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恋愛開始
恋の始まり?
しおりを挟む「じゃあな」
「………え?」
「迎えに来てんじゃん、お前」
「送ってくよ」
病院の入口で逆方向に行く裕司に、紗耶香は引き止めに掛かる。
「俺が後部座席に乗れと?白河の車に」
「…………なら、車返す」
「は?距離どんだけあると思ってやがる!此処から車でも40分あるぞ、きっと!」
「…………裕司と居たい………」
「っ!」
触れて来なかったから、紗耶香はどう裕司に気持ちを伝えればいいか分からない。触れ合うタイミングさえ分かっていないのだ。
「…………ジジイにヤラレるぞ?」
「お祖父様は会長職降ろされて、もう権限無いわ……私が解雇になったのも、その理由」
「…………白河の社員じゃない、て?」
「今お父様が言ったじゃないの」
「…………あ……あのよ……」
裕司が頭を掻きながら、明後日の方向を見て、紗耶香から視線をずらす。
「や………養うから……てか、俺も無職か!」
「…………プッ!傷害事件起こしたからね」
「かっこ悪ぃ!………やめた!とりあえず考える!お前は今は帰れ!」
「一緒に居たい、て言ってるじゃないの!」
「だからって、はいそうですか、て連れて帰れる足もねぇよ!」
「…………歩く」
「絶対にお前、無理」
「何で?」
「体力無いぞ、絶対に」
「歩くわよ!絶対に!………運転手に帰れって言ってくる」
紗耶香は如何しても裕司と一緒に居たくて、我儘を通す気でいる。
「おい!無茶言うなよ!」
「だって…………だって……会えなかったから……会いたかったのよ!警察署に留置されてる間心配で堪らなかった!………裕司が………裕司が好きだから………」
「っ!」
「!」
裕司にとっては可愛いお強請りに、素直な紗耶香の告白に、堪らず紗耶香を抱き締めてしまった。
「あ………す、すまねぇ……」
「………もっと………もっと抱き締めてよ!……私が他の人と結婚や見合いなんてさせられないように……私が、律也さんと結婚する事になってたら………裕司は如何してた?…………あれだけ………あんなにも……私の傍に居て、理解して私の気持ちを知っている裕司が………これっぽっちも私への感情が無かった、て言うの!?」
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だが、裕司は答えてはくれない。
「如何なのよ!」
「…………好きに決まってんだろ!」
「…………」
「………何だよ、悲し涙か?」
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「…………う……嬉し……」
「分かったら、迎えの車で帰れ」
「…………は!?何でそうなるの!」
「………両思いだろうが、諦めるしかねぇんだよ……」
そう、裕司からすれば紗耶香は高嶺の花だ。しかも裕司は前科持ちの男。認めて貰える筈がないのだ。
「……………やだ!」
「………やだじゃねぇ!我儘言うのはいいがソレは駄目だ!」
紗耶香は我儘な性格ではないのだが、思いが通じ合ってしまったら、我儘になりたくなってしまう。
そして、紗耶香の背後で、なかなか車に乗り込まない迎えの運転手と護衛が、後から声を掛けてくる。
「お、お嬢様………車にお乗り下さい」
「アンタ達は帰りなさいよ!私は裕司と一緒なら帰る!無理なら、裕司と一緒に居るの!」
「小松は解雇されましたので………」
「私も解雇されたわよ!」
「仕方ねぇな………俺が送り届ける……徒歩でな」
「え!徒歩ですか?」
「歩くんだよな?紗耶香……今から歩いて帰ると体力無いお前じゃ、何時間掛かるかね?」
裕司も紗耶香のこの気持ちも行動も困るから拒むのだ。諦めて貰わねば、成就されなかった時に悲しむのは紗耶香も裕司も同じだからだ。傷は浅い内の方がいいのだ。今ならまだ間に合う、と思いたい。
「歩くってば!裕司と一緒なら歩けるわ!」
「俺、歩きたくねぇよ」
「…………は?」
「俺、ダチ呼ぶし」
「じゃ、私も!」
「…………あのな……分かれよ!賢いお前なら分かるだろ!身分違いの恋愛なんて、苦難だって思うだろ!」
「…………知らないよ……裕司しか好きになった事ないし」
「……………」
―――そうだった……コイツ、男に免疫ねぇんだった……
運転手も護衛も困り果てている中で、裕司はスマートフォンを取り出す。
「…………もしもし……小松です……すいません、忙しいと思いますが、紗耶香様が帰ってくれません……なので、俺が送り届けていいですか?徒歩になっちゃいますが………」
電話の相手は紗耶香の父だ。暫く話を続けた裕司は電話を切る。
「おい」
「は、はい」
運転手に声を掛けた裕司。
「社長から許可降りた………お前達は先に帰れ………俺が紗耶香様を送り届ける………徒歩でな」
「だ、大丈夫なんですか?」
「するっていったらするんだよ!分かったらとっとと行け!」
「は、はい!」
紗耶香のお目付け役だっただけあり、裕司の威圧感は、大した物で、運転手と護衛は先に帰って行った。
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