【完結】プラトニックの恋が突然実ったら

Lynx🐈‍⬛

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仮面を被った令嬢

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 それからというもの、紗耶香は逃げ出す機会を探すのに専念する。
 令嬢らしく、淑やかに振る舞いながら、下の者には虚勢を張り、祖父の威厳の仕方を真似た。

 ―――時期を見間違えちゃならないのよ!お祖父様から逃げるには……

 裕司もまた白河の家では無口に従い、夜は紗耶香の護衛が無い時は、白河酒造の経営するクラブでバーテンダーとして働く様になった。
 その頃には、紗耶香も大学を卒業し、飲食部門を担当する事になった。

「裕司、私にもタバコ吸わせて」
「やめとけ紗耶香」

 祖父にオーナーという肩書にされ、白河酒造が経営するクラブにの振りして出入りする。そうすれば、裕司と話が出来て、裕司は紗耶香を客扱いしてくれた。
 紗耶香はとして入店し、護衛を外に待たしていた事で、自然と裕司と話せ、ささやかな幸せを感じていたのである。

「いいじゃない」
「駄目だ」
「裕司、火貸して」
「………ほい」

 別の客にはタバコの火を着けるのに、紗耶香には着けない裕司。

「裕司~、ありがとう…………んっ!」
「!」
「………こらこら、には目に毒だぜ」
「…………ふふふ……そうよ、は帰んなさい………ね、今日泊まりに行っていい?」

 カウンター越しに、後から来た女性客が、火を求め、礼に裕司の唇にキスを贈る。その女性客は裕司の家を知っている様子だ。泊まりに行く、というのは男女の仲だと思えてならない。

「…………いいぜ、その代わり朝起きれねぇ覚悟するんだな」
「っ!!」

 紗耶香は、咄嗟に裕司から離れていく。

 ―――好きなんだ、あの人の事………私が子供っぽいから……大学卒業したばかりの女じゃ、裕司には相応しくないよね………

 その翌朝、眠そうな顔して護衛に付く裕司。白河家に着て、先ず真っ先に紗耶香に頭を下げるのだ。

「…………楽しめた?」
「…………何の事でしょう……紗耶香様」

 朝昼と、夜の態度の差がある裕司。それでも紗耶香が泣きそうな顔をすると、準備されるハンカチの優しさが、余計に紗耶香の心を占めていくのを、裕司は気が付かない訳はなかった。

「タバコ、吸えるようになったのよ、私」
「…………やめとけって言ったろ?」
「な………何でよ!何で私には駄目だって言うの!………裕司に近付きたいのに!同じ目線で居たいのに!裕司の好みを知りたいのに!」

 紗耶香はVIPルームに裕司を呼び出し、相手をしてもらおうと思っていた。VIPルームはとして、使う客も黙認していたからだ。

「…………紗耶香……俺は、お前に触れねぇ」
「………な、何故……?」
「ジジイに知られたら如何する」
「っ!」

 守る者と守られる者の距離を保ち立つ裕司と、ソファに座る紗耶香の上下関係がVIPルームにあった。

「分かれよ………お前は………俺を好きになっちゃ駄目なんだよ」
「好きなんだもん!好きにさせたアンタは責任持ちなさいよ!………あっ!」

 感情的になり、紗耶香が灰皿を裕司に向けて投げてしまった。その灰皿が裕司の額に当たり、割れて裕司の頭が切れた。

「ご、ごめん………なさ………わざとじゃ……」
「分かってる………お前は感情を押し殺して生きてるの知っているからな………」

 紗耶香が慌てて手当てをしようと、ハンカチをバックから出すが、裕司は受取もしない。

の物は使えねぇ………分かったら俺をとして、夜も使え………その代わり、ちゃんと会話はしてやる」
「…………やだよ……裕司……それが嫌だから………」
「俺だって嫌に決まってる!孫にそんな顔させて、扱いするの見て、いい気分になる訳ねぇだろ!絶対に、逃してやるから待ってろ…………それ迄、強くなれ」

 触れたくて触れ合える距離にいても、決して触れ合えないでいる関係はもう、3年になっていた。
 紗耶香は威厳さを強め、裕司は雇われ店長として出世し、紗耶香の護衛は無くなった代わりに、として、紗耶香が管理する店の護衛を仕切る迄になり、の成長を見せる。

「紗耶香……」
「……………ふぅ~っ………」

 紗耶香の威圧感を強調させたのは、裕司が常に傍に居る様になったからだった。紗耶香の筆頭になった裕司は汚い仕事を率先し、紗耶香がオーナーの店の警護は裕司の指示なくして無理な事だった。
 酔っ払いの処理、クラブやバーで危険な取引をする輩の撲滅、前科のある者特有のニオイの掻き分けが上手かった裕司は、危険な事も平気で請負っていたのだ。
 その裕司は、あれ程駄目だと言った紗耶香のタバコも許す様になった。裕司とは無理な事だったが、が欲しいと言う紗耶香に折れた形になったのだ。
 裕司がタバコを火を着け、一口吸い紗耶香の口に入れる。間接キスだ。触れ合えないでいる2人には、唇の一瞬の温もりだけが伝わる。タバコの火を譲り合う行為も、キスの代わりとなった、2人だけの神聖的な儀式だった。
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