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しおりを挟む桐生の行動は、バーのスタッフ達も驚いていた。
「オーナー、本当に傍迷惑な急なコンセプト変え辞めて欲しいもんですね」
多部が桐生から聞いた後の第一声。
スタッフ達も、驚きを隠せていなかった。
---皆……やっぱり同じ反応なんだ………
いつの間にか、もう結婚迄決まってしまった様に話す桐生だが、由真は返事もしていないし、プロポーズもされてはいない気がしている。
「結婚するからな………由真の両親が此処に来たら、結婚反対されちまう。だから、緊縛ショーや緊縛写真やレクチャーは、スタジオ変更にするだけ。あとエレベーターのあのシールや落書きもこの際だからビルメンテナンスと改装もしようと思って依頼済み」
「板倉さん、オーナーからプロポーズされたんですか?」
「されてません」
「「「「「え!」」」」」
---そう、反応しちゃうよね……やっぱり……
スタッフ一同、祝いムードに一瞬なったが、また一同、無になったのに、由真も苦笑いだ。
「あれ………まだしてないな………プロポーズの予約?みたいな?」
「そうですね………私が療養中に、両親に挨拶したい、て翼希さんが言うので、流れ的にこのビルのメンテナンスと改装を、という話になりました」
「…………オーナー……他テナントも入ってるんですよ!先ず確認し、了承貰ってからじゃないんですか?」
「その間、ビル内で事故起きたら如何する。俺が相続して、暫く経ってからメンテナンスは入っているが、老朽化もしてるんだ。いい時期だと思ってな」
「確かに………」
「そういう事だから、バーの客にはその通知を宜しく。俺は今から他の店舗へ話して来る」
「了解しました」
由真も一緒に行った方が良いかと思ったが、桐生1人でいい、と言いバーに残った。
「板倉さん、オーナーに振り回されたでしょ」
「あまりの行動力の速さにはびっくりしました」
「極端なんですよ………アレ……だから、前オーナーもアレが心配だから、と………」
「ですね………清華さんとの付き合い中はあんな感じもありました?」
「無いです………無かったから平穏でした」
「…………分かる気がします。ある意味平穏でしょうね」
「はい」
清華が何も桐生にさせてはいなかったのだから、平穏だったんだなと、由真は大いに納得してしまい、改装とメンテナンスの開始日の了承を各店舗から貰った事もあって、由真は桐生と実家に行く事になった。
「まぁまぁ、遠かったでしょう」
「お母さん、ただいま。お父さんは?」
「お父さんねぇ………拗ねてんのよ」
連絡は前々から由真は実家に入れていて、嫌がらせがあり引っ越しした事や、諸々の手続き等で、交際している桐生の家に住む、とだけ伝えてあったのだが、桐生が由真の挨拶したいと伝えた所、察知した両親の温度差を感じていた。
「拗ねてる?何で?」
「ほら………同棲始めたからいよいよ結婚か?て………真尋が言っちゃったのよ」
「お兄ちゃんが?」
由真には1つ歳上の兄が居て、父の不安を煽ったらしい。
「結婚はまだ先だよ………今日は、交際してて、同棲した経緯とか、しっかり伝えておいた方がいいかな、て………実家から送られた荷物もそれで駄目にしちゃったし」
そう、名目上で伝えておいたのは、強ち間違ってはいない。由真は子煩悩の父が不機嫌になるのは避けたかったからだ。父は不機嫌になると話を聞かない。だから結婚は敢えて伏せて、顔を合わせてからいずれは、と話にしていきたかったのだ。
「で、その余計な事を言った諸悪の根源のお兄ちゃんは?」
「逃げたわ」
「あのやろ………」
「由真、そろそろ挨拶させてくれない?」
「あ…………ごめんなさい、翼希さん」
桐生を放っておいて家族間の話に入ってしまい、痺れを切らし桐生が由真に声を掛けた。
「お母さん、此方の方が今お世話になってる桐生翼希さん」
「初めまして、桐生と申します」
「由真、素敵な人じゃないの!何処で拾ったの?」
「拾っ………ちょっと!お母さん!失礼じゃない!」
「俺が拾われたんですよ、お母さん」
「まっ!こんな素敵な人にお母さんなんて呼ばれちゃったわぁ!」
「拾われたって…………翼希さん、言い過ぎですよ」
「そんな事は無いさ、由真が俺を変えてくれたんだから」
「…………翼希さん………」
「ま、まぁまぁ………由真も幸せを掴んだかしらね、中に入って下さいな、桐生さん」
由真と桐生はリビングのソファに座り、新聞で顔を隠した父と再会する。
「お父さん、新聞逆さま」
「っ!い、今逆さまで読むとボケ防止になるんだ!」
全くそんな諸説は無いのだろうが、慌てて新聞で顔を隠しただけだろうと思った由真。
「初めまして、お父さん……由真さんと交際しております、桐生翼希と申します」
「っ!」
「お父さん、何で私が引っ越ししなきゃならなかったのか、とか会社辞めたとか説明したいの!それで、お世話になってる翼希さんとの関係も話したくて………」
「……………由真ぁ……結婚したいのか?」
「お父さん?」
「もう少し………ウチの娘で居てくれ……」
「お父さん、由真も年頃なんですから、彼氏の1人や2人居たでしょうに………初めて彼氏を連れて来て、挨拶したいなんて結婚したいからとしか言わないでしょう?」
「っ!…………」
やはり、由真の両親は結婚の挨拶で来たと思っている。
「早とちりしないで!まだプロポーズされてないから!」
「「…………え?」」
嬉しそうな父と、拍子を食らう母。
「交際はしてるけど、結婚はもう少し先!プロポーズの予約はされてる………確約はしてないの!話拗らせないでよ!お兄ちゃんの馬鹿!」
「え?違うのか?」
「お兄ちゃん!」
「真尋!」
「いや、てっきり………」
隠れて由真達の様子を見ていたのであろう、兄の真尋は、ひょっこりとダイニングのドアから顔を出した。
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