皇太子と結婚したくないので、他を探して下さい【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 ルティアとリアンの結婚式当日。
 教会の壁画は、マスヴェル国とコートヴァル国側両方、2人の結婚式が間に合う様に完成する事が出来た。
 それには、シャリーア国民も歓喜を挙げ、皇太子夫妻の祝辞と共に、全土から民達が集まったのか、と思われる程、首都は活気に溢れていた。

「ルティア、綺麗よ」
「ありがとうございます、お母様」
「旦那様も何か一言………あら、無理ね……」

 ルティアに背を向けるフェリエ侯爵の肩が震えていたのは、今迄見た事の無い父の泣く姿だ。

「お父様…………大切に育てて頂いてありがとうございました」
「っ!」
「…………旦那様………」
「わ、私は………お前が幸せになるなら、礼等要らん!」
「お父様………」

 花嫁の父というのは、娘が嫁ぐのは寂しいものだという。

「お姉様」
「ティリス、如何したの?」
「お父様ね………最近変わったのよ………浮気癖を匂わせる事が無くなって、お母様を泣かす事も無くなったのよ」
「…………あははっ……いい傾向ね……私も安心よ」
「ば、バラすでない!ティリス!」

 目が充血している父がティリスに怒るが、何も凄みが無い。

「これでお兄様にいい人見つかると良いわね、そう思わない?」
「そうね…………」

 家族の輪に入らず、控室の片隅で、じっと外を眺めているスヴェン。
 眺めている方向は、あの教会がある方向だ。

「最近、お兄様も変なの………帰宅するといつもボーっとしてて………教会の仕事を聞くと慌てて………」
「…………なる程………お兄様」
「…………ん?………ルティア、何だい?」
「ローズ様とはお話出来ましたか?」
「っ!…………な、な、何を言ってるのかな……」
「「「…………」」」

 この反応を見た家族は、顔を見合う。
 何か察した様だ。

「スヴェン、何も言わねば、ローズ殿下はマスヴェル国に帰ってしまうぞ?」
「ち、父上迄何を言い出すんですか!」
「ねぇねぇ!ローズ様ってどんな方?お兄様!」
「まぁ………貴方、王女様に恋しているの?」
「は、母上………ティリス迄…………み、身分違いだと分かりますよね!父上も冗談が過ぎます!」

 いつしかスヴェンも、ローズに心を奪われていた様だ。

 ---ローズ様に、お兄様の事を話ておいて良かったわ………

 そう、ローズの恋の相談をルティアはしていたのだ。
 スヴェンの好きな文学、趣味の読書、好きな物を伝えていて、ローズは必死に、夜はスヴェンの愛読書を読んでは、共通の話題を増やした。
 だからといって、ローズがスヴェンの嗜好に共感を得られなければ、ローズが疲れるだけだ。
 だが、ローズは絵を趣味とする。
 スヴェンの好きな本からインスピレーションをローズも受け取ったのだろう。
 壁画を描く傍ら、スヴェンに何枚か絵を贈ったらしい。
 よって、この1ヶ月、ルティアと夜一緒に寝る事はなかったのだ。

「ローズ様もお年頃ですし、マスヴェル国で縁談話もあるらしいですよ、お兄様」
「っ!…………み、身分違うよ………ルティア……」
「ローズ様の性格で気にする様には見えないですが」
「っ!」
「…………臆病者は放っておけばよい、ルティア」
「お父様、酷い!」
「そうですわ、旦那様………スヴェンは旦那様とは違う優しい子なんですから」
「カリーナ………それは私が優しくない、と言っているのか?」
「優しくないです!ね、お姉様」
「うん、優しくない」

 これ以上、スヴェンを急かすのは酷に感じて、揶揄う対象をフェリエ侯爵に変わった。

『失礼致します。式が始まりますので、フェリエ侯爵、ルティア妃以外の方は参列をお願い致します』
「さぁ、行きましょう………ルティア、転ばない様にね」
「はい、お母様」
「……………」

 父娘2人になった控室は、とても重い雰囲気だ。
 無言になってしまったフェリエ侯爵。

「お父様」
「っ!」

 沈黙を破ったのはルティアだ。

「今迄、勘違いから喧嘩ばかりしてしまってすいませんでした」
「…………お、お前が、勘違いしてくれたから、私は仕事をしやすかった………時として、私は生命を奪われ兼ねない事もしていたからな……悲しまれて失くす生命より、恨まれて失くす生命の方が、楽だと思ったのだ………」
「文系貴族なのに、密偵なんて………意外でしたが………」
「密偵を何だと見ているのだ、お前は………武術が長けていなくても、出来る事はある……お前が知らなくてもいい領域だ………幸せになりなさい、ルティア」
「…………はい」

 僅かな時間ではあったが、父娘として話せた貴重な時間になった。
 
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