26 / 30
排除
しおりを挟む「扉を開けなさい!」
「お、奥様………あ、あの………何方へ?」
邸入口の扉を中から開けない様に立つ侍従が2人。恐らく外にも待機しているだろう。
「外の客人方を門内に入れなさい………あれでは目立ってしまうでしょう?」
門外に馬車がザッと見ただけで、5台はあったのだ。往来する人達の目がある。せめて門内に入れて侍従達が対応すればいい、とメイリーンは安易に考えていた。
「で、ですが、旦那様は来客予定が無い方を邸内には入れるな、と仰っておりまして」
「旦那様がお留守の時はわたくしが責任者ではないの?そうでしょう?クロード」
「奥様、それはそうなのですがあちらの方々は、奥様が対応される事はございません」
「…………何か隠している様だけど、こういう事も女主人が対応してこそのラビアン伯爵の品位に関わる事ではなくて?」
「…………そ、その通りではあるのですが………あちらの方々は、旦那様の過去の付き合いのあった令嬢方でして………」
「そんな方々が何故、ラビアン伯爵邸に来るの?」
「…………恐らく、旦那様への未練………かと……」
「……………なるほど……そうなのね………いいわ、わたくしが対応致しますから、門内に入れて差し上げなさい」
「奥様!なりません!旦那様が対応なさいますから!」
「まだ帰って来ないではないの………大丈夫よわたくしは『冷酷令嬢』と言われていたのですもの、嫉妬であれば如何ようにもあしらえますわ……扉を開けなさい!」
「奥様の警護にあたるのだ!」
―――大袈裟ね……皆……
メイリーンは大袈裟だ、と思っていた。今迄はメイリーンがあしらっていたのは人間の令嬢ばかり。だが甘かったかもしれない。
ヒューマの相手してきた令嬢達は人間だけではないのだ。
「………ラビアン伯爵邸に何用ですの?」
門内に入って来れた令嬢達や令嬢達の侍従達の前で、メイリーンはラビアン伯爵邸の侍従達と共に対峙する。
「ヒューマ様を出しなさい!」
「結婚されたなんて信じられないわ!」
「ヒューマ様は騙されているのよ!」
「…………まぁ、怖い方々……」
怒鳴られるメイリーンだが、メイリーンは全く相手を見ずに、目線を伏せてクスッと笑った。
怒る相手に怒りを見せるつもりは無いメイリーン。
「何ですって!」
「この女………バインベルク男爵令嬢よ!『冷酷令嬢』の!」
「『冷酷令嬢』!?あの男漁りの?だったら、ヒューマ様は騙されていらっしゃるのよ!絶対だわ!」
「…………わたくしの事は何を言って頂いても構いませんが、わたくしを侮辱したお言葉は、ラビアン伯爵であるわたくしの夫を侮辱したのと同じ事ですわよ?そんな事も分からない方々ですの?…………見知ったご令嬢も居られますが、こんな風に押し掛けて、生家の恥になりませんかしら?」
メイリーンには久々の令嬢達を蔑む言葉を連ね、噂通りの冷酷振りを見せてはいるが、正論ではあった。
「メイリーン嬢が言える立場かしら?貴女の男漁りは、知らない人は居ないのよ!」
「…………あら………わたくしから男性方を誘った事等ありませんわよ?………どの方々も男性からお声が掛かり、わたくしもこの方なら、と応じただけの事………ですが、残念な事に、皆様婚約者や恋人が居られ、男性方の火遊びにお付き合いさせられた、悲しい末路ばかり…………わたくしは令嬢達にただ一言、貴女のご婚約者は浮気しましたよ、とお伝えしただけですのよ?それ…………浮気された腹いせの仕返しでわたくしの所為に仕上げたかった令嬢の嫉妬ですわ………訂正するのも馬鹿らしくて、噂が飛び交ったのは、そんな令嬢方達が捻じ曲げて広めた話ですし………」
メイリーンは、勘違いされて誤解を招いたと聞かせた。それは、メイリーンを知るラビアン伯爵邸の侍従には、同情迄する者も出て来て、悲しみの表情を見せている。
「夫、ヒューマ様に関しても同様ですのよ?ヒューマ様がわたくしに声を掛けて来られ、わたくしは魅了されて番いになりましたわ………紆余曲折はあったとは思いますが、番いになれてわたくし、幸せですの………ご安心なさって?皆様…………これからは男漁り等、もう致しませんし、ヒューマ様の番いになりましたから、他の男性等見向きも致しませんし、ヒューマ様に他の女性に見向きもさせませんから、どうぞ他あたって下さいな」
「な、何言ったって信じないわよ!散々別れさせてきたクセに!」
「修復の余地は皆様あった筈ですわよ?しつこい男性にはわたくしから、お別れのお手紙差し上げたり、お相手の令嬢にお知らせもした事もありました」
温度差の違う会話が続けられ、乗り込んで来た令嬢達の怒りの熱とメイリーンの冷静な空気の間に一筋の風が吹いたと共に、邸の外から馬の蹄が近付いて来た。
「旦那様がお帰りになられたぞ!」
「奥様、お下がりを」
「何故下がる必要がありますか?旦那様をお迎えするのもわたくしの勤めです……このままでいいわ」
侍従達より前に出ていたメイリーン。令嬢達を見つめ、冷ややかに微笑むと、また冷ややかに言葉を連ねる。
「夫が帰って来ますので、その邪魔な馬車達を退かして頂けます?お招きしてはいないのですから、さぁお帰りを」
「失礼ね!この淫乱が!」
令嬢達の中に、獣人も居たのはメイリーンにも分かっていた。だが、獣人の令嬢は流石に人の目があるので獣姿にはならないだろう、とメイリーンは高を括っていたのだ。
獣人は裸にならなければ獣姿にはなれない。ドレスを破って迄はその姿にならないと見ていたのだが、血の気の多い令嬢の内1人が獣姿になると、もう1人、また1人と姿を変え、メイリーンに襲い掛かろうと駆け出す。
「止めろ!我が家で何の騒ぎだ!」
「「「!!」」」
騎乗から降りて、黒豹姿でメイリーンを守る様に、ヒューマが割り込むと、令嬢達に威嚇した為、令嬢達は留まる。
「ヒューマ様!」
「旦那様!良かった、間に合いましたな」
「クロード!どういう事だ!メイリーンには内密に対処しろと言ってあっただろ!何故こんな危険に晒す!」
「も、申し訳ありません!」
ヒューマが令嬢達を威嚇後、邸の侍従達に檄を飛ばす。
「ヒューマ様!彼等を怒らないで下さい!わたくしが勝手に出たのです!わたくしにひた隠ししてくれてましたわ!それをわたくしが無理を言ったのです…………ヒューマ様、わたくしは大丈夫ですから」
「メイ!大丈夫ではない!振るえているじゃないか!」
「っ!………わたくしはヒューマ様が皆に怒るから、怖くなっただけです!」
本当は、肉食獣の令嬢達に襲われそうで怖かった。ヒューマの姿を見てホッとしていたが、まだ身体が振るえている。隠そうとしていたが、擦り寄るヒューマに気付かれてしまった。
「…………そういう事にしておくか……」
ヒューマは黒豹の姿でメイリーンの太腿に擦り寄り、尻尾で腰を抱き寄せると、令嬢達の前に向かう。
「言いたい事があるだろうが、彼女は俺の番いになった………お前達とは縁が無かった、ただそれだけだ………俺は、もうメイリーン以外の女は抱かん、立ち去れ………さもなくば、お前達の父親達に圧力を掛けるぞ」
「し、失礼しますわ!」
「帰ります!」
ゾロゾロと、令嬢達は馬車に乗り込み帰って行く。それを見てメイリーンはその場に座り込んでしまった。
「メイリーン!」
「…………腰抜けちゃいました……びっくりして……」
「メイ、背中に乗れ……部屋迄連れてってやる」
獣人姿のままで、ヒューマはメイリーンを乗せるのは初めてで首元にしがみついて、何とか背に乗った。
「クロード」
「はい」
「令嬢達の家にこの事を細かく説明して、報告しておけ………何処の令嬢かは分かるだろ?」
「勿論でございます………奥様に恐怖心を与えた事も含め、謝罪を求める様に通達致します」
「頼んだ」
後日、押し掛けて来た令嬢の父親に連れて来られた令嬢達が謝罪しに来たのは言いまでも無かった。
14
お気に入りに追加
358
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】愛するつもりはないと言われましても
レイラ
恋愛
「悪いが君を愛するつもりはない」結婚式の直後、馬車の中でそう告げられてしまった妻のミラベル。そんなことを言われましても、わたくしはしゅきぴのために頑張りますわ!年上の旦那様を籠絡すべく策を巡らせるが、夫のグレンには誰にも言えない秘密があって─?
※この作品は、個人企画『女の子だって溺愛企画』参加作品です。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
【完結】Mにされた女はドS上司セックスに翻弄される
Lynx🐈⬛
恋愛
OLの小山内羽美は26歳の平凡な女だった。恋愛も多くはないが人並に経験を重ね、そろそろ落ち着きたいと思い始めた頃、支社から異動して来た森本律也と出会った。
律也は、支社での営業成績が良く、本社勤務に抜擢され係長として赴任して来た期待された逸材だった。そんな将来性のある律也を狙うOLは後を絶たない。羽美もその律也へ思いを寄せていたのだが………。
✱♡はHシーンです。
✱続編とは違いますが(主人公変わるので)、次回作にこの話のキャラ達を出す予定です。
✱これはシリーズ化してますが、他を読んでなくても分かる様には書いてあると思います。
【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。
水樹風
恋愛
とある事情から、近衛騎士団々長レイナート・ワーリン伯爵の後妻となったエルシャ。
十六歳年上の彼とは形だけの夫婦のはずだった。それでも『家族』として大切にしてもらい、伯爵家の女主人として役目を果たしていた彼女。
だが結婚三年目。ワーリン伯爵家を揺るがす事件が起こる。そして……。
白い結婚をしたはずのエルシャは、伯爵夫人として一番大事な役目を果たさなければならなくなったのだ。
「エルシャ、いいかい?」
「はい、レイ様……」
それは堪らなく、甘い夜──。
* 世界観はあくまで創作です。
* 全12話
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
【完結】鳥籠の妻と変態鬼畜紳士な夫
Ringo
恋愛
夫が好きで好きで好きすぎる妻。
生まれた時から傍にいた夫が妻の生きる世界の全てで、夫なしの人生など考えただけで絶望レベル。
行動の全てを報告させ把握していないと不安になり、少しでも女の気配を感じれば嫉妬に狂う。
そしてそんな妻を愛してやまない夫。
束縛されること、嫉妬されることにこれ以上にない愛情を感じる変態。
自身も嫉妬深く、妻を家に閉じ込め家族以外との接触や交流を遮断。
時に激しい妄想に駆られて俺様キャラが降臨し、妻を言葉と行為で追い込む鬼畜でもある。
そんなメンヘラ妻と変態鬼畜紳士夫が織り成す日常をご覧あれ。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※現代もの
※R18内容濃いめ(作者調べ)
※ガッツリ行為エピソード多め
※上記が苦手な方はご遠慮ください
完結まで執筆済み
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
【R18】軍人彼氏の秘密〜可愛い大型犬だと思っていた恋人は、獰猛な獣でした〜
レイラ
恋愛
王城で事務員として働くユフェは、軍部の精鋭、フレッドに大変懐かれている。今日も今日とて寝癖を直してやったり、ほつれた制服を修繕してやったり。こんなにも尻尾を振って追いかけてくるなんて、絶対私の事好きだよね?絆されるようにして付き合って知る、彼の本性とは…
◆ムーンライトノベルズにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる