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招待
しおりを挟むメイリーンがラビアン伯爵家に居候を始めてから一週間程経過した。
ヒューマはメイリーンの警護もあるので、必要な事以外の外出を控えていた。
「旦那様、仕立て屋と宝飾職人が参りました」
「来たか………メイリーンは?」
「庭で、薔薇を鑑賞されております」
「薔薇?」
「メイリーン様は華やかな方ですから、薔薇もお好きな様ですよ?旦那様」
「…………いいから、メイリーンを部屋に戻せ……ドレス数着と、似合う宝飾を選ばせろ」
「…………畏まりました」
メイリーンがバインベルク男爵家から持って来たドレスの着回しも不満は無かった様だが、ヒューマはドレスをメイリーンに贈りたくなり、仕立て屋を呼んでいた。
―――薔薇か………確かにメイリーンに合いそうだ
赤み掛かった茶の髪色で、少しウェーブ入った柔らかな髪質のメイリーンに真紅の薔薇は似合うだろう。着ているドレスも薔薇をモチーフにした刺繍やコサージュを着けているのをヒューマは見ている。
「庭に薔薇を増やさせるか………」
庭師にも指示を出し、ヒューマも部屋に行くと、再びやって来た執事に呼び止められた。
「旦那様」
「如何した?」
「ラノック公爵から招待状が届いております」
「………ラノックから?……見せてくれ」
執事から招待状を受け取ると、血生臭さを感じる匂いがする気がしてならないヒューマ。
―――嫌な匂いだ……いろんな女の匂いも漂っている……
同じ肉食獣の獣人ではあるが、黒豹は獲物を弄ぶ様な捕食等しない。空腹感が無くても獅子は狩りをする事もある。それを豹はしないだけで嫌悪感さえあったヒューマ。獲物は確実に落として捕食するのが美徳、そう思っている。木の上から、又は草むらの影から群れを作らず獲物を捕る事がスリルがあると思っているからだった。
「…………クソっ!ラノックにバレてたか!」
「旦那様?」
「予定変更だ、メイリーンに夜会用のドレスも作らせろ!宝飾もそれに合わせてな!俺は今から登城する!」
「畏まりました」
ラノック公爵側に動きが無かったのもあり、のんびりと警護していたのを悔いて、直ぐに騎乗し登城をしたヒューマは、オルタナ国国王ケイドンに謁見を申込んだ。
「如何した、慌てている様だが」
「申し訳ありません、陛下………先日のオルゴールの事は分かりましたでしょうか?」
「いや………まだだ……あの内蓋の地図は、他国ではない」
「他国ではない?」
「そうだ、国としては成立していない無人島の地図………イパ島から南西に300キロ程離れた諸島の無人島だそうだ」
「…………其処に何が…………」
「ジャイロ公爵の部隊を行かせてみるか?」
「…………そうですね……」
「要件はそれだけでは無いのだろう?」
「…………ラノックに動きがありました」
「…………どういった動きだ?」
ヒューマは、ラノックから送られて来た招待状をケイドンに見せた。
「…………これはまた、如何にもだな」
「はい………メイリーン嬢をパートナー指定で俺を夜会に招待する等おかしいですからね」
「………それで、如何する?」
「夜会に出席しますよ、メイリーン嬢を連れて……パートナー同伴ですし」
「そうだな………ジャイロとバルサムも同じ様に招待状が来ているかもしれんが、来ていたら出席させよう」
「その方が心強いです」
謁見が終わると、ヒューマが歩く先にラノック公爵が他の貴族達と談話していた。
「よぅ、ラビアン」
「久々だな、顔を合わせるのは」
「招待状は見たか?」
「招待状?………悪いが城に居たんでな知らん……ラノックが送ったのか?俺に………珍しいじゃないか」
嘘でも本当でもないが、ラノック公爵には悟られてはならない。
「最近、お前の邸に女を囲っているらしいじゃないか」
「…………あぁ、バインベルク男爵の娘の事か?確かに預かってるが何だ?」
「美味かったか?」
「…………それは、城で話す話か?獣人同士の場でならいざ知らず、人も居るのだぞ、品位に欠ける」
「お前が言うか?同じ様に捕食者の獣人が」
「俺は場を弁える性分でな………急ぎの仕事があるから失礼する」
「…………返して貰うぞ」
「…………何をだ?訳が分からんな」
「アレは俺のだ」
「……………そうか……何か分からんが、お前から奪った物があるなら、ソレを俺に教えるんだな、筋が通らん」
話す気も無かったヒューマだが、ラノック公爵が話掛けるのだから、話に応じたヒューマ。思わぬ収穫がありヒューマはラノック公爵に背を向け、歩みを再開する。
「ちっ………相変わらずな奴だ」
―――聞こえてるぞ、ラノック…………賭けは俺の勝ちだな………今夜は貪らせて貰うとするか……
メイリーンとの賭けは、ヒューマの勝ちだった。それをメイリーンに言った所で証拠は何も無いが、招待状が物を言うだろう。
それを見た時のメイリーンの顔を思い浮かべると笑いが止まらない。
『○月✕日ラノック公爵邸にて、夜会を開催する旨をお知らせ致します。
必ずパートナー同伴にてお願い致します。
追伸:ラビアン、近頃お前のお気に入りのバインベルク男爵令嬢を連れて来い。』
とある。態々、メイリーンを指名する辺り、ラノック公爵がメイリーンに執着心を持っているのは明らかだ。
メイリーンに執着しているのか、はたまた贈り物の方かは分からないが、その2つは既にヒューマの手中にあり、メイリーンを説得すればマーキングが出来る為、警護もしやすくなるので手中に納めたのも当然の事だった。
ヒューマが帰宅すると、メイリーンは訝しげにヒューマを見ている。
「メイリーン、如何した?」
「執事のロバートから、聞きましたわ……夜会があるとか……その夜会のドレスを作らせたのですか?」
「そうだが?」
「部屋着のドレスだけでは無かったのです?そう聞き及んでおりましたけど」
「急遽変更になってな…………これを……」
「…………招待状?………見ても宜しいのです?わたくしが」
「君に関係するからな」
テーブルを挟み手渡された招待状を開封するメイリーンは、ワナワナと手を振るわせていた。その手は怒りの振るえの様だ。
「なっ!とんでもないですわ!」
「賭けは俺の勝ち、だな?」
「ま、まだ分からないではないですか!」
「これははっきりとした、ラノックの意思表示だぞ?」
「マーキングではなく、メイクで何とか………ほら、直ぐに消せますでしょう?」
「却下」
マーキングをするしないで、こんなに頑なな態度にヒューマは少々ショックを受けているのだが、メイリーンは気にもしない。
―――この女は!
「きゃ!」
「諦めろ、メイリーン」
ラビアン伯爵邸でもうお馴染みとなった、ヒューマのメイリーン肩担ぎがリビングで行われ、侍従達は微笑ましく見ていた。
「俺が呼ぶ迄部屋に近付かなくていい」
「畏まりました」
メイリーンとヒューマを見送る侍従達は、口を揃えて言う。
「旦那様、何故メイリーン様に告白しないんだ?」
「俺に聞くなよ」
「あんなにも旦那様分かりやすいのに、メイリーン様も気が付かないのかしら」
「鈍くていらっしゃるようね」
「俺達は応援していこう!」
「そうよね!お2人をくっつける事もしましょう!」
「それはもうしてるだろ、旦那様の部屋にメイリーン様が休んでいるんだ」
「ほぼ毎日、房事してらっしゃるわ」
「時間の問題だな」
勝手に、ラビアン伯爵家の侍従達は応援団なるものを作った事は2人は知らなかった。
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