束縛と緊縛の世界へ【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 緊縛ショーを終えた桐生が自室に戻って来た事で、由真は遅めの夕飯を桐生に出した。
 夕飯と言っても軽めの胃に優しい薄味のつまみだ。基本、桐生は1日2食で済ましていて、放っておくと、食べない時もあるので、無理矢理食べさせている節もある由真。

「お疲れ様でした」
「…………うん……」
「今日も盛り上がってましたね」
「…………うん……」
「…………私、妊娠しました………」
「…………うん………え!」
「やっと見た………嘘ですよ、妊娠」

 桐生が全く上の空だったので、驚かせて由真に反応して欲しかった嘘だ。

「お父様との話、あまり良い方にはいかなかったんですか?」
「…………び、びっくりし過ぎて、俺今魂抜けるかと思った………」
「止めて下さいよ、そんな事」
「由真が、驚かすから………」
「如何します?本当に妊娠してたら」
「そりゃ、嬉しいけど………順番ってのあるだろ………俺、由真の両親にも会った事無いのに」

 由真に少しがっかりとした顔を見せた桐生。それを見て、素直に由真は謝った。

「ごめんなさい、嘘の内容間違ってましたね………」
「いや…………その………由真さえ良ければ考えてくれて良いぞ?」
「え?」
「…………結婚………」
「翼希さん………」
「だけど、まだ早いのかな、て思って………付き合ってまだ3ヶ月ぐらいだろ?由真も清華の事でいろいろあったし、まだ精神安定剤飲んでるし、やっぱり由真の両親にもそういう事は報告しておいた方がいいし、俺は写真家なんて今名ばかりで、緊縛師がメインだから自信持って、お嬢さんを俺に下さい、なんて言えないな、と………」
「考えてくれてたんですね………」

 桐生の性格上、カメラや写真に関する事しかあまり考えていない様な気がしていた由真だったので、由真との将来は二の次三の次かと思っていた。

「俺を何だと………これでもこのビルのオーナーだぞ?管理もしてるし、バーの経営もしてる。不動産も此処だけだが、資産運用もしてる………写真しか考えてない様な事はない」
「バー経営………そうでしたね………」

 由真は桐生と一緒に住むようになってから、2人の生活費としてお金を渡されていた。しかもクレジットカードはゴールドカード。使い過ぎには注意をしているが、そのクレジットカードの引き落とし口座には毎月桁が増えるのではないか、というぐらいの金額が入っている。
 由真が出版社で働いていた時の比を考えたくもない程の額だ。
 その分税金は取られてはいるのだが、その税金額で由真は1人でも1ヶ月暮らせてしまう。
 ニートじゃ駄目だと思うが、ニートでも良い気がしてならいのが弱い所だ。

「バー経営や不動産は副業として言えるが、もし由真の両親が此方に来て、由真と俺の生活を見たいと言われたら………流石にSMバーはな………」
「…………辞めるんですか?SMバー」
「元々は普通のバーだったんだが、酒好きの爺さんが始めた道楽なんだよ。SMバーにしたのは俺ね、間違わない様に言っておくけど」
「でも、もし辞めるなら今迄来られたお客さん減っちゃいますね」
「一般的なバーに戻すだけで、アダルトグッズ達は処分するか、スタジオを少し倉庫に変えて、使えばいいと思ってる。緊縛師の需要もあるから、そっちも辞める事は今は考えてはいないな………そう思ったら、緊縛ショーは出来なくなるのが、客層も変わってしまうかも」
「…………バーでやらなくてもいいんじゃないですか?スタジオで、とか」
「…………あぁ……それもアリか……」

 由真はSMプレイを受け入れているので、気軽に入れる様になった場所を無くしたくないと思っていた。桐生が決める事だが、一意見として聞いてくれていて、由真は嬉しい。

「…………じゃあ、障害は無いな………由真、ビルメンテを明日にでも頼むんでおくから、由真は両親に連絡しておいてくれ」
「い、いきなりですね………」
「由真が仕事復帰出来てから、挨拶に行ったら遅いだろ?仕事して都合つけて、は大変だし……それなら、休んでいる今の時期に挨拶して結婚の了承を貰っておきたい。店のスタッフ達や客には明日からSMバーを辞める事を通知する………はい、決まり!」
「……………」

 由真は気が付いた事がある。
 普段、のんびりとしている桐生なのだが、決めた事は素早く行動しなければ気が済まない、と。
 由真が入院してからの桐生の動きは速く、由真が精密検査中に桐生は弁護士を見つけ、相談後即決で依頼し、配送会社や由真が住んでいたマンションの管理会社への根回し、倉庫を借りて其処に荷物を保管等、由真が帰宅する頃には山積みの荷物は無くなり、この行動の速さにはかなり驚いたのだ。

「もう少し、その行動力が早く分かっていれば、直ぐに相談出来たんだろうなぁ」
「え?何か言ったか?」
「いえ………気の所為ですよ」

 心配掛けたくないから、と相談を渋っていたのを、後悔していた由真だった。


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