【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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守る者の立場と責任

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 紗耶香は裕司に本気マジキスされて数日。紗耶香と裕司の距離感も仕事内容も変わってきた。
 裕司は昼間、紗耶香に付いて店舗経営の仕方を教えられる。バーの店長という立場もあり、ある程度は理解出来てはいたが、紗耶香が教えるのは、紗耶香が管理する店舗全店だ。
 その店舗毎の商品、価格、光熱費、収支等理解しなければならず、裕司の記憶力の許容範囲を広くする必要があった。
 そして、夜はバーの店長という過重労働だった。

「寝みぃ……」

 明らかに疲れを見せている裕司は、白河酒造の本社ビルで紗耶香と並び、書類片手に紗耶香と話ている。

「バーの勤務時間減らしなさいよ」
「…………そうはいくか……暇なら任せて帰るが、客が絶えねぇ嬉しい忙しさだからな、今」
「………昼の本社に来る出勤時間変える?裕司は夜も仕事してるのは、お父様も分かってるし……人事に言って……」
「言うな………バーも休業日あるんだ……慣れるさ」

 本社での紗耶香と裕司がよく2人で居るのもあり、裕司への噂も出るようになるが、それは好奇心と偏見の目だった。
 ガラの悪い裕司が、お嬢様でもある紗耶香の傍に居ていいのか、というものばかり。

「タバコ吸ってくる」
「…………うん」

 喫煙所に裕司が向かうと、喫煙所の中で裕司を噂する声が聞こえる。

「なぁ、お嬢様が連れてる男……アイツ、ボディーガードだった奴だろ?何でお嬢様と仕事する様になったんだ?」
お嬢様だぞ?我儘で傍に取り巻き置きたいんだろ?あの男はお嬢様のだって」
「……………っ!」

 喫煙所のドアを持つ手が躊躇する裕司。自分の事は何言われてもいいが、紗耶香に対する批難は裕司には許せない言葉だ。
 社内では紗耶香が白河前会長のコピーと未だ言われているのも知っている。そして解雇となった立場ではあったのに、1ヶ月も経たずに、白河酒造の新事業立ち上げし、責任者として紗耶香が居る為、社員達の批判はあるのは仕方ないかもしれない。

「………お疲れ様です」
「「!…………お、お疲れ様です」」

 裕司は威嚇しながら喫煙所に入って来る。

「俺の事は何言ってくれても構いませんが、紗耶香様への誹謗中傷は、社の誹謗中傷になりませんかね?………新事業立ち上げにあたり、立場を変えただけの事なのに、何を勘違いされているのやら……」
「き、君………なんだろ?」
「そ、そうだ!今迄はお嬢様のボディーガードだったじゃないか!」
「あ?」
「っ!」
「くっ!」

 裕司に睨まれる社員達。萎縮してしまった様だ。

ねぇ………一応、俺も働いてますけど?てのは、女に養ってもらうのがなんで……俺、今も紗耶香様オーナーの店のバーテンダーしてますけど、なんですかね?」

 ゚.*・。゚♬*゜

 ガンを飛ばしていると、裕司のスマートフォンが鳴る。

「…………もしもし……おぅ、航か………退院?じゃぁ、近々お前の店に顔出すわ……じゃあな」

 裕司が電話中、そそくさと逃げ出した社員達が居なくなり、裕司1人となった。

 ―――みたいな奴の上に立たなきゃならねぇ紗耶香も大変だな……守ってやらなきゃ……

 如何やって認められるのか、裕司にはまだ分からなかった。

        ☆☆☆☆☆

「航さんが退院?」
「そう、今連絡あった………会いに行ってきていいか?」

 本社から、店舗視察に行く車の中で、紗耶香が裕司に聞かされた、航の退院。

「いつ行くの?」
「…………決めてねぇな……」

 裕司の車の運転で、タブレット端末を見ている紗耶香は助手席に座っている。今迄は後部座席に座っていたが、裕司の運転ならと、紗耶香が我儘を言ったのだ。紗耶香からすれば、デート気分である。

「行く時私も行きたい」
「…………店だぞ?……航の事だ……ギブス付けて迄店に立つ筈だろうし」
「え?それなら食べてみたいよ……私があんな事しちゃったから、航さんだけじゃなく、ご両親にも謝罪しなきゃ駄目でしょ」
「………それはそうだろうが………あれは俺がお前を止めなかった責任あったし…」
「…………裕司は本当に、小山内家が好きなんだね」
「親父さんにも世話になったからな……航とバカやると航と一緒に怒って、謝りに行かなきゃならなかった場合、親父さんは俺の分迄頭下げてくれてよ………俺の両親は放置だったのに……」
「裕司のご両親の話、聞いた事ないな……私」
「…………俺が刑務所に入ってる間に離散したよ……連絡先も知らなきゃ、住んでる所も知らん………子供の時に住んでた家は無くなって今駐車場になってる」
「……………さ、探さなかったの?」
「探す気も無い………探すなよ、紗耶香……白河家は出来るから、言っておく……ジジイや社長は知ってるかもしれねぇがな」

 紗耶香は裕司の家族の事を何も知らなかった。裕司が家族の事を話す人間ではないのは知っていたし、聞いてこなかったのだ。
 探すな、と言われた以上、紗耶香が探さない方がいい、と思ったのだった。
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