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「此処?ルティアちゃん」
「はい、この教会です」

 晩餐会の翌日、ルティアはローズを例の教会に案内した。
 勿論、2人きりではない。
 ライナスを含む、騎士達も同行している。

『皇太子妃様!』
「…………あ……貴方達は……」

 孤児院に預けられている、マスヴェル国の子供達が、元気いっぱいの顔でルティアに声を掛けて来た。
 まだルティアには言葉の壁がある。
 ローズはシャリーア国語を話てくれているが、通訳を代えさない会話は語学力が必要になる。
 それなのにスラスラと会話が出来ている事に慣れてしまったので、マスヴェル国語を久し振りに聞いた。

「あ、この子達ね、マスヴェルの子供達」
「そうなのです。過酷な状況下で生活させられていて」
「少し話させて」
「あ、はい」

 ローズは王になる予定はないが、王女としての責務は話していても、持っているとルティアは感じていた。
 急なルティアからの願いにも、快く受けてくれて、直ぐにその教会を見てみたい、と言ってくれた。

『私はローズ……マスヴェル国の王女よ……戦は終わったわ。国に………貴方達のご両親を一緒に探させてくれる?』
『…………終わったの?戦……』
『えぇ、大変だったでしょ?皆で頑張ってたんだね』

 子供達は、ローズの言葉で戦が終わったのを知った。
 孤児院ではなかなか言葉が通じず、辛い思いもしているだろうし、シャリーア国で行われていた処刑の意味も知らなかったのかもしれない。
 安堵した表情で、泣き出す子や喜び歓喜の声を挙げる子も居た。

『帰れるの?』
『帰りたい!』
『そうね………帰りましょう………お父さんとお母さんも探すの手伝うからね』

 教会の壁画には、ローズの提案からマスヴェル国の子供達にも手伝って貰って、絵を完成させたい、となり、来国中の数日では描き終えない事から、ローズだけ暫く滞在する事になった。
 それでも、戦後の復興の仕事がローズにある訳で、行き来する事にはなるだろう。

「描いてみたい絵があるから、ルティアちゃん其処に立ってよ」
「え?此処に?」

 壁画を予定する場所の前にルティアは立たされて、ローズから手は此処、この角度、足は、と格好をさせられた。

「動いちゃ駄目だからね!」
「え!そ、そんな………」
「……………ん~……」

 真剣な顔で、筆を持ち、スケッチを始めてしまったローズ。
 描こうとする絵の仮絵だろうか。

「簡単に描いたけど、此処の辺りに子供達の手形を残すの良くない?犠牲になった子供が居るんだ、て知ってもらう為に」
「それは良いですね………でも、何故私がこの壁画に描かれるんですか?しかも、羽根が生えてる………」
「え?この案を考えたのルティアちゃんでしょ?羽根はね、子供達に羽ばたいて欲しい、て思ったし、ルティアちゃんに導いて欲しいって思ってね」
「そ、そんな大それた事出来ませんよ」
「…………3国の王がルティアちゃんに賛同して動かしたんだよ……充分凄いって………私は、言われるまま、何気なく育ってきて、が無いな、てずっと思ってたんだ………でもね、綺麗な景色とか可愛いもの見ると、思い出に絵を描いてみたら楽しくて、ずっと絵を描いて来た……でも、絵で人を動かした事ないんだよ」
「ローズ様………」
「記念碑として絵を描いて、人の心動かせるなら、動かして来た人に協力したら、私も学べるかな、て………戦で疲弊していく民達、荒れる大地………絵を描きたくなくなってたんだ……綺麗な景色が……描きとめて来た思い出の場所が、もう見られなくて、その場所の絵は全部見ないようにした………思い出すと泣けるから……だから、気が沈んでなシャリーアに来たの………荒れ野原を見なくて済むでしょ?」

 現実逃避をしたいぐらい、故郷が傷付くのを見てきたのだろう。
 脱力感が続き、戦終結の知らせを受けた時、ローズは動ける様になったのだ、と続けた。

「シャリーアは綺麗な景色がいっぱいあって、マスヴェルも戻すんだ、と意気込んで来たら、ルティアちゃんと会って創作意欲湧いたのよ………ルティアちゃんは私を動かしてくれた………だから、この壁画にルティアちゃんを描く!嫌だって言っても、残させるから!」
「え………せめて顔は変えて下さいっ!」
「この記念碑の原案したルティアちゃんを描かなきゃ意味無いんだよ!皇太子妃でしょ!ピッタリじゃん!」

 ローズの仮絵はしっかりルティアだと分かる絵になっていて、大きな壁画に残されるのは恥ずかしくて堪らない。

「顔は無しで!」
「絶対に美人に描いてあげるからね」

 ローズは既にその気で、ルティアが嫌がっていても、ローズが自慢気に皇妃にその仮絵を見せた事で、鶴の一声でなく、威圧の一声で、その絵を描く事に決まってしまった。

「ローズ王女の考えた絵を採用します」
「わ、私を描くのですよ?い、良いのですか?」
「何か問題でも?」
「っ!」
「きっと………後世に残る、シャリーアの象徴的な絵になる事でしょう………貴女の顔に落書き等する者が、民達に居るとは思いませんからね…………それこそ、皇族に異を唱える輩……しっかりと厳罰を考えておかなければ………陛下とヴィクセル公爵と法を増やす様、話をしなければならなくなりました………また忙しくなるわ」
「こ、皇妃陛下~!」

 諦めて貰おうと説得するつもりだったルティアだが、ローズに先回りされて、皇妃はもうその気になって、ルティアの話を聞こうとはしなかった。

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