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「寂しい!ルティアちゃん!………マスヴェルに私のお嫁に来て!一緒に行こっ!」
「お前だけ帰れ!ローズ!」

 教会の壁画はまだ完成していないが、ルティアとリアンの結婚式に招待されているローズも、国賓としてマスヴェルで準備する必要もあり、一旦帰国する事になったのだ。

「ジェスター………私とローズちゃんの友情に邪魔しないでくれるかな」
「お前も俺とティアの愛し合う時間を奪わないでくれるかな」

 リアンは、夜しかないルティアとの時間を邪魔されて、不機嫌なのだ。
 それもこれも、リアンの自業自得なのだが、ローズが一時帰国する前日迄、皇妃の策略だと知りもせず我慢していたのだ。

「喧嘩しないで下さい、殿下もローズ様も」
「もぅ!ルティアちゃんってば、いつまでも付きに敬語とれないんだから……」
「立場違いますから………」
「じゃぁ、皇太子妃になったら同等じゃない?」
「何言ってる………お前が結婚したら降嫁するだろ………立場はティアのが上になるさ」
「私、結婚しないもん」
「叔父上が許すかよ」
「しないもん………私は女の子が好きだし……」
「殿下…………」

 ローズの気持ちを知るルティアが、リアンの袖口を引っ張り、その話は止めて、と訴えかける。

「…………まだ、そんな事言ってんのか?5年以上前の事だ………お前が悪い訳じゃない」
「っ!…………当事者じゃないのに何が分かるのよ!」
「それはそうだが………ごめん……とにかく、俺は従兄妹として、心配してるんだから、もう忘れろ」
「…………忘れたい………」

 この会話は、ルティアは全く分からないが、ローズに何かがあっての事の様だ。

「…………俺達の結婚式前に、また壁画完成させる為に来るんだろ?待ってるからな!」
「…………うん……ごめんね、ジェスター………ルティアちゃん独り占めして………あれは……叔母様が……」
「知ってるよ………気にすんな、それは……お前の所為じゃないし」

 リアンの1歳下のローズに、リアンが頭を撫でている。

「いつまでも子供扱いしないでよ!」
「子供だろ、礼儀正しくないんだからお前」
「ジェスターだってそうじゃないの、短気な所変わってないし」
「これでも我慢強くなったんだぞ」
「そう?…………ルティアちゃん!」
「はい」
「コイツ、性欲は我慢強くなさそうだから、困った時は叔母様に言うんだよ?」
「ローズ!」
「はい!」
「…………ティア……」
「じゃあね!また来るから!」

 ローズは壁画の事だけでなく、孤児院で預かっている子供達の出身地や名から両親や親族を探す為に、その捜索も担っている。
 子供達はまだ栄養不足で、体力が戻っていないのと、前後の荒れ地を見せる事は更に心を傷付けるので、もう暫くシャリーア国で預かる事になった。
 再び、ローズが来国し国に戻る時に一緒に帰る約束をして。
 馬車から顔を乗り出し、見えなくなる迄手を振る元気なローズ。
 だが、闇は彼女にもあって、傷付いている。
 乗り越えなければならない壁はルティアには分からないが、ルティアで支えになるなら、ローズを癒やしてあげたかった。

「やっと帰ったなぁ」
「賑やかでしたね………帰ってしまって寂しいけど」
「俺はせいせいする!」
「…………またまた……寂しいのでしょ?」
「…………いや……ローズがシャリーアに来るのはかなり勇気が要る事だったんだ………だから、心配はしていたんだけど、稀有だったよ……ティアが居たから」
「ローズ様は、戦の荒れ地の無いシャリーアを見たかった、て仰ってましたけど、違うのですか?」
「…………夜に話てあげる………俺、仕事してくるよ」
「…………あ、はい………」

 リアンからも闇が見えた瞬間だった。
 いつもの平穏な日々と、目まぐるしい忙しさに戻り始め、ルティアは中断しがちだった皇太子妃教育を再開した。
 夜になって、リアンは執務室から部屋に戻って来ると、真剣な顔してルティアに会いに来た。

「お疲れ様でした」
「…………うん……ティア、風呂は?入った?」
「あ、はい」
「…………そ、そっか………眠いだろうけど待ってて………直ぐに俺も来るから」
「…………お疲れなら、お休みになられた方が……」
「ティアを抱き締めて寝たいんだから、ティアを俺から取らないでくれる?ティア本人が!」
「っ!…………は、はい……」

 ルティア自身も、ローズとの夜は楽しかったが、リアン不足なのは分かっていて、リアンに抱いて欲しかった。
 同じ気持ちでいてくれて、久し振りに心が充実した気持ちになれた。

「もう、貴女達は下がっていいわ」
「畏まりました」
「おやすみなさいませ」
「お疲れ様」

 この気持ちを、1人で噛み締めたくて、1人でリアンを待とうと、皇太子の部屋に入って行ったリアンの後を追い、ルティアはリアンを皇太子の部屋で待つ事にした。
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