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恋愛開始
中年男達の女達
しおりを挟む紗耶香には友人と呼べる様な女友達は少ない。だから、恋愛相談には裕司を知る女、羽美に相談する事が多かった。
もう直ぐ出産を控えている羽美に、少し早いが出産祝いを渡そうと、紗耶香は羽美と待ち合わせのカフェに来ていた。
―――気に入ってくれるといいなぁ
マンションに行っても良かったが、律也にまた聞かれたくない事も出てくるかもしれず、外で会う事にしたのだ。
「あれ?紗耶香さん?」
「………え……茉穂さん?彬良さんと付き合ってる……」
休日なのに、スーツ姿の茉穂がカフェに居て、タブレット端末を開き、寛いでいた。
「こんにちは、こんな場所で奇遇ですね」
「本当に……仕事です?茉穂さん」
「休日出勤からの、仕事終わりです」
「…………それなら、一緒しても構いません?今から羽美さんと待ち合わせしるんで」
「羽美さん?………彬良の元カノの?」
「え?そうなんですか?」
「え?知らなかったんですか?」
「初耳です………それだと気まずいですよね……」
「いいですよ、一緒でも………元カノと言っても、かなり前だし、報告もしたいので」
紗耶香に、同席を促した茉穂は、タブレット端末を閉じ、にこやかに微笑む。
「報告?」
「えぇ、紗耶香さんにも伝わると思うので、便乗させて下さい」
「何だろう、気になるわ」
「羽美さんが来たら話します………それより、私がお邪魔しても良かったんですかね?」
「全然!寧ろ、裕司達を知る人達とは親しくしたいと思ってたので」
紗耶香が席に座ると、店員も注文を取りにやって来る。紗耶香は直ぐ様、飲み物を頼み、茉穂と話始めた。
「私、裕司さんと知り合ったのは彬良を通してで、裕司さんを知っている訳ではないですよ?」
「いいんです………私、友人少ないから、裕司との事も相談に乗ってくれる人も居ないし、彬良さんには裕司の事でも少しお世話になったから、茉穂さんともこれから裕司共々お世話になるかもしれませんし」
「仲いいですもんね、あの柄悪い男達」
「…………私、知らなくて……裕司に友達居たのも……」
「そうなんですか?」
「最近なんです………航さんが入院してたのはご存知です?」
「話は聞いてますね、大怪我されたとか」
「………彬良さんと会ったのは、裕司が航さんに暴行してからなんです………私達が付き合えたのも、航さんのおかげでもあるし、彬良さんにその時お世話になったから」
「暴行?………それなのに仲いいんですか?あの3人」
茉穂は、裕司と航が裕司の店で暴れたのは聞いてはいたが、喧嘩だと思っていたので、暴行と聞き驚いている。
「私では分からない絆があるみたいで……羽美さんは、航さんの妹だからか裕司達の絆には理解あるみたいなんで、たまに思い出話聞いたりするんですけど………」
「暴走族の総長だったんですよ、彬良……裕司さんと、航さんは彬良の右腕左腕みたいな関係だったとかで」
「彬良さんが総長………納得しちゃうんですけど……裕司には人を纏めるには無理だもの」
「そんな事ないと思いますよ?バーの店長してるじゃないですか」
「たかが数人のバイトを纏めるしかまだまだで……」
紗耶香と茉穂が話込んでいると、羽美の声が2人に掛かる。
「茉穂さんも来てたんですね」
「「羽美さん」」
「ごめんなさい、電車乗り遅れて遅くなっちゃって」
「私は、2人が会うの知らなかったの……この店にたまたま居ただけ、というか会社直ぐそこだから、よくこの店に来てただけで」
茉穂が荷物を退かして、羽美が座るスペースを空ける。
「あ、ありがとうございます、茉穂さん」
「茉穂さんの会社、この近くなんですね」
「えぇ、でももう直ぐ転職しますけど」
「「転職?」」
今度は紗耶香と茉穂の言葉が被る。
「彬良と一緒に働きたくて」
「え?一緒の職場じゃ………」
「彬良は、先にお父さんの経営しているホテルに転職したの………跡継ぐと決めて」
「え!あんなに彬良君、両親と縁を切りたがってたのに………」
羽美が知る彬良は、茉穂が知る彬良とは違う。和解したとは茉穂も思ってはいないが、羽美の驚き方で、余程の事だったと思われた。
「私と結婚するのに、お父さんから出された条件をのんだの」
「…………そうなんですね………え?結婚決まったんですか?」
「そう、それを羽美さんにも伝えたくて、2人の場所にお邪魔しちゃった」
「おめでとうございます、茉穂さん!幸せになって下さいね」
「茉穂さん、おめでとうございます」
「へへへ………ありがとうございます………結婚式挙げるので、彬良は裕司さんや航さんも招待する筈だから、2人も来て下さいね」
「い、いつかしら……私、出産してるかな……」
「あ、羽美さんこれ!少し早いけど、出産祝い」
「え!紗耶香さん、そんな戴けないですよ」
「いいえ!今迄相談に乗って貰ったのも、数々の非礼もあったんだもの………お詫びしてもしきれないけど、お礼も入ってるし羽美さんと律也さんのお子さんが産まれるのが楽しみなの!受け取って!」
半ば強引ではあるが、押し付ける様に羽美に出産祝いを渡す紗耶香。
「私は何も用意してないじゃないの………そうよね……近々、私も赤ちゃんにプレゼントさせて、羽美さん」
「茉穂さん迄………ありがとうございます、紗耶香さん」
「嵩張る物だけど、タオルケットなの………実質的な物の方が良いかと思って」
「助かります………嬉しい」
「じゃ、私はタオルケット以外を探すわ………男の子?女の子?」
「男の子なの」
「楽しみね」
「私はもう緊張しっぱなしですよ……初産だし」
「私も結婚して妊娠したら、羽美さんみたいに緊張するだろうな」
羽美の横で、茉穂も彬良との結婚に前向きになっている傍に、紗耶香は羨ましい眼差しで見つめていた。
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