【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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攻め損ね

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 紗耶香が泣きじゃくる迄、悩むなら根本的な理由があるのだと思った羽美は、紗耶香に問う。

「そこ迄になる理由……あると思うんですけど……私」
「…………え?」
「ただ、ご令嬢と雇われバーテンダー、てだけで、裕司さんは紗耶香さんにスキンシップしない、て無い気がするんです………高校卒業してからの裕司さんは分からないけど、それ迄は来るもの拒まずの無類の女好きだったんで……その性癖のまま大人になったら、そのまま来るもの拒まずなんじゃないかなぁ……しかも刑務所生活は禁欲生活ですし」
「…………」
「言うなれば、『紗耶香さんだけ手を出せない』と言うのは出すのが怖い………それは余程大事にしたい、とか、紗耶香さんからの行動を待ってる?……裕司さんは自分から口説くの…………イメージ沸かないんですよね……」

 紗耶香は記憶を手繰る。

 ―――確かに、女から迫られるのは見たけど、逆………見た事ない……かも

「それで、紗耶香さんが攻めてみて、裕司さんがどう反応するかは分からないですけど………」
「あ!」
「な、何ですか?」
「私………裕司の頬にキスしたら、キス返されたんです!手を重ねたら手を繋いでくれて!」
「…………口説き方……もしかして裕司さん分かってないかも……」
「…………で、ですか……ね?」
「やってみてもいいかもしれないですよ?」

 紗耶香の表情が変わっていく。

「頑張ってみます!」
「はい………また違ったら相談乗りますよ……さぁ、出来ましたから食べましょ」
「あ!結局何も羽美さんの手元見てない!料理も作った事が無いから覚えようと思ってたんですけど………」
「見て覚えられませんよ、料理は……包丁の使い方は見ているだけでは出来るようにはならないので」
「…………包丁の使い方覚えなきゃ駄目ですね」
「今はカット野菜が売っているので、野菜は大丈夫でしょうけど、肉や魚は下処理が必要になるから」

 紗耶香は羽美と食事を取り、律也に会う事もなく、帰宅しようと思ったが、バーに行き先を変更する。

「…………裕司は?」
「お疲れ様です、オーナー………裕司さんなら帰宅しましたよ」
「え、入れ違いになっちゃった………まぁ、いいわ……変わりない?」
「はい、大丈夫です」
「裕司が居ないなら、行くわね………あと宜しく」
「はい」

 ―――電話すれば良かった……

 紗耶香は裕司に電話を掛けながら、タクシーを拾える所まで歩き出す。だが、気が付いていないのか裕司は出ない。

 ―――出ないなぁ……

「お、可愛い娘居るじゃん!」
「きゃっ!」

 紗耶香に隙があったのだろう、酒のニオイがキツイ数人の男に囲まれた紗耶香。
 この日、紗耶香は羽美と話がしたかった為、護衛や運転手を使ってはいなかったのだ。ドアからドアへの移動手段、タクシーで移動をすれば安全だと、思っていたのである。
 急に肩を男に抱かれ、よろめいてしまった紗耶香。

「大丈夫~?」
「ねぇ、俺達飲み足りないんだけどさ、一緒に飲まない?」
「結構よ!」

 紗耶香はキツイ言葉を言えば、引いてくれると思っていた。

「あれ~?お嬢様かな?お姉さん」
「可愛い~ねぇ~」
「そんなお嬢様がこんな街彷徨いてたら、怖い目見るよ~?俺達が守ってあげようか?」
「その代わり貰っちゃうけど~?」
「ぎゃははは!」
「離して!………離しなさい!」
「離しなさい、だってぇ?」
「離せな~い!」
「行こうか、お姉さん」
「嫌っ!」
「ぐわっ!」
「ゔっ!」

 怖くて、俯いてしまった紗耶香だったが、急に肩に掴まれた気持ち悪い手が無くなる。

「てめぇ等………この女に手出そうとしやがったな?」
「なっ!何するんだ!」

 引き離してくれたであろう主は、紗耶香が好きな声だ。そう思った瞬間、紗耶香はその声に守られる様に、腰を抱かれる。

「裕司!」
「……………待ってろ、今こいつ等排除するから」
「暴力は駄目!」
「あぁ?に手出した奴は殴らねぇと気が済まねぇんだよ!……てめぇ等嫌なら去りやがれ!」

 大声で怒鳴る裕司。それだけでこの場は凍り付く。
 紗耶香をナンパした男達にも効果あったのか、走り去って行った。

「…………っ!」
「!…………紗耶香!」
「こ………怖かった……」
「お前!護衛付けずに彷徨くな!」
「タクシー………拾おうと思って………バーから出て来た所だったんだけど……」

 バーから紗耶香が居る場所はたったの数mだ。それなのに、ナンパをされ危険な目にあってしまった。

「………航の店行ってる時に、羽美から航に連絡あって、お前と羽美が会ってた、て聞いてまさか、と思ってバーに戻って来たら………頼むから、1人でいる時は危機感持てよ!」
「ゔっ……ごめん………」
「…………はぁ………怪我ねぇか?」
「うん」

 無事を確認していると、交番から警察官達がやって来る。どうやら、紗耶香から離した男を2、3発殴っていたのであろう、頬を押さえながら、裕司を指している。

「ちょっとお話伺えますか?」
「あ?………俺、自分の彼女をナンパから守っただけだけど?こいつ等無理矢理連れて行こうとしたのが見えたんで」
「…………話が違いますね」

 警察官がナンパ男達に振り返る。

「そのお兄さんの話の方が正しいですよ、お巡りさん」
「そうなんですか?」

 警察官は紗耶香にも確認する。

「はい………私はタクシーを拾おうとここに立ってましたが、いきなり抱き着かれて、連れて行かれそうになりました」
「…………」

 週末の繁華街。目撃者は多数。紗耶香の言葉に頷く往来者達により、警察官はナンパ男達の方に詰め寄って行くが、一目散に走り逃げて行った。

「俺達も行くぞ」
「すいません、被害届を出されないんですか?」
「こんな事、この界隈で頻繁にあんだろ!パトロール甘いんじゃねぇか?酔っ払い共注視しとけよ!」
「無事でしたし、大丈夫ですから」

 裕司が苛々している。これ以上警察官と言い合うのは苛々を増すかもしれない。紗耶香も裕司の背を押すように歩き出すと、警察官達もナンパ如きで、という雰囲気で諦めてくれた。
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