【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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出来ない理由

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「早く寝ろよ」
「…………う……ん…」

 裕司の車で白河家に帰って来た紗耶香。
 車中は全く話が出来なかった。会話をしようとすると、おそらく出来なかった話になりそうで、紗耶香は声も出ない。
 これで、翌日の仕事の会話ができるのだろうか、とそれも不安に駆られる紗耶香。

「紗耶香……」
「…………何?」
「一旦、キスも中断な」
「っ!」
「少し、早かったかもな………お前には………」
「ち、違……」
「違わねぇよ……俺も悪かったかもしれねぇし………お前だけが悪い訳じゃない………ほら、護衛達に睨まれるから、早く入れ」

 一方的にも思われる裕司の言葉に、紗耶香も返せない。明らかに紗耶香が裕司を拒否してしまった様な結果となったのだ。
 理由も分からないのに、その事で話をしても結論は出ないのも分かるから、紗耶香は車を降りた。

「じゃあ、また明日な」
「…………おやすみ、気を付けてね」
「…………」

 片手を上げ、裕司は紗耶香に合図を送ると、車を走らせて帰って行った裕司。

「………ただいま」
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「………お風呂入れるかな?」
「はい、ご準備出来ておりますよ」
「入ったら寝るわ……疲れちゃったし」
「はい」

 紗耶香はスマートフォンをバスルームに持ち込み、すっかり親しくなった羽美に連絡を入れた。

 ―――悪いのは………私………急に怖くなった………分からない……過去の女達と自分を比べたのかな………

 出来なかったが、身体に裕司の感触は残っていた。大きな手で包まれる安心感なのに、危険な色を含む、野性的な目に見つめられて、ときめきがずっと続いて、あのまま溶け合う様な気分だった筈なのだ。それが出来なかったのが悔しくてせつなくて、夢が叶いそうだったのに、と悔やんでしまう。
 我慢していたら出来ただろうか。それでも気付かれ途中で終わっただろうか。考えても考えても答えが出ないまま、紗耶香は翌日を迎えた。

        ☆☆☆☆☆

「ごめんなさい、また相談に乗って下さい、て我儘を……」
「大丈夫ですよ……でも忙しいでしょう?紗耶香さん」
 
 以前の様に、カフェで待ち合わせではなく紗耶香は羽美と律也の住むマンションに直接やって来た。仕事終わりに来たのもあり、羽美も律也も仕事を終え帰宅している。

「仕事に手が付かなくて……」
「よっぽどですか?………進展がなかった、とか?」
「そ、それは………」

 紗耶香は律也に聞かれたくないのか、チラチラと律也に視線を送る。

「俺に聞かれたく無い事の様だね」
「す、すいません!律也さん」
「紗耶香さん、気にしないで」

 律也がリビングから出てくれた。理由を聞かずに離れてくれて、紗耶香は胸を撫で下ろす。

「裕司さんとの事ですよね?」
「………っ!」

 思い出すと涙が溢れそうになる。あの日から紗耶香の目は充血して、あまりよく眠れてはいない。
 羽美は紗耶香にティッシュをBOX毎差し出す。泣き尽くした筈なのに、まだ溢れてしまう涙。有難く、ティッシュを取る紗耶香。

「さ……最後……迄………出来な……か……た……」
「原因は分かってるんですか?」
「……………はい…」
「聞いても?」
 
 紗耶香は、吃りながら淡々と話す。過去の女と比較されたようで、急に怖くなって、身体が硬直してしまい、裕司が途中で止めた事を話す。

「比較された、て如何して思ったんです?」
「以前………裕司が他の………女と……を見てしまって……」
「この前の人と比べた、と?」
「違………いま……す……もっと前……」
「…………比較……う~ん……裕司さんに限って、過去の彼女を比較するなんて……」
「違います!………私が比べ……」
「……………あぁ……それはあるかもしれないですね……」
「羽美さんは………あります?」
「無いですよ、私」
「…………無い?」
「はい………私は律也さんが初めてじゃなかったので、その辺りは置いといて、律也さんが付き合ってきた人は1人しか知りませんし、全くタイプが違ったし、律也さんがその彼女に本気じゃなかったから」
「…………あ……」

 紗耶香は思い出す。律也の前の彼女、所沢 泉を。彼女は今、天職とも言える店で働いている、という。紗耶香は何処に居るかは知らないが、裕司が手配した店にまだ働いているらしい。

「紗耶香さん?」
「それだけで、比較しなかったんです?」
「あの歳ですもの、未経験であるとは思えませんよ……中にはあるかもしれないですが」
「私……裕司が彼女達を抱く時の裕司を見て………それが………私と違って……」
「違う?………どう違うのかしら……」
「違うの当たり前だ」
「「!」」

 律也がリビングに戻ってきてしまう。

「律也さん!盗み聞きは失礼ですよ!」

 羽美が怒ってくれるが、律也は平然としている。

「ビール取りに来てたらたまたま聞こえたんだ………紗耶香さん」
「は、はい」
「違うの当たり前だよ」
「当たり前?」
で抱き方も変わるさ…………どう違った?」

 律也はリビングから出る訳ではなく、羽美の横に座ってしまう。

「律也さん、聞きたいだけでしょ」
「流石羽美、理解してるね……そんな理解ある羽美をいつも愛しいよ」
「わ、分かってますから!紗耶香さんの前ですよ!」

 キスを頬に平気にしてしまう律也。
 紗耶香は照れてしまう。

「で?……どう違うの?」
「律也さん……」

 羽美は呆れているが、男性の意見も聞きたくなり話してみる。

「………あぁ……裕司君の分かるなぁ」
「分かる?」
なんだろ?愛撫する気なかったんだよ……最低限………好きな女以外誰でも一緒。俺も好きだな、て思えば全身全霊で口説くし、逃げないように縛るし、抱くし、言葉攻めで、愛を囁くし、羽美の身体が如何なっていくかを開発する楽しみを他の男に渡すものか、と俺にのめり込ませて、俺無しにはいられないぐらいに、ひと突きひと突き『好きだ』と込めて………」
「もういいです!律也さん!」

 ペラペラと、羽美への愛を惜しげる事も無く喋り捲くる律也を止めに入った羽美だった。
 紗耶香も律也の力説に涙が止まった。
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