【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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「裕司!………っ!歩くの………早い!」
「っ!…………悪ぃ……つい……」

 繁華街の中で、そのまま紗耶香は裕司に腰を抱かれながら、数10m歩いた。歩幅が違うので、紗耶香は足が縺れそうになる。

「裕司……ありがとう……本当に……」

 息も切れ切れに礼を言う紗耶香。一昔前なら、紗耶香の祖父の呪縛で礼は言えなかったであろう。紗耶香は裕司とは対等で居たいのだ。もうでもでもない。

「………無事ならいい……」
「あっ………」

 裕司の腕が紗耶香から離れる。

「如何した?」
「…………このまま抱き寄せて欲しい……」
「………お前………覚悟してんのか?」
「覚悟って?」
「…………セックス」
「っ!」

 人の往来のある中で、裕司は平然と性の事を言った為、傍で歩いていた人が裕司を見て行く。

「…………かなり我慢してるんでな……苛々してるし……めちゃくちゃに抱き潰す事しか出来ねぇ………でも、紗耶香を乱暴に抱くなんて事は、俺が俺を許せねぇ……それをお前は受け取れるか?お前が泣いたら、俺は止めなきゃならない……泣いたら……多分、もう触れねぇ………それを止めれる自信、今はねぇよ……さっき迄紗耶香を1人に行動させた俺が自分で許してねぇからな」
「っ!」

 ―――裕司の心が泣いてる……でも……私は処女バージンで………

 考えてしまう。紗耶香が痛みに耐えられるかも分からないから、痛みが辛いと泣くだろう。そうしたら、裕司は紗耶香を抱くのを諦めてしまう。

「…………覚悟ねぇよな……だから、触れない様にしてる………でも、好き過ぎて別れる事も出来ねぇ………悪いな、こんな男でよ……送ってく……タクシー拾うぞ」
「…………うん」

 触れてもらえない、触れられない、と言葉が紗耶香の心が抉られる。抱き寄せてくれないのなら、と紗耶香は裕司のスーツの袖を掴んだ。
 離れたら、またナンパされても困ると思ったのか、裕司は何も言わず、その袖を時折握られているのを確認しながら紗耶香の歩幅に合わせて歩き出した。

       ☆☆☆☆☆

「またな」
「…………うん……」
「………覚悟出来たら教えろ……キスより先をしてやる」
「………分かった」

 タクシーの車内から顔を出して、紗耶香だけ下ろし、白河家の門扉の前での会話だ。会話が会話なだけに、門扉の護衛達は見て見ぬ振りをしてくれてはいる。小声で離しているので、聞こえていないかもしれない。

「出して下さい」

 タクシー運転手に裕司は頼み、裕司は夜の街へと帰って行った。

 ―――悩みやがって……それは俺もだが……あぁ!処女って面倒くせぇ……しかもお嬢様ときた………彬良は今頃宜しくヤッてんだろうなぁ………

 裕司の友人、彬良と彼女になりそうな女、茉穂の雰囲気は良かった。友人が上手く行くのは喜ばしいが、羨ましい。
 後腐れなく、ほどよい関係の男女間を続け過ぎた裕司は、女を口説く事をした事もない。だから、彬良の話に聞く耳を持っていたが、裕司の前で口説かなかった。

 ―――邪魔してやりてぇ!………〆られるからやらねぇけど……紗耶香に突っ込むの想像するか……虚し………

 まだ想像でしかない、恋人の身体。
 腰を抱き寄せた時の細さと柔らかさに、あのまま離したくはなかった裕司。それでもあの後の裕司が紡いだ言葉は、紗耶香を傷付けた。守るべき彼女を守っても、自分が傷付けては世話は無いのだ。

      ☆☆☆☆☆

 数日後、裕司は彬良の住むマンションに現れた。

「何だよ……また」
「……………俺に女を傷付けない言葉を教えろ」
「………帰れ………」

 バーではなく、彬良のマンションであるのは、紗耶香に知られたくないからだ。
 彬良は髪を掻き上げ、風呂上がりなのか上半身裸で、裕司を追い返そうとする。その上半身の胸や腰にはうっ血痕。金曜日の夜に茉穂に付けられたものだろう。薄っすらと残っていた。

「いいよな、お前は女とセックス出来てよ!」
「でけえ声出すな!隣に聞こえるだろ!」
「なら入れろ」
「……………ちっ」

 仕方なく入れてやる、という彬良の顔。それでも幸せそうで、裕司は腹立たしい。

「あの近くのラブホか?」
「…………親父ん所」
「え?行ったのか!」
「…………ラブホが満室だったんだよ、何処も」
「…………へぇ~、教えちゃったんだ……の素性」
「全部じゃねぇ………お前、そんな事聞きに来たんなら帰れ!」

 玄関から数歩でベットに着く狭い部屋は、足の踏み場も少ない。彬良はベットに座り、裕司は床に座った。

「悪ぃ……悩んでてよ……」
「女の事じゃ、百戦錬磨のお前が?紗耶香ちゃん、そんなに癖もんか?」
「…………お前なら如何するかな、てよ」

 裕司は、紗耶香との出会いから、都合が悪い事以外、4年の月日の感情を彬良に話した。

「…………立場の差なぁ……それが1番考え過ぎてんだな……」
「俺ん家は………」
「………離散したままだったか……」
「親が今如何してんのかなんて、気にもしてねぇよ………ただ、それが白河家の枷になりゃしねぇか、て思ったらよ……手が出せねぇし、紗耶香の弱さに付け込んで………」
「お前………傷付け過ぎだろ、紗耶香ちゃんを………『覚悟』て何だよ!お前こそ覚悟ねぇよ!完全に自分の八つ当たりじゃねぇか!」
「…………認める」

 彬良はベットから立ち上がり、冷蔵庫に行く。

「飲むか?………今日は泊まってけ」
「………飲む」

 恋愛豊富なのは、航より彬良であったので、彬良の方に来た裕司は、友人の気遣いが身に沁みた。
 だが、この後彬良は彼女の茉穂のマンションへと押し掛けたのだが、それは裕司の愚痴を聞きたくない、という話があったとかなかったとか。
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