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しおりを挟む桐生の住むビルから表通りを出ると、直ぐに繁華街で賑わう夜の店が多い場所に出る。
風俗店が並び、飲食店も多い。
朝に営業している様な店は、ファストフード店ばかりだ。
「いつもファストフード食べてるんですか?」
「大抵はな………3年はそんな感じ」
ハンバーガーをがっつき、珈琲で流し込むだけの食事に、よく耐えられるのか、と気もするが、独身男性の大半はそんな生活をしているのかもしれない。
「料理は作らないんですね」
「作った事無いな。大学迄は親と同居してたし、海外飛び回ってたし」
「海外?今の仕事でとかで?」
「…………ずっと、緊縛師していた訳じゃない。緊縛師になったのは5年ぐらい前からかな」
「前のお仕事は何なんですか?」
「…………食べたな……買い物行こうか」
「…………え……」
由真の質問に答えない桐生。はぐらかして食べ終えた由真のトレイを持って、ゴミ箱へ捨てに行ってしまった。
---答えたくないのかな……
寝室に大量に並べてあったカメラ達を見て、もしかしたら桐生の前職はカメラマンだったのかもしれない、と由真は思った。もしそうなら何故辞めたのかも答えたくないのかもしれない。
「ほら、行こう」
「あ、はい………私の分迄片付けて頂きありがとうございます」
「序でだし」
少し繁華街を歩くと、夜の店ではなくファッション系の店のビルが並ぶエリアだ。そこで躊躇なく、桐生はランジェリーショップへと入って行こうとする。
「き、桐生さん………?」
「早く来い、由真」
恥ずかしくないのか、と思うのだが、お括れない桐生に反し、由真が恥ずかしくなっていた。
「桐生様、いらっしゃいませ」
「彼女のサイズ、E100で見繕ってくれる?前後サイズでも合うかと思うけど」
「な!………き、桐生さ……」
誤魔化して着用していたブラジャーの正確数値迄、桐生にバレていた。
「サイズが違い過ぎるのを着るな」
「…………ゔっ……」
小柄なのに、胸がある由真のコンプレックスを桐生は分かってはくれない様だ。
「コンプレックスだって言ったじゃないですか!」
「似合わないのを態と着る方が恥ずかしいぞ?」
「お客様、これなんかは如何でしょうか?人気のデザインなんですよ?」
「し、勝負下着を選ぶつもりは………」
どうやら、桐生の恋人だと思われた様で、桐生の店にある様な下着ばかり持って来られている由真。
「下着はヘビロテするな………ブラのワイヤーの形が変形したのを着用したら魅力は無くなるし、ショーツだって染み着いたら変えるだろ」
「…………な、何でそんなに平然と言えるんですか!」
「まぁまぁ……桐生様はこういう方なので……」
仕事柄よくこの店に来るのだろうか、店員と桐生は長い付き合いがある様だった。
「合わせてみます?」
「い、いえ…………サイズは合ってるので……」
「それ、全部とあとあのキャミソールとショーツのセット、あとあっちのも………それと……」
突然、飾られている下着達を指し、桐生は買う素振りを見せた。
「桐生様が好まれる物、まだありますよ?」
店員も待ってましたとばかりに、新作下着を仄めかすので、桐生は丸投げしてしまう。
それが、まさか由真用に買うのだとしたら、恐ろしい値段になりそうだったので、様子を由真は見ていた。
「じゃあ任せるから、俺の名前で領収書宜しく」
「え!」
「ん?何だ?」
「わ、私のを買うんですよね?……私そんなに要らないですし、持ち合わせもあんまり………2、3着を買いますから」
「言った筈だ。アンタの取材を受ける代わりに、俺に協力すると………その必要経費及び、必要最小限の譲歩で用意してやる」
「…………い、言われました………けど………アレ全部私のなんですか?」
「勿論」
卑猥な下着達を目にし、爆買いする桐生に、店に買い物に着ていた女性客達は、由真を羨ましそうに見ていた。
「凄~い」
「いいなぁ、あんなに爆買いしてくれる人」
---早く店出たい!
それでも、店からなかなか出られなかった由真。会計と梱包で時間が掛かり、朝から恥ずかしい思いをしている。
買った下着を受け取ると、桐生に連れられてコンタクト店へと由真は来る。
「コンタクトなんですか?桐生さん」
「俺じゃない、アンタの」
「私、コンタクト合わないって言いましたよ?」
「それいつの話だよ」
「えっと………高校生の時………」
「性能も進化してるんだ、検査ぐらいして合わないなら仕方ないが、合うならコンタクトにしろよ。アンタ、似合わない眼鏡掛けてるんだよ」
「…………また私を否定する………」
そんなに、由真の生き方は桐生にダメ出しを食らわなければならないのか、と落ち込みそうになった由真。
「何か言ったか?」
「………いえ、何も……」
否定された事に、由真が変えて行った先には、由真は幸せになれる道があるのなら、喜んで変えるが、由真は今の生活に満足している。
ただ1つだけ除いてだが。
「検査して合わないと思ったら眼鏡のままでいいですよね?」
「あぁ、その眼鏡も変えてもらうけどね」
「この眼鏡もいいの買ったんですけど!」
「センス悪い」
「っ!」
「メイクと合ってない」
ここでもまた、時間を掛けてコンタクトを合わせ、由真に合うコンタクトを探せたのだが、そこでもまた桐生はお金を支払ってしまって、由真には払わせようとはしない。
「自分で払います!」
「気にするな」
由真を桐生のモデルに本気でしようと思っているのか、由真には分からないのだが、桐生は2軒とも支払った額は高い筈だ。
ビル1軒、持ちビルとは言ってはいて、賃貸料金で裕福なのだろうが、その代償が昨夜の緊縛なのだとしたら、かなり由真は釣りを払わなければならない可能性もある。
縛られたいとは思ってはいるが、どっぷりハマって行きそうで由真はこの企画を起てた事を少し後悔した。
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