7 / 30
事情
しおりを挟むヒューマの部屋に食事が運ばれる。
明らかに2人分にしては量が多いだろうと思われた料理の数々に、メイリーンは驚いている。
「何を驚いている?」
「………いえ……バインベルク男爵家でもこれ程の量は出さないので………4人家族ですが、それ以上で驚いてますの」
「全部食うぞ………メイリーンは病み上がりでどれだけ食べるかは分からないが、獣人は人間の倍以上食べている」
「そ、そうですか………」
鶏の丸焼きやローストビーフだろうか、塊で運ばれて、スープやパンも量がメイリーンの前に出された倍の量がヒューマの前にある。それを見事に完食するというのだから、その分消費してあの筋肉隆々な体型の維持は大変な筈だ。
「メイリーン」
「は、はい」
「侍従達から少しは聞いてるか?」
「…………帰らせて頂きたいですわ」
「それは、今から説明する事で答えを出してくれ」
「………納得出来なければ帰りますから」
「強情なお嬢様だ………冷めない内に食べよう……薄味で人間の口に合うかは分からんが」
「お昼に頂いたスープ、美味しかったですわ」
「………そうか……なら良かった」
帰る気でいるからメイリーンは出された物や作った人に対して失礼な事は出来ないが、薄味とヒューマが言うだけあり、こればかりだと飽きそうではあるだろう。
「昨夜も聞いたが、何故人間の伴侶に拘る?」
「……………言いたくありませんわ」
「如何しても聞きたいんだが?」
「ラビアン伯爵様に関係ございます?」
「…………今、捜査している事に関係ある可能性がある………教える気が無いなら、反逆者になり兼ねるが?」
「そ、そんな大それた事ですの?わたくし犯罪をした覚えございませんよ!?」
話を始めたヒューマの言葉に、意外だとばかりの反応をするメイリーンは、千切りかけたパンを怒り混じりでぶち切った。
「言い方が悪かったな………君は何故、伴侶に獣人は嫌がる?」
「っ!…………い、言わなければなりませんか?」
「房事はしてもいいが、伴侶は駄目?今迄、獣人との恋愛はしてきたのなら、伴侶の選択肢はあるのでは?」
「…………結婚相手が只1人、と決めて頂けたら考えますわ…………ですが、そんな獣人貴族居まして?特に獅子の………っ!」
感情任せに、まくし立ててしまったメイリーンは、獣人上位貴族に触れてしまった。不敬な事だと直ぐに口を閉ざす。
「……………ラノックか?」
「失言しましたわ………まぁ……以前に少し……」
「…………そのラノックについて、君は何か貰ったり預かっている物は無かったか?」
「貰ったり、預かっている物?………幾つか頂きましたわ………上位貴族の方でもありますし、捨てるのは失礼かと思い、高価な物は流石に不釣り合いだ、とお返しした事はありますが」
「それを、少し調べさせてくれないか?」
「……………構いませんが、それが何かありまして?」
メイリーンは興味が出たのか、突っ込んで聞き返す。
「君は、それ等を貸してくれるだけでいい」
「気になりますわ………その中でもわたくし、如何しても気に入っている物がありますの……壊れたりしませんか?」
「気に入っている物?それは何だ?借りる時は慎重に扱う」
「オルゴールですの」
「オルゴール?」
「はい、とても綺麗な音色の曲なのですが、イパ島でも聞いた事の無い音色で癒やしてもらってますわ………もしかしたら、イパ島以外からの物かと……鎖国をしているのに、とても不思議なのですけど、わたくしの宝物ですわ……返して欲しい、と仰られないか、お付き合い無くなってから暫くビクビクしましたけれど」
「……………明日、それ等を預からせて欲しい」
「お預けしたら、わたくし帰れますの?」
「……………まだ、駄目だ」
目の前のローストビーフを豪快に切り分けられたのを、ヒューマは侍従から受け取ると、それまた豪快に口に運ぶヒューマを見て、メイリーンは胃がムカムカしそうになる。
―――胃もたれしそうだわ、わたくし……
さっぱりした味付けのローストビーフだろうと、ほぼ塊肉だ。量もある。
「何故ですの?」
「今朝、バインベルク男爵家に君との婚姻話を持ち掛けた」
「…………聞きましたわね、それ」
「花嫁修業もさせたいし、メイリーンに気に入って貰えるよう、暫く預からせて欲しい、と言っておいた」
「なっ!わたくしの了承無く、する事ですの!?」
「…………今、ラノックの話をしただろう?……君はまたラノックの餌食になりたいなら構わないが、ラノックから贈られた物は調べさせて貰いたい………その為に、君は俺の傍に居る必要がある」
「…………わたくしがラノック公爵様に言い寄られる事はもうございませんわ」
「何故言い切れる?」
「………ゔっ……今度はチキンの丸焼き……」
ヒューマはむしゃむしゃと食べ進めてはいるが、今度はチキンの丸焼きのウィング部分を手で千切り、齧り付いている。
メイリーンは見ているだけでお腹いっぱいになっていた。ナフキンで、口を押えてヒューマから目を逸らす。
「メイリーン?」
「…………わたくし夢中でしたのよ、ラノック公爵様に……初めて身体を捧げ、マーキングされた時は天にも登る気分でした………ですが、後から後から蛆虫が湧くかの如くに女の影がチラついて………一瞬で冷めましたわ」
「蛆虫…………プッ……ラノックに聞かせてやりたいな………」
「マーキングされた事を後悔し、わたくし3ヶ月引き篭もりましたもの」
「それは何故だ?」
「社交場に出れば、わたくしに言い寄る方が居られませんでしょう?わたくしはわたくしだけを愛してくれる方でなければ、わたくしは結婚致しません!獣人との婚姻は、不特定多数のパートナーを持つ種族ばかり……わたくし耐えれませんわ!」
黒豹獣人のヒューマの前で力説するメイリーンはやはり強情さを兼ね備え、信念を貫き通すつもりの様だ。
「一夫一妻の獣人を選んでもいいのではないか?」
「肉食獣人の種族でその様な方お見えですの?狼獣人のバルサム公爵様は、ご結婚されておりますし、わたくし犬科ではなく、猫科が好みですわ!」
「…………なる程……狼は犬だな……だが、狼の愛は深い……死を分かつ迄パートナーは変えない種族だ」
「羨ましい関係ですわ」
メイリーンが意外とロマンチックな所があると知ったヒューマは呆れる事なく、メイリーンの顔を見ている。
「確かに獅子は猫だな………仕方ない、男の獅子は女を侍らし威厳を保つからな」
「本当………いやらしい方ですわ!好きだった事に後悔し止まないですもの………所で豹は如何なのです?」
「…………獅子の様な女を侍らしたりはしないが………まぁ精力が強いからな……1人の女が全部受け取る疲労感は並大抵では無いだろう」
「……………聞かなければ良かったですわね……思い出してしまいましたわ」
「…………フッ……安心しろ、今夜は抱かん………まだ体調も良くはなってはいないのだろう?」
「わ、わたくしがいつ、此方にお世話になると言いました?」
「話が逸れたが、ラノックにまた狙われてもいいのか?此方に居たらラノックは手出しして来ないが、君のバインベルク男爵家だと、ラノックは地位をカサにして、君を寄越せと言ってくる可能性もあるぞ?」
「だから、それは絶対に無いですわよ……1年半音沙汰無いのですし」
「…………絶対に?」
「はい、絶対に」
「本当だな」
「しつこいですわね、ラビアン伯爵様」
知らぬは本人ばかり。
「獅子の執着心は強いからな………では賭けでもしようか、メイリーン」
「賭け?何を賭けますの?ラノック公爵様の執着心を賭けてもわたくし勝ちますわ、きっと」
「では俺が勝ったら…………」
「勝ったら?」
「マーキングさせろ」
「……………嫌ですわ!」
余程、メイリーンがマーキングされるのが嫌いなのだろうとは、ヒューマももう分かっている。しかし、必要な事だとメイリーンとの話で感情より先に任務遂行が優先された。
「マーキングするにも意味がある」
「…………意味なんて、独占欲ではありませんか、結婚するならいざ知らず、結婚もしていないのにマーキングされて………わたくしは独占欲受けるなら精神的に繋がる独占欲の方がいいですわ!痣は嫌です!鬱血痕だって痣ですのよ!いっぱい着けられて恥ずかしいです」
「そんな意味ではない………獣人のマーキングはその者を守る為に存在する」
「…………守る為……?」
「自分の匂いを相手に着け、他の獣人を牽制し、例え遠くに居てもその匂いを辿り見つけ出す……だからラノックから守る為にマーキングさせろと言ったんだ」
「…………分かりましたわ……でもわたくしが賭けに勝ったらしないですから!」
「それでいい」
翌日に、メイリーンの実家バインベルク男爵家に行く事になり、メイリーンも体調がまだ戻らないので、食事を済ませてから直ぐに就寝する事となった。
15
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる