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恋愛開始
欲求不満の野獣の性事情
しおりを挟む数日後、職業安定所に裕司の姿があった。
「こんなに職を転々としてるとねぇ………」
「………ですよ……ね……」
「それに……限られてしまいますから……」
前科のある裕司には一番辛い経歴だろう。親友の為だとはいえ、将来的に尾が引くとは思っていなかった若気の至りだからだ。
30歳という年齢で、アルバイトの選択肢は考えたくはない裕司。紗耶香と付き合う付き合わないとしても、収入を考えてしまう。
白河酒造では生活には不自由は無かったので蓄えもあるのだが、それには頼れない。
「っと!」
「あ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「あぁ、君は?」
「私は大丈夫です………前見てなくって……」
求人募集欄を見ていた裕司にぶつかってしまった女。
―――若い女も来るんだ……
茶髪のいかにも水商売風の女。その女が裕司を目部見してきていた。
「お兄さん……水商売してた?」
「………前職はバーテン……」
「……私もキャバ嬢してたんだけど、やっぱり昼中心に働きたくて」
裕司が今迄相手をしてきた女は、後腐れない女ばかりで、少し前なら裕司はこの目の前の女を引っ掛けたであろう。胸を強調したキャミソールにタイトスカートにシアーロングのコートを着ている。夜は夜で胸を強調したドレスを着ていた女だろう。
「………ね、見つかりました?」
「ん?」
「仕事」
「…………あぁ……まだ」
「ストレス溜まりません?」
「…………溜まるねぇ」
―――逆ナンをここですんなよな……
だが、据膳食わぬは男の恥とばかりに、この後この女と意気投合する裕司は、マンションに連れ込む。ホテルは裕司は好きではない。自分のテリトリー外で気を許す気はないからだ。
「物好きだな、君も」
「………ふふふ……だってお兄さんかっこいいんだもん」
「悪いが、2度目は無いからな……俺、女に定着しねぇから」
「えぇ?私上手い、て言われるよ?」
「………それでも、2度目はねぇよ」
上半身を脱ぎ、ベットに座る女を押し倒す裕司。
女はキスを強請ろうと、裕司の首に腕を回す。
「…………言い忘れてたが、キスもしねぇ」
「残念………お兄さん上手そうなのに………」
「そりゃ、それなりに数熟したからな……」
裕司は女をうつ伏せにする。
「え?後から?」
「……………背中見ながらが好きなんだよ」
そうではない。女の顔を見てセックスをしたくはないのだ。まだ脱いでいない女の腰から手を滑り込ませた裕司は女の胸にそのまま触れた。
「んっ……」
口の愛撫は裕司はしない。その代わりだろうか、指の力加減や触り方を工夫していた。
「んあ……手………気持ちい……」
胸にもツボがある。その胸のツボを少し刺激するだけだ。
―――ヤル事はどんな女でも一緒だな……性欲処理の為に愛撫も面倒くせ……
女を抱くのは裕司の中では何でも一緒だった。好きな女以外は、どんな体型だろうと感度だろうと関係ない女にだらしない男だ。
だから、無駄にお喋りもしない。ただ愛撫をし、濡らして性欲を満たすだけ。それでも女の身体を触れば、性欲機能はあるから質が悪い。
「挿入るぞ?」
息荒く、裕司の下で喘ぐ女。トロンと酔わされた女は、喘ぐのに精一杯だった。
「う……ん……」
女を大事にしない裕司でも、避妊は怠らない。コンドームを装着し、中途半端に脱がした女に挿入しようとして、裕司は止まる。
「裕司、居るの?」
「っ!」
「……………え?」
マンションの扉の鍵を締めていなかった。
玄関から、裕司の馴染みある声がする。
「さ、紗耶香?」
「………あ、裕司居る?」
紗耶香がリビングに入って来るのを避けたい裕司だが、玄関には女の靴もあり、普通に別の女が入ってくれば、気が付く筈なのだが、紗耶香にはそういう色恋は経験が無い為に気が付いていない。
―――俺の家、来た事ねぇじゃねぇか!何で知ってる!
「おい!服整えろ!」
「な、何?」
「終わりだって言ってんだよ!」
「………ブッキングしたの?」
「違ぇ!いいから着ろ!」
紗耶香に見られたくはないシュチュエーションだ。
「裕司?」
「…………何だよ……俺ん家来る事なかったじゃねぇか、今迄……」
「お客様………じゃ無さそうね……」
ベットの上には半裸の女に、裕司は上半身裸だ。いくら紗耶香でも勘付く。
「…………おい、着たか?」
「う、うん……」
「悪いが帰ってくれ……」
「じゃ、連絡先教えてよ」
「…………ねぇよ!帰れ!」
「っ!…………あっそ!じゃあね!」
後腐れの無い女は、修羅場だろうとも経験があるのだろう。裕司の風貌から慣れていると思った女。あわよくば連絡先を聞きたいようだったが、裕司は追い出した。
そして、その裕司だが、バツの悪そうに、紗耶香を見ようとはしない。
「…………私……来ちゃいけなかった?……用事あったし、渡したいものあったから来たんだけど……」
「俺ん家、来た事なかったじゃねぇか……」
「住所は知ってたから……」
「………で、何?」
紗耶香はバックの中から書類を出すと、裕司に渡さず、テーブルに置いた。
「裕司の再就職の為の書類と、以前の退職に関する書類をお父様から預かってきた………また裕司を私が今度立ち上げる事業のサポートさせたい………て……」
「……………え?」
「……い、要らなかったかな……?……私……裕司と………釣り合わないのかな……また……あの悔しい嫉妬に煽られて………また泣かなきゃいけない?」
「紗耶香………」
「好きだって言ってくれたのは嘘?」
ポロポロと、封筒の上に落ちる涙。
紗耶香は分かっていた。玄関にある女物の靴も、喘ぎ声も。
裕司が、職場であるクラブのVIPルームで女を代わる代わる抱いていたのも見ていたのだ。
「…………悪い……紗耶香を抱いちゃいけねぇから、別の女代用してた……」
「………は?何で、私を抱いちゃ駄目なの?」
「………お前は白河酒造の跡取り娘だ……俺からすれば、雲の上の人間で、触れちゃならない存在なんだよ………」
「くっ!」
「!」
バサッ、と紗耶香は封筒を裕司に投げつける。
「私、神様か何かなの!?裕司と同じ人間だよ!感情もある!あの女みたいに、セックス出来る女だよ!どれだけ……どれだけ裕司は私を上に見てるの?………抱いちゃ駄目って………私は……裕司に抱かれたいよ………セックスなんて………知らないけど……羨ましいってずっと思ってた!裕司に抱かれてる女、皆!」
「っ!………知って……」
「知ってたよ!ずっと!取っ替え引っ替え………何なの?私の気持ち知ってるくせに!私の事好きだって言ったのに!…………それでも……裕司を嫌いになれない自分が大ッキライよ!」
「紗耶香!」
逃げる様に紗耶香は裕司のマンションを出て行った。
裕司は服を慌てて着て追い掛けるが、車だったのだろう、紗耶香の姿は無かった。
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