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番外編
しおりを挟むメイリーンがヒューマと出会う前。
ラビアン伯爵邸の執務室。
「…………こんなに居るのか!」
「はい、調べた所全てラノック公爵と関係を持って別れた令嬢、そして平民の女達です」
「…………貴族と平民を先ず分け、そこから期間が長い順に探るか……平民は部下に任せられるが、流石に貴族令嬢は立場がある。爵位持ちの部下達をそれぞれ当たらせろ」
「分かりました」
―――本当に手当たり次第食ったな……アイツ
人数も多く思っていた以上に時間と日数が掛かったヒューマ。
「…………あと、この数人……か……」
ヒューマもラノック公爵の付き合っていた女達を相手にするのも、流石に疲れてきていた頃だった。会話だけで済むなら良し。だが、時には身体の関係を迫られたりする。
好きでもない、タイプではない女性を抱くのもヒューマは趣味ではなかったぐらい、ラノックは様々な女性を抱いていたのだ。
「………バインベルク男爵令嬢?……まだ確認取れていないのか?」
「はい、一夜限りから始まる付き合いが多く、浮名を流していますがかの令嬢は、隙を見せない事でも有名で、男の嘘に敏感な様です」
「…………あぁ……恋人か婚約者が居る男達が分かるとか聞いたな」
「は、はい………俺も近付きましたが、恋人が居るから、と会話もままならず………」
「…………俺は接点無かった令嬢だからな……夜会でも見た事が無い」
「当たり前だと思います………彼女は人間貴族主催の夜会しか出席しない事でも知れ渡っているので」
「人間貴族主催でも獣人貴族も行くだろ?」
「誘いに乗らないんですよ………声を掛けても、好みか好みじゃないか、で選び会話をしてくれるので。それに、1度フラれた男はガン無視ですね」
「…………なるほど……では、人間貴族の嫡男の君には妹が居たよな?」
「はい」
「君の妹に夜会の招待状が来たら、俺をパートナーにしてくれないか、と聞いてみてくれないか?」
「ラビアン将軍、自ら行かれると?」
人間貴族の部下が難色を見せるのは分かっている。美男子のヒューマのパートナーとなれば、必ずついて回る恋愛話。
実質、ラノック公爵の近辺調査で女性達に近付いていただけだが、据膳食わぬは男の恥とばかりに、ヒューマも女性の相手をしてきた事で、ヒューマのこの噂が広まっただけなのだが、ヒューマに相手をしてもらった女性達は、尽くヒューマに惚れてしまうのだと、人間貴族の部下は心配をしている。
「他の部下達が相手に出来ないんだろ?人間貴族主催の夜会で人間貴族だけ送られるものなら、獣人貴族個人への招待状は届かない。だがパートナーは獣人では駄目という縛りはないから、招待状が送られた女性の同伴になれば会いに行ける」
「………妹に聞いてみてます」
そうして、ヒューマは部下の妹の令嬢と共に夜会に行ける事になったのだ。
「いいな!絶対にラビアン将軍に惚れるなよ!」
「煩いわね、お兄様!もしかしたら逆かもしれないでしょ!」
―――俺が惚れそうなタイプの令嬢ではないから安心しろ……
部下の妹と面会したヒューマは、条件をその令嬢に出した。
「夜会に潜入出来るだけでいい……会場に入れば君は好きにしていいが、俺の近くには来ない様に……帰りは別の馬車で帰ってくれればいい」
メイリーンの感の良さを考慮しての言葉だ。もし、メイリーンにヒューマがこの令嬢と一緒に居るのを見られたら、近付けない可能性もあるからだ。
「ラビアン伯爵様、そんなに私は魅力ないですか?」
「そうではない、任務で君に邪魔されたくないからだ」
「そうだ!邪魔はするなよ!」
だが、夜会当日。
部下の妹の令嬢はヒューマからなかなか離れようとはしないまま、何とかメイリーンの視覚には入らない様にして、メイリーンを観察したヒューマ。
―――なるほど……確かに美しい令嬢だな……男達も声を掛けてはいるが…………ん?
メイリーンがある男女に声を掛けに行くのを見て、男が蒼白になるのが分かった。その後その男女は喧嘩を始め、メイリーンは去って行く。
そんな光景をヒューマは何度見てきたか。
声を掛けた夜会より少し前から、メイリーンを見てきていたヒューマ。
―――面白い……あの根性なのは、冷酷と名高いから来るのかとも思ったが、何故男女の場から去る時、寂しい顔をするのか………暴いてみたい!
そして、メイリーンに声を掛けに足を向けたのだった。
「メイリーン嬢」
「…………貴方は、ラビアン伯爵?」
―――知っていたか、俺を
「………えぇ、よくご存知で」
「貴方を知らぬ人は居られませんわ………オルタナ国の将軍ですもの………何故、獣人貴族の貴方がこの夜会に?」
怪訝そうにヒューマを見つめるメイリーンは、警戒心丸出しの、飼い主以外に懐かない家猫の様だ。
「俺は、友人のパートナーですよ……貴女は1人で来られた様だが?」
「わたくしの噂聞いてませんの?………伴侶となる方を選ぶ為に、夜会に来て男性達を漁る、と………」
「知ってますよ?………だが、それが何だと言うのです?婚約者や恋人が居る男等、食って捨ててるのは、獣人の様だ………人間だけの夜会にしか参加しないメイリーン嬢」
「獣人と一緒にしないで頂けます?………わたくし、獣人の方との結婚は避けたいだけですわ」
―――警戒心は、報告以上だな……
「……………ほぅ?………それは何故です?」
「言いたくありませんわ……失礼致しますわね」
逃げられる訳にはいかないヒューマ。先ずは会話が出来る時間が欲しかった。それなのに、ヒューマは任務より好奇心が勝ってしまう。
「それなら、一夜限りの遊びは如何です?」
「……………え?」
「…………興味…………ありませんか?俺は……」
―――俺から誘う事なんて無かったんだが、男漁りをしているのは周知……それなら、誘った所で後腐れはない筈……
「…………っ!」
誘いに乗るか如何か、ヒューマには分からない。それでも、直感でこの機に逃げられたら、ヒューマへ更なる警戒心を持つと思っていた。
「…………今日絶対に伴侶を見つける必要ありませんよね?………俺は、貴女に興味あったのでお誘いしてるのだが?………さぁ、この手を……取らねば、俺は会場中の女を相手する羽目になる……」
「……………あ……」
あと一推しに、フェロモンを出したヒューマに、メイリーンが落ちたのを確認すると、直ぐに会場を後にしたのだった。
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