい表情になる裕司。

「行くぞ」
「うん………お先に……残業も程々にして下さいね」
「「「「は、はい」」」」

 こんな事は日常茶飯事で、早く社内が落ち着いて欲しいと思っている紗耶香と裕司だった。
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