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エピローグ

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 由真が桐生から、写真コンクール初日にプロポーズを受け、展示最終日になった日。
 その間、桐生の写真は高評価で、最優秀賞でなくとも、桐生に新たなスポンサーが付くようになっていた。
 美術館の閉館前に、受賞者が発表されるので、それに合わせて由真は多部と一緒に美術館に来ていた。

「私もあんな風に撮って貰いたいわ」
「私も」

 由真が写る桐生の写真は好評で、ファッション誌経由で評判を聞きつけたモデル達も、桐生に色目を使っていたのには由真も驚いた。

「多部さん、翼希さんは人を撮る事ってでしか無かったんでした?」

 とは緊縛写真の事だ。
 桐生が緊縛写真を撮る時は名前は桐生翼にしているのと、ファッション誌のモデルでは知らない人も多いかもしれない。

ばかりでしたね………ですが、これからは増えるでしょうね………あれだけあの1枚に愛情オーラが溢れちゃってますから」
「っ!」

 そう、桐生はインタビューした記者に、婚約者になった由真への愛情だと言っていて、その熱意がヒシヒシと伝わるぐらい惚気まくっている。
 余程、プロポーズが成功し浮足立つのは分かるが、プロポーズされたその日から、由真は身体中が疲れている。
 止まらぬ性欲沼に溺れさせられて、緊縛も含むSMプレイも止まってくれなくなったのだ。

「結婚したら如何なるんでしょうね、オーナーの独占欲」
「…………私も、翼希さんへの独占欲はありますから、お互い様です………」
「ん?………あぁあ………抱き着かれちゃってますね、オーナー」

 モデル達に腕を組まれ、自撮り写真を撮らされている桐生も、この場では断り切れないのだろう。
 由真の嫉妬心が多部をも呆れさせた程、お互いに独占欲が強い2人だという事を知っているからだ。

「もう、受賞者発表されますから」
「…………ですね……後で嫉妬ぶつけなきゃ」
「それは、終わってからで」
「はい、2人きりの時に」

 受賞者が発表され、予想通りの結果となった。

「おめでとう、桐生翼希君」
「ありがとうございます………桐生朱雀先生」
「桐生翼希さん、お父さんと同じ写真家という事ですが、どういった存在ですか?」

 記者達の前での質問は時には困る事もあるが、桐生は答えていく。

「父は………僕の目標であり、越えなければならない高く厚い壁です。父も祖父も同じ写真家で、父もまた祖父の厚くて高い壁を乗り越える事を目標にしてきていたと思いますが、僕は2人の高い壁を乗り越えなければならないと思っています。それには、僕の創作意欲を沸き立ててくれる婚約者が居てくれれば、可能かとも思いますし、一緒なら父や祖父の存在は怖くありません………以前は父も祖父もライバルとは思えなく、乗り越えられずに諦めて一時、写真家としては一線を引きましたが、今はライバルと見れる自信に繋がりました」
「………翼希……」
「桐生朱雀先生はこれを聞いてどう応えていきますか?」
「受けて立ちますよ………息子にまだ越えられない様に……そしていずれ孫も見られるでしょうから、孫の写真を撮って競い合いたいですね……私も父とこの子を撮っていた時の様に」
「…………父さん……」
「おめでとう、翼希………婚約もな」
「ありがとう、父さん」

 この父子の写真家の事も話題になり、朱雀もまた写真家としての人気度が上がったのは言うまでもない。
 授賞式も終わり、祝福の挨拶も忙しのに、桐生は由真の方へ、隙あらばやって来ては連れて行かれていて、暫く桐生は解放されないだろう。

「板倉さん」
「桐生先生………素晴らしいお話を聞かせて頂きありがとうございます」
「翼希にも今言ったが、婚約おめでとう………翼希を宜しくお願いします」
「っ!………此方こそ、至らぬ点も多い私ですが宜しくお願いします」

 お互いに深々と頭を下げ挨拶をし、顔を見合わせた由真と朱雀。

「翼希から聞いたよ……会社を辞めて翼希の仕事を手伝ってくれる、と」
「はい………フリーでルポライターの仕事の傍らですが」
「君は、翼希の専属モデルにならないのかい?あの写真は素晴らしかったが」
「む、無理です………私には……多分……」
「そうか………残念だ……翼希から聞いたかい?あの写真の場所の事」
「いえ………ただ、好きな場所だ、と」
「あの場所は家族旅行でよく行った場所だったんだよ………まだ私達が戸籍上親子だった時のね」

 だから、由真にまた一緒に来よう、と言ったのか、と納得した。

「私、あの近辺なんです、実家」
「そうなのか………それであのホテルへ……でも翼希なら時期を見て連れて行くだろうな………私が父との諍いが絶えない時、翼希が一番傷付いていたから、家族という物に拘りがあるんだろう」
「…………そうかもしれません……実家へ挨拶に行った時、翼希さんはよく笑ってくれてました」
「…………そうか……君の家族は、仲が良いんだな………公私共に支えてやって欲しい」
「…………はい……」
「ではな………翼希が私に睨んでいるから退散するよ」
「…………プッ……」

 目の前で、由真と朱雀が話をしていて面白くないのだろう、桐生が自分の父に対して嫉妬心を露わにしていた。

「父さん………余計な話してないだろうね」
「はて?そうだったかな?由真さん」
「特に世間話ですよね、お義父さん」

 朱雀が、由真の名を言ってくれたので、嫁として見てくれているのだと思い、由真もと言うのを止めた。

「由真、本当に?」
「疑り深いな、お前は………義理の娘として宜しく、と話をしていただけだ………結婚式をするなら、私も招待してくれよ、翼希」

 そう言って、朱雀は他の場所へと離れて行った。

「由真、俺達も帰ろうか」
「良いんですか?祝賀パーティーがあるとか聞きましたけど………」
「ただ、酒飲みたいだけだろ?俺、車で来てるし飲めないなら居たくないな………それより、由真と2人で祝賀パーティーした方が有意義に過ごせると思わないか?………ベッドの上とか……」
「っ!…………ですね………私もそれがいいです」
「決まりだな………じゃ、多部……俺達帰るから」
「…………はいはい……どうぞごゆっくり」

 そして、今夜も束縛と緊縛の世界へ…………。



       𝐸𝑁𝐷‪𓂃𓈒𓏸◌‬


*後日、番外編を公開予定です。
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