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恋愛開始
謝罪からの転機
しおりを挟む「この部屋でお待ち下さい、紗耶香様」
「お父様の書斎ではないの?」
応接室に紗耶香と裕司は通された。
白河の家に到着して、いつも以上にひっそりとしていて、人も気配も少ない。
「はい………小松と共にお待ち下さい」
「……………分かったわ」
応接室に通されたとしても、座る気にもならない。帰宅後、着替える事なくそのまま通されて、昨日の姿のままだ。
「静かじゃね?」
「裕司もそう思う?」
「…………なぁ……」
「ん?」
「もし………さ……」
「もし?」
「許されねぇなら………白河の家出て行く覚悟、お前ある?」
「………………え?」
「………まだ、俺はお前の横に並べねぇ……努力してもまだ追い付かねぇ……それでも、しがみつくつもりではあるが、社長に俺は要らない、て言われたら家捨てる覚悟あるか?」
「…………裕司………」
「今決めてくれ………俺はお前と離れる気はねぇからな」
「…………付いて行く!連れて逃げて!」
「…………分かった………」
裕司がまたそれから口を噤むと、紗耶香は何も声を掛けられなくなってしまう。
「っ!」
紗耶香はチラッと裕司を見ると、初めて会った時の様な表情で1点を見つめていた。それは、紗耶香の祖父の肖像画だ。睨みつける殺意を感じる。
―――裕司……お祖父様を嫌っていたから……
カチャ。
「「!」」
「…………如何して座ってないんだ?紗耶香」
「お父様………言い付けを守ら………裕司!」
紗耶香が土下座しようと、屈み掛かると裕司に止められる。
「社長!申し訳ありませんでした………紗耶香様を外泊させてしまった責は俺にあります!お怒りは俺だけにして下さい!」
頭を深々と下げ、裕司が1人悪いのだと強調する。それでも叱咤されるなら土下座も厭わないぐらいの姿勢だ。
「お前達は結婚前提に付き合っているんじゃないのか?」
紗耶香の両親が応接室のソファに座って、裕司を見据えている。
「………それは………そうなのですが……」
「紗耶香」
「は、はい………」
「紗耶香は、裕司以外の男は嫌なんだろう?」
「はい!裕司以外の人は嫌です!」
「裕司は?」
「…………俺も………紗耶香以外考えられません……」
「…………それなら、裕司………早々に今住んでいるマンションを引き払い、この家に入れ」
「「…………え?」」
「部屋は紗耶香の部屋とは別にしてもらうが、バーの店長は辞め、昼の仕事に徹しなさい………結婚したくば、早く認められる様に努力を今以上にする様に………仕事振りは評価しているんだ……私達の納得行く領域迄、這い上がってきなさい」
「お父様…………怒ってはいないんですか?」
拍子食らうぐらいの、想像とは違う雰囲気に紗耶香も裕司もキョトンとしている。
「怒るも何も……元々私達は、速水氏との見合いは反対していたしな」
「えぇ………紗耶香は、ずっと裕司ばかり見てましたし」
「裕司もずっと紗耶香を見ていたから、裕司に頑張って貰わなければ、とは思っていた……お父さんだけが反対していた所で、あの一件だったんだよ……白河の為には、裕司の努力は並大抵の物ではないし、反対している素振りを見せておかないと、甘えてしまうだろう?………だからといって、まだ結婚はさせないがね」
「「……………」」
覚悟してこの場に立っていたのに、本当に拍子抜けで、裕司は力が抜けて床にへたり込んだ。
「裕司!」
「…………あ………あぁ………」
「婿養子には入って貰うが、小松姓に拘っている訳ではあるまい?」
「………拘ってはいません………両親の所在なんてもう興味失せましたし」
「…………裕司……これを渡しておく」
紗耶香の父は、裕司に茶封筒を差し出す。
「………何ですか?これ………」
茶封筒を不思議に思い、手に取ってしまった裕司。
「君の家族の現在所在地だ………裕司の事は彼等には知らせてはいない……望むなら伝えても構わないが?」
「っ!………要りません……捨ててもらって結構です」
「裕司………いいの?」
「…………まぁ、見るか見ないか、捨てるかは裕司に任せる………持っておきなさい」
紗耶香の父は、一度裕司に渡した物を、受取もしなかった。
「…………それで、裕司……引っ越しは早めに頼むよ………紗耶香の外泊が重なるとか、門限ギリギリに帰宅するのは、私達も心配でね」
「…………っ!」
「お父様!」
「だからといって、お互いの部屋の行き来はまだ許す訳にはいかない……その代わり休日は同じ日にするのは許す………裕司も車を所持しているだろう?家に持ってきて構わないよ」
本当に意外とも言える紗耶香の両親の態度に、紗耶香も裕司も固まってしまって、空いた口が塞がってはいない。
「…………では、紗耶香疲れているだろう?……ゆっくり休みなさい…………裕司は引っ越しの手が足りねば、人を連れて行きなさい」
「……………そ、それは大丈夫です……」
紗耶香の両親は紗耶香を連れて行ってしまい、裕司はポツン、と応接室に残されたのだが、1人後から応接室を出て来ると、顔見知りの白河家で働く者達が、裕司に笑顔を見せていた。
「良かったな、小松」
「お嬢様を幸せにして下さいね、裕司さん」
「な、何だよ!様子伺ってたのかよ!」
「当たり前だ!あんな分かりやすい態度をずっと続けてたら、屋敷の者は皆知ってるさ」
「なっ!」
「早く荷物運んで来いよ!」
白河家から追い出される様に、帰らされた裕司は、帰る足取りは軽かった。
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