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花嫁探し最終日
しおりを挟む「カチュア!何故もっと着飾らない!」
「…………必要無いかと思いまして」
最終日の朝、舞踏会用に用意していたドレスはどういう物かと、父に確認され、朝からスペリオール侯爵家の屋敷には父の怒鳴り声が響いた。
カチュアは飾り気の無い質素な、落ち着きのあるドレスとそのドレスに合うネックレスとイヤリングを用意していた。
母やばぁや、他の侍女達からも質素過ぎだと言われていたが、敢えてそれを無視したカチュア。
「今からでもいい!華やかなドレスを用意するのだ!」
「私の心に背いて迄、お父様が今年の花嫁探しに参加させようとしたのです。最後の日なのですから、私の好きな様にさせて下さいませ。5人の王子殿下の中に、私が慕う方が居りませんし、お父様の意に従い、夜会に参加しているのですから、これぐらい大目に見て頂けると、私も快く嫁ぎますわ」
「カチュア!!」
最後の足掻きだった。
意にそまぬ結婚をさせられるのだから、着飾る気にもならない。
「カチュア……他の令嬢方は着飾るでしょう………あなただけ、着飾る事をしなかったら、返って目立ってしまうのではなくて?」
「………目立つ………そうか、カチュアは目立ちたいのか!そうなのだな?」
カチュアの母に言われて気付くカチュア。
「………そうですね、目立ちたくないので、着飾って行きます。他の令嬢方はこれでもか、と言うぐらい生地も装飾品も、香水もお金掛けてますもの………これでは私浮いてしまいますね。ドレス変えて行きます」
「…………カチュア!目立つならあのドレスで構わん!あれで行きなさい!」
「行きません…………選び直して来ますから失礼します。ばぁや手伝って」
「はい、お嬢様」
「……………尽く反抗しおって」
「あの子の意思を確認せずに、花嫁探しに参加させるからですわ」
「女は黙って男の言う通りにしてれば良いのだ!」
「……………」
「何だ!」
「………いいえ、私はカチュアを見てきますわ」
スペリオール侯爵夫婦の仲は冷めきっているようだった。
決して、男の言うがままになる女等居ない、とカチュアの母は思っており、冷ややかな目線を送るが、反抗的な態度は、夫を増長させるので、早々と逃げるのだった。
カチュアは用意したドレスではないドレスにして、王宮に向かう。
ざわざわと、色めき立つ令嬢達に紛れ、カチュアも大広間に入る。
この最終日は令嬢達の親は参加をしない。
集団お見合いの様な雰囲気に飲まれそうになるカチュアは、令嬢達がそれぞれに醸し出す香水に咽返そうになっていた。
カチュアは香水を強くは着けないからか、目眩がしてフラついた。
ガシッ。
「大丈夫?カチュア嬢」
「!!………も、申し訳ありません!……コーウェン様」
「気をつけて」
「は、はい」
がっしりと、コーウェンに支えられたカチュア。
コーウェンに続く様に、ロイスとグレゴリーもやって来たのを見たカチュアは、一礼をする。
「昨日のチェロ見事だったな、カチュア嬢」
「本当、聞き惚れちゃったよ、ゴードンとバッシュが言うだけあるね」
「グレゴリー様、ロイス殿下………お褒め頂きありがとうございます」
挨拶や褒め言葉を頂き、カチュアはまた一礼をするが、なかなか王子達の目に止まらない令嬢達には、それが嫉妬心を煽った。
「いいわよね、覚えめでたくて」
「私達は苦労してると言うのに」
「……………」
やっかみは無視するに限るとばかり、聞こえない振りをしては、場所を変えるカチュア。
しかし、そうするばかりでは居られなかった。
「カチュア嬢、踊ってもらえないだろうか」
「………デューク殿下………私で宜しければ」
1曲踊り終えると、また暫くしてから、バッシュ、グレゴリー、コーウェン迄誘って来る始末。
その光景を窓からしか見る事が出来ない鳥カチュアは、ハラハラしっぱなしだ。
「ねぇ!踊りに誘われたのも私の記憶と違うわ!」
「仕方ないわよ、少し前からズレてるんだから」
人間からは精霊等見える者も少ないが、念の為に、物陰に隠れる様に、窓辺の縁に座るカルマと話す鳥カチュア。
言霊で、カチュアを指名するデュークがカチュアと言わないようにする為に待機しているカルマ。
「…………ねぇ、カルマ」
「ん?なぁに?」
「私に言霊を使う事は出来る?」
「勿論出来るわよ?鳥の姿で人間の言葉でも話す気?」
「違うわよ、あっちの私に、て事」
「…………あぁ、あっちのカチュアね?勿論」
鳥カチュアは、やはりデュークの意思を尊重したかった。
幾ら、同意の元で抱かれていた訳では無いが、10年夫だった人だ。
好きにはなれなかった人だが、カチュアを選ぶ理由があって夫婦になったのだから、嫌われてはいなかったと、カチュアも分かっていたし、房事の為だけの事での監禁以外、暴力等はされてこなかった。
女の人権等無きに等しいコルロフ王朝に、モラハラやパワハラ等という言葉は無い。
問題視もされない為、カチュアは監禁がいけない事だとは思っていないし、コルロフ王朝には無いのだ。
「やっぱり、言霊を使うのは、過去の私にして」
「………分かったわ、いいわよ………シャルゼもジュームもいいわよね?カチュアの望みだから」
【カチュアがいいならいいぜ】
【仕方あるまい】
思考でシャルゼとジュームは会話に参加する。
「ありがとう………タイミングは私が言うから」
「えぇ、見誤らないでね、カチュア」
鳥カチュアは頷き、大広間に居る過去カチュアを見据えた。
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