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ナターシャ襲われる
しおりを挟む悪阻も治まり、ナターシャはリュカリオンの仕事の手伝いを再開させようと、王城に入っていた。
「ナターシャ、本当に大丈夫か?」
「何がです?」
「いや、身体大丈夫なのか、と。」
「無理はしませんわ。」
執務室に先に来ていたリュカリオンとセシル。
「いいじゃありませんか、殿下。ここに居れば、ナターシャの浮気する心配もありませんよ。」
「お兄様~、わたくしが殿下以外の方に揺さぶれると?」
「ナターシャは情に弱いじゃないか。」
「そんな事ありません!」
リュカリオンは兄妹の会話を聞いていた。
悪阻が酷い時には聞けなかった明るい声が心地いいらしく、終始ご機嫌だったリュカリオン。
「殿下、少し父の執務室に行ってきます。」
「あ?あぁ。」
「あ、お兄様、わたくしが行ってきますよ?仕分け終わりましたし、お父様にお話したい事があるので。」
「じゃあ、頼むかな。殿下宜しいですか?ナターシャに行かせて。」
「警護は付けて行ってくるんだよ、ナターシャ。」
「はい。」
ウィンストン公爵に渡すという書類を受け取り、リュカリオンの執務室を出たナターシャ。
あの皇太子邸での騒動から1ヶ月は経っていた。
それからは王城も落ち着き、ナターシャは令嬢達から詰め寄られる事も無くなった。
懐妊の公表も、数日後に予定されるという。
それは、リュカリオンもナターシャも安心出来た頃だった。
「ウィンストン公爵の執務室はこの階の上でしたわよね?」
と、衛兵に声を掛けたナターシャは見慣れた人影が、ナターシャに近付いてくるのを見た。
身を強張らせる。
「ロレイラ様!!な、何を持ってっ!!」
「妃殿下!!」
「死んで頂戴!!ナターシャ!!」
「きゃーー!!」
グサッ!!
「妃殿下!!」
衛兵達が、ナターシャを取り囲む。
騒ぎに駆け付けた衛兵達も、慌ててナターシャをロレイラから引き離す。
「あぁ………。」
ナターシャは震え、青ざめている。
ドレスや、持っていた書類も血が付き、何処かを怪我をしたのか、と思われてしまう程だった。
「妃殿下!!お怪我は!!」
「わ、わたくしは……無事です…………庇ってくれた兵士はっ!!早くお医者様を!!ロレイラ様のナイフを取り上げなさい!!」
「おい、大丈夫か!!」
「いかん、刺さった場所がっ!!早く医者を!!」
「……………なんて事を…………ロレイラ様……。」
「ナターシャ!!何故死なないの!!あなたさえ居なければ、わたくしはリュカ殿下の妃だったのに!!」
更に騒ぎを知った、リュカリオンやセシル、ウィンストン公爵やその他の貴族達も駆け付けて来た。
「ナターシャ!!」
「…………リュカ………殿下………。」
「ナターシャ!!血がっ!!お腹の子は!!大丈夫か!!」
「わたくしは無事です!この血はそちらの衛兵の……。」
「おい!しっかりしろ!!直ぐに治療するから!!」
「医者はまだか!!」
「ロレイラ…………お前………。」
「ほほほ……………やっとお声を掛けて下さった………リュカ殿下………わたくしのリュカ殿下……。」
「早くその女を投獄しろ!!」
ロレイラは衛兵に引き摺られながら、叫ぶ。
「リュカ殿下!!わたくしはあなたの為にしたのです!!そんな女よりわたくしの方が幸せに出来ますわっ!!」
「……………。」
「皇太子殿下……お気になさらぬように。」
「分かってる……。」
ウィンストン公爵がリュカリオンに声を掛ける。
リュカリオンが身体を震わせ、怯えていたからだ。
「リュカ殿下、お気をしっかり。」
「…………ナターシャ…………。」
腕を広げ、ナターシャを待ち望む。
「殿下が汚れてしまいますよ?」
「………いいんだ………温もりをくれ。」
「…………。」
ナターシャはリュカリオンの腕の中に収まり、背中に腕を回した。
「ナターシャ………良かった………。」
「リュカ…………怖かったです………衛兵が助けてくれなかったら………衛兵は!!」
ナターシャはリュカリオンの腕に抱かれながら衛兵の方を見た。
「……………。」
「見ない方がいい………。」
目をリュカリオンに塞がれるナターシャ。
「…………そ、そんなっ!!」
「彼の弔いを…………。」
医者であるヴァン子爵が来た頃には、意識も無く、治療も虚しく旅立った衛兵。
ナターシャはリュカリオンにすがり付くように泣きじゃくるしか出来なかった。
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