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しおりを挟むその夜、皇王よりルティアを含め、フェリエ侯爵家の家族を招待し、食事会をしていた。
「陛下、本日はご招待頂きまして、誠にありがとうございます」
「………いや……其方の息子、スヴェンの頭脳の助けがあればこその感謝の晩餐なのだ、フェリエ侯爵」
両家向かい合い、乾杯するのは初めてで、何だかルティアの目の前に座るリアンと目を合わせるのも照れ臭かった。
「今からでも遅くないぞ?バーダック」
「…………もう、終わられた話ではなかったのですか?陛下」
「無期限だ………それとも、其方の息子でも良いがな」
「…………ご冗談を申されましても……」
はははっ、と苦笑いを浮かべ、ワイングラスに口を付けるフェリエ侯爵の表情は、ルティアが初めて見る楽しそうな父の顔だ。
「本心だ…………現に、皇太子はスヴェン卿を補佐官にしたい、と申しておる」
「…………あは……はははっ………皇太子殿下も………ご冗談を……」
---お父様のこんな顔、初めて見る……
「嘘吐いてはいない、フェリエ侯爵………私はスヴェン卿を補佐官に欲しいと思ったが、スヴェン卿は私に考える猶予が欲しい、と渋って、返答待ちだ」
「…………スヴェン……本当なのか?」
「は、はい………父上」
「ははははははっ………へ、陛下も殿下も……また困りますな………」
その顔が、フェリエ侯爵が何か隠している様にしか見えなかった。
「陛下、フェリエ侯爵と以前何かあったのですか?」
リアンも不思議に思って、皇王に聞いた。
「この男………出世欲が無いのだ………私が皇太子時代、仕事をこやつに手伝わせ、その仕事振りに、補佐官に任命したら蹴りおった」
「もう、耄碌した老人です」
「フェリエ侯爵が出世欲が無いのは今に始まった事ではないですよね」
「私は、平凡な生活が一番性に合うのです」
「え?それで浮気癖が治らないのは平凡な生活じゃないわよ、お父様」
「浮気癖と出世欲を一緒にするでない、ルティア」
「なんだ………其方、まだ浮気癖、と言って誤魔化しておったのか………影で私の密偵を担う其方が………」
「は?」
これには、ルティアやカリーナ、スヴェン、ティリスもフェリエ侯爵の顔を覗く。
「内密に、と申したではありませんか」
「密偵という危険な任務を捨て、補佐官になれと言っておるのに、全く動かないからな、其方は」
「性に合うのです」
浮気と偽り、たまに領地以外に行く他に外泊するのは、密偵の仕事があるから、と初めて知る家族。
そして、スヴェンがリアンの補佐官になる事も、良い顔をしていないフェリエ侯爵は、その仕事の大変さを知っているからかもしれない。
外交の職に就きながら、密偵という仕事をしているのだ、と分かったルティアは、今迄の口論の無駄さに気が付いた。
「はぁ………其方はいつもソレだ……息子は外交秘書官だが、密偵でもさせる気か?」
「まさか………息子には、表の仕事をさせたいと思っております。領地の事もありますし、皇太子殿下の補佐官にさせたいとも思っておりません………娘、ルティアの事も望みとしてはまだ嫁がせたいとは思ってもおりませんでしたし、陛下からお話があったのと、皇太子殿下のお気持ちを知り諦めはしましたが、重要な職務をさせなければならない苦労を態々、と思っております。ルティアが皇太子妃になろうとも、私が出世したいとも思っておりません」
「…………全く、頑固な男だ……ジェスター」
「…………はい」
「こやつはこういう男だ………お前の義理父は、私の願いを無下にする………その息子も手強いぞ?」
「スヴェン卿が補佐官になってくれたら、心強いのですがね……」
チラッとリアンがスヴェンに視線を送るが、スヴェンもフェリエ侯爵の様な表情で居た。
「父の考えを知れましたので、私も辞退しても宜しいでしょうか………友人のベルイマンで事足りるかと思います。彼は優秀ですし」
こう見比べると、やはり父子だと核心する。
スヴェンもフェリエ侯爵と似ている、と。
「ティア!…………ティアからも説得してくれない?」
諦めきれないリアンはルティアに懇願する。
「…………父は頑固ですし、お兄様も道を決めているので、揺るがないかと」
「陛下も皇太子も諦めたら如何です?ヴィクセル公爵も、息子のベルイマンも優れてますわ」
皇妃はいつまでも拘らないでよ、という目線を皇王に送っていた。
「ヴィクセル公爵親子とはまた別物なのだ、皇妃」
「わたくしには分かりかねますわ……良いではありませんか。ジェスターがフェリエ侯爵家の令嬢と結婚するのです。どんな形であれ、フェリエ侯爵やスヴェン卿が、陛下の役に立つ人材なのは盤石になりましたわ………ねぇ?ルティア嬢」
「…………えっ!………あ、はい……」
皇妃の心の内が見えた。
ルティアが、皇族に入るのだから、いいようにコキ使える、と皇王に言っているのだ、と。
「…………こ、皇妃陛下は流石でございますな……逃げようにも難しくなりそうですよ……」
「あら、フェリエ侯爵、解釈が飛躍してますわよ、きっと………」
「ははは………」
まるで天敵同士の会話で、フェリエ侯爵と皇妃の間に火花が見えた気がした。
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