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しおりを挟む由真が起きたのはアラームが鳴る前だった。
---寝落ちしちゃったんだ……翼希さん、身体も拭いてくれてる……
抱き締めてくれて、横で眠る翼希の存在が幸せ過ぎて夢の様だ。
セックス中はコンタクトを外さないと、いつ寝落ちするか分からない由真は、離れた場所に翼希の顔があるとよく見れない。
だから、抱き合って眠っているこの瞬間が桐生の確認しやすい時間だった。
---寝顔も素敵だなぁ……
起こさない様に見つめていると、アラームが鳴った。
「え?………何でアラーム?」
「…………ん……由真ぁ……起きたなら、バスローブ羽織って………バルコニーに出て見ておいで………朝日が見えるから………」
「あ………見たいです………翼希さんも一緒に………」
「俺は………もう少し………寝る………」
「え~!瞬間見ましょうよ………」
「…………じゃ、また起こして……」
由真は桐生も疲れさせていたのか、と思い、素肌のまま目の前のバスローブを羽織った。
「外から覗かれませんかね?」
「…………覗かれる建物無くない?………」
「…………そうでしたね……少しならいっか……バスローブだし………」
由真は隠せるので、そのままバルコニーから眺めて太陽が昇るのを待った。その後ろで桐生が身体を起こし、準備しているのも気が付かず。
「綺麗…………翼希さん!昇って来ましたよ!」
「っ!…………由真、そのまま外見てて!」
「え?何で………?」
「いいから!」
由真の背後でシャッター音が聞こえ、由真と朝日を撮っているのだと分かった。
何枚も桐生がシャッターを押す。この中で気に入った1枚を見つけるつもりなのだろう。そう、割り切れた瞬間、海風がバルコニーに入って来ると、由真の髪が靡き、由真は髪を抑える様な仕草をする。
「っ!」
由真が一瞬横顔を桐生に見せたが、上手く顔が腕に隠れ、口角も上がり微笑む表情を予感させた1枚が撮れる。
「風強かったぁ………寒いかも……でも見たいし………翼希さん、本当に一緒に見ません?写真撮りたいか………」
「ん?」
「カメラはもう良いんですか?」
「オートに変えたからこのままシャッター押してるよ………俺も由真と朝日見たいし」
桐生もバスローブを羽織り、由真を抱き締めてバルコニーに出て来た。
「翼希さんと自撮りだ」
嬉しそうに微笑む由真に、キスを贈る桐生。
「ん………キス写真……要り………ます?」
「記念」
「っ!」
何の記念かは分からないが、思い出深い日には間違いなく、由真も桐生を抱き締め返すと、太陽は地平線から昇りきった。
「綺麗でしたね、朝日」
「俺は、由真しか見てなかったけどね」
「一緒に見ましょうよ」
「また来年ぐらいにな………もしかしたら、妊娠してるかもしれないし………」
「…………いいですね、それ………また写真撮って欲しいです」
「じゃあ………この時期に毎年来る?」
「はい!………あ、今の写真も見せて下さい!」
「…………それは………まだ見せない………来年以降は直ぐに見せてやるから」
「何か考えてるんですね」
「…………コンクールに出展しようかな、て」
「…………楽しみにしてます」
カメラの画像を桐生は直ぐに確認はしてしまったが、由真は見られない。
それには寂しさを覚えるが、手応えを感じているのか、桐生は画像を見て微笑んでいた。
「由真………まだチェックアウト迄時間あるし、寝落ちした分足りないから………」
「っ!」
再び、カメラをベッド脇に置いた桐生はバスローブを脱いでしまった。中央には由真を欲しがる杭が主張している。
「朝勃ちですか?」
「さっきキスしたしね、欲しかったから勃った」
「…………ごめんなさい、寝落ちして」
「うん、だから由真がまた動いて……」
「え…………また上手く出来ないかも」
「良いんだよ、由真が俺を欲しがってくれるのが嬉しいんだから」
ベッドに仰向けに寝そべる桐生の上に由真が乗る。バスローブは直ぐに脱げるので、由真はそのままだ。
「明るくなった部屋での背徳感味わおうか」
「は、はい………」
結局、チェックアウトギリギリ迄貪り合い、由真の帰省は終わった。
その日から桐生も写真家として、日々何処かに出掛けては撮影をしに出ていて、由真もビル改装もあるので、特にする事もない為、フリーでルポライターを募集している企業を探し始めた。
「再就職もなぁ………辞めた理由が理由なだけに……」
「ただいま」
「あ、おかえりなさい翼希さん」
「再就職先?」
「はい………そろそろ探そうかな、て………何もしないより、良いかなって」
PCを開き、就職活動を始めた由真を見て、求人リストをスクロールし始めた桐生は、一通り見て、由真に提案する。
「…………それなんだけどさ………由真、俺の仕事手伝えない?」
「翼希さんの仕事、手伝ってません?今だってバーの事とか、スタジオの事とか………」
「そうなんだけど、改装するにあたって、1フロア空きが出てさ………其処で写真屋やろうかな、て………ルポライターだと写真のキャッチコピーとかも出掛けられたりするだろ?店番しながらフリーでルポライターするのは如何かな、て」
「写真屋なら緊縛写真として起業してるんじゃないんですか?」
「それは、バーの延長線で特に力入れてないよ………写真家で生計立てるなら、寧ろそれ迄しなくていいし、バー経営だけでもスタッフ賄えてるから」
桐生が写真家ではなく、実業家に見えて来る時がある由真。
「分かりました、じゃあそうします……正規社員で就職しようかまだ悩んでましたし」
「やっぱり、ネックだったか」
「…………はい……また似た様な事があると、薬に頼っちゃいそうで………妊娠もしたいですから」
「うん、由真との子供欲しいよ」
由真の夢は、桐生と幸せな家族を築く事に変わっていた。
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