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恋愛開始
悩み多き令嬢
しおりを挟むバーで裕司が彬良と、彬良が口説き落としに掛かっている茉穂と航の料理をつまんでいた時間、紗耶香は速水物産の近くのカフェに来ていた。
「紗耶香さん」
「羽美さん、ごめんなさい呼び出して」
「いいえ、大丈夫ですよ……如何しました?相談って」
カフェにしたのは、話の内容次第で直ぐに出れるからだ。
「………ゆ、裕司の……事で……」
「裕司さん?……何かありました?」
俯いて顔を赤らめている紗耶香。
それが、羽美の紗耶香への印象を変えていく。速水物産の常務室から律也と歩いていた、淑やかな印象と、応接室での初めて顔を合わせて挨拶した印象の威嚇気味でも、堂々たる姿とは違うのだ。寧ろ、実家の店で裕司と見せた印象と同じ空気を醸し出す今の印象の紗耶香の方が羽美は好意的に見えた。
「………裕司、て……モテました……よね?」
「モテましたね……でも……裕司さん、お兄ちゃんと……暴走族入ってましたから……怖がられてたのもありましたけど」
『暴走族に入っていた』の部分は小さい声に羽美は抑えた。
「入っていたのは私も聞いてます………もう1人の彬良さんと」
「………彬良君……会った事あるんですか?」
「あ、はい以前少し……ちょっと、羽美さんと付き合ってた、ぐらいの話しか聞いてないですけど」
「お兄ちゃんと裕司さんの友達だから、嫌でも名前聞きますから……でも、彬良君と私の事はお気になさらずに………で、裕司さんの恋愛遍歴を聞きたいんですか?」
「っ!」
紗耶香が少し裕司の話をしただけで、恋愛遍歴を聞きたいのか羽美に聞かれて、紗耶香は驚いた。
「よく聞かれたんですよね、私……裕司さんもお兄ちゃんもモテたから、よく昔から彼女の有無聞かれて………だから、そうかなって………裕司さんとは久々に会ったんで今は分かりませんが、あの様子だとモテるでしょうね」
「そ、そうなんです!………この前、私の事が好きだって言ってくれたのに、家に女連れ込んで……ベットに………」
「え!………う、浮気されたんですか?」
羽美は驚いて声を上げたが、直ぐに小声になり、身体を前に乗り出す。
「………それも話聞くとそうでも無いようで……」
紗耶香は羽美に、その日の事やその後の裕司の言葉を聞かせる。
「…………あぁ………だらしないんだから……裕司さん」
「ほ、本当に……」
「ん~……前に同じ様な事あったかな……私がまだ小学生で裕司さんが中学生の時………」
「そ、そんな歳から?」
「えぇ、裕司さん小学生の時から彼女居た、て言ってましたよ………確か、好きな人が居たけど、触らせてくれないとか、で他の人と浮気した、とか……お兄ちゃん言ってたな……」
「…………触らせてくれない………」
「そう、だから私は絶対に浮気する人駄目で………」
「羽美さんが彬良さんと別れた理由もそれが理由………?」
「そうですよ、裕司さん見てたら私なら嫌ですもん………あ、紗耶香さんに対しての裕司さんは分かりませんよ?」
紗耶香も同じとは思いたくない、と思っている。羽美のフォローが心に刺さらない紗耶香。
「裕司……言ったんです……私が白河酒造の跡取りだから、俺と釣り合わない……て諦めようとしてた、て」
「…………キス……もしないんですか?」
「キ、キスは………1回だけ………つい最近……」
「いつから付き合ってるんです?」
「業務提携の………あの日の後………かな……お互いに好きだって言ったのがその日……」
「…………半年は経ってますよね……で1回………え?」
流石に少ないと羽美も思う。
「う、羽美さんは………キスの頻度って……あ、差し支える事ならいいです!言わなくても……」
「ウチは毎日何度も………」
「…………そ、そんなに?」
「挨拶の様に口でのキスはおはよう、行ってきます、ただいま、おやすみ、は必ず……」
「っ!」
「………出ません?良かったら家で話しませんか?………もっと詳しく話聞きますよ?予定無ければ」
泣きそうになっていた紗耶香に気遣って、羽美は立って、紗耶香の手を取る。
「…………っ……は、はい……」
「律也さんは接待で今日は遅いんです、良かったら私夕食作るので一緒に食べて下さい」
「…………あ、ありがとう……ございます……」
1度涙腺が緩むと、紗耶香は最近止まらなくなっていた。
羽美はタクシーを拾い、律也と住むマンションへと紗耶香を連れて行く。
「座ってて下さい………紗耶香さん、好き嫌いあります?」
「あ……大丈夫です……お手伝いします!」
「お客様にさせれませんよ」
「でも、羽美さん妊娠中なのに」
「動ける時は動いた方がいいんですよ……私、悪阻は重くないんですけど、眠くなっちゃう傾向あるので、眠くない時にササッと家事しなきゃなので」
「…………妊娠……てセックスします……よね………」
「…………そうでなければ妊娠しませんしね……体外受精とかでなければ」
「………私………私達………出来るのかな……セックス……」
「………紗耶香さん……」
触れて来られた事は数数えるぐらいしかない紗耶香。スキンシップが律也と多い羽美がとても羨ましく、紗耶香は涙が止まらなかった。
あの威厳と威圧感はもう紗耶香は演じられないのかもしれない。
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