【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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謝罪に向けて

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 チェックアウトの為にフロントに降りて来た紗耶香と裕司。まだ朝7時という早い時間でチェックアウトには時間はまだあったのだが、裕司が紗耶香を送り届けるという焦りから、早めに出る事にした。

「料金は発生しておりません」
「え?無料って事か?」
「はい………支配人の結婚式プランに入っているお部屋を、との事なので、料金は支配人側から精算済みとなっております」
「…………その支配人は今何処に?」
「今日は………」

 確かに紗耶香と裕司が泊まった部屋は、元々茉穂と彬良が泊まる予定で、結婚式のプランに組み込まれていたのだから、精算は彬良の方に行くのは分かってはいた裕司だが、流石に無料で泊まらせてもらう訳にはいかなかった。

「裕司、早いな……もうチェックアウトするのか?」
「!………彬良!」
「私が対応するから、業務に戻って下さい」
「はい、支配人」
「こっちに………」

 裕司の横から、出社した彬良が声を掛けて来る。
 フロントのソファで待つ紗耶香の方へと彬良に連れて行かれた裕司。

「何だよ、奢られるつもりはないぞ?幾らだ?1泊」
「気にすんな………俺達の結婚式なんて金はそんなに掛けてねぇ……新たな結婚式プランの模擬式兼ねてだからほほ経費で落ちてんだよ」
「それでも金掛かってんだろ?」
「まぁな………だから、お前達の結婚式代でチャラにしてやるよ」
「なっ!阿呆か!………俺達の結婚式なんていつになるか分からねぇんだぞ!」
「そんなの分からねぇだろ………裕司も紗耶香ちゃんも本気なんだろ?それなら、紗耶香ちゃんの親父さんに当たって砕けろよ…………俺と茉穂は明日から新婚旅行で1ヶ月居ねぇから、帰って来たらまた話を聞かせろ」
「1ヶ月!新婚旅行に1ヶ月も行くのか!」
「新婚旅行に1ヶ月………彬良さん凄い……」

 紗耶香も裕司と彬良の会話を聞いている。

「系列ホテル回りなんでね……視察と監査、挨拶回り兼ねてるから、観光なんてのは先ず出来る暇なんてないよ」
「仕事込かよ」
「迷惑な話だろ………クソ親父の入れ知恵さ」
「それでも、茉穂ちゃんと結婚したんだからいいじゃねぇか」
「条件なんだよ、親父の………茉穂との結婚許す代わりに戻って来い、て言われてよ………弟妹達は俺が戻ったのは大反対だがな」
「いいのかよ、お前はそれで」
「俺を誰だと思ってるよ……柄悪いお前や航筆頭に族束ねてきた俺だぞ?のうのうと甘い汁吸ってきた弟妹達なんて可愛いもんさ」
「言わせねぇ、て面だな」
「当然…………宿泊費は気にすんな………俺は仕事あるからもう行かねぇと………じゃあな、裕司、紗耶香ちゃん」
「……………サンキュ、彬良」

 彬良が腕を上げ、紗耶香と裕司に背を向けて去った先に、茉穂も居て手を振っていた。

「心遣い嬉しいね………裕司はいい友達持って幸せよ」
「紗耶香もだろ?………羽美も茉穂ちゃんもいい子達だ」
「うん」
「大事にしろよ」
「裕司もね」
「…………さ、行くか」
「………うん」

 紗耶香と裕司に緊張が走る。ホテルのエントランスに出ると、白河家の護衛が控えていた。

「え!」
「紗耶香様、お迎えにあがりました」
「早かったな」
「お車迄ご案内致します」
「俺はタクシーで後付いて行くから」
「何で?裕司も一緒に……」
「俺が運転手付きの車に一緒に乗れる訳ないだろ」
「小松も一緒に乗るように言付かっている」
「俺も?助手席空いてんのか?」
だ………旦那様から了承獲ている」
「…………マジ?」

 上下関係に煩い白河家の主人達を見ていた裕司にとっては驚きが隠せないでいた。護衛であっても、横並びで紗耶香と後部座席に乗るのは許されてはいなかったのだ。
 仕事中の移動に関しては、裕司が運転する為に、紗耶香が後部座席ではなく助手席に乗ってしまっていたが、紗耶香の父と裕司が同行しても、助手席に裕司が乗り、後部座席には乗らなかった。

「理由は知らされてはいないが、紗耶香様と小松の事は知らない者は居ない………後部座席に座ってもいい、と言われた事はそれなりに、小松は許されているんじゃないか?………さぁ、紗耶香様……ここに留まっていてはホテルにご迷惑お掛けしてしまいます………旦那様が奥様とお待ちしておりますから」
「わ、分かったわ………裕司……」
「…………あ、あぁ……」

 益々、緊張感漂う空気が車の中で漂い、昨夜の余韻も味わえる雰囲気にはなれず、ただ無言の社内となっていた。

 ―――怒られるよね……きっと……

 お互いに車窓を見つめ、背を向き合う紗耶香と裕司。明るい朝にガラス越しにはお互いの姿は映らないのが寂しくなってしまう。
 紗耶香の父からは、仕事以外で外泊禁止と門限厳守を言い渡されている紗耶香。裕司もそれを守り、紗耶香に強いてきていた。2人が付き合ってきてからもう1年近く、只管守ってきていたのだ。

 ―――もう着くのね……私が悪いの……裕司は私に従っただけだから………そう言わなきゃ……裕司より先に……

 紗耶香の父も紗耶香が恐れた祖父の血を引いている。いつ何時、祖父の様になるのか分からないのだ。同じになるのなら、紗耶香は裕司を守る覚悟を決めた。 
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