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しおりを挟む「其方………ベルゼウス伯爵のカジノに入り浸ってはおるまいな」
「…………何処で賭事をしようが、規制は無いかと思いますが……」
確かに規制も無ければ、賭事は禁止されている訳では無い為、ケヴィンが何処のカジノに行こうと関係は無いと、言うだろう。
しかし、マイヤー子爵から次男の言動を聞けば、調べるのは早かったのだ。
「陛下、私から宜しいですか?」
「構わん」
リアンがケヴィンに近付いて行くと、言葉を投げ掛けた。
「マイヤー子爵領は今、大変な事になっているのを知らない訳じゃないだろう?………隣国では戦が続き、難民達がマイヤー子爵領へと流れて来ている。其方はそんな難民達を放って、領地管理をするという事はしなかったのか?」
「…………」
「マイヤー子爵の長男が、今領地で大変な思いをしているだろう………父上も首都に来ているのだからな………難民を受け入れなければ、川も堰き止められ、領地民の生活もさぞ困っているだろう………そんな中で其方は、高級宿に居たそうだな…………領地の財政が圧迫しているというのにな……」
「っ!」
「…………何故、自分の居場所が分かったんだ、とでも思ってそうだな………私達、皇族を甘く見ていないか?」
「…………そ、そんな事は……」
反論する言葉が出ないケヴィンは、冷や汗も額から滴っていた。
「其方が交際していた女も………割り出しているんだ…………そして、その女に貢いでいた事も………その先にある存在も………言わねば、其方もその存在同様の罪状を言い渡す事も、私は考えているのだが………」
「っ!」
「…………異論は言わせぬ………其方は何故か、我が婚約者を睨んでいたからな……それでも足りないぐらい、私は怒りを覚えてしまった………さぁ………答えよ……付き合っていた女の名!その女に貢いだ先に居る人間を!」
「…………シ………シスリー………ベルゼウス……あ、アイツが………アイツが皇太子妃になれば、俺を愛人にして囲ってくれる、て言ったんだ!今は、あの女に貢いでやらないと………金に困っているから、て………だから……貢いだのに………今度は………その女を泣き者にしろ、て………その女が居るから、俺はシスリーと幸せになれないんだ!」
感情が昂ぶっていくケヴィンは暴れ出したが、直ぐにライナスやライナスの部下達に取り押さえられ、俯せにされる。
これには、リアンも想像してはおらず、ケヴィンがその女と言った時点で、ルティアを守る様に立ち塞がった。
「……………っ!」
「大丈夫だ………傷付けさせない」
「……………はい……」
所在を確かめ合い、抱き締め合うルティアとリアン。
ケヴィンが取り押さえられ、事無きを得た所で、皇王は口を開いた。
「…………ケヴィン・マイヤーを監獄に入れよ………此処迄話せば、もう罪を免れる事はない………取り調べはまた別で執り行う事にする………マイヤー子爵」
「はい………陛下……」
「辛かろうが、親子の縁を切り、マイヤー子爵領の復興に力を注げ………難民に関しては、他の地を案内させ、戦が終結する迄、避難生活をさせると、通達せよ」
「…………穏便な対処、誠にありがとうございます………領地の件は直ぐに長男に対処させましょう。次男はもう、どの様になっても………ゔっ………」
「覚悟が要る………心強く持て」
「っ!…………はい……」
ケヴィンが、拘束されて護送されると、ざわ付く貴族達。
しかも、驚いているのは武系貴族だけでなく、文系貴族も同じだ。
「ベルゼウス伯爵はカジノの収益を何に使っているんだ?」
「それもだが、ベルゼウス伯爵はいづれ舞い込む戦に控えておけ、と言っていたぞ……如何なるんだ?戦をしない国だろう、シャリーア国は……」
「破産した貴族達が気の毒でならん……マイヤー子爵の息子の様に、私の息子も毟り取られてはいないだろうか………」
「静まるのだ!」
皇王の一言で静まるのを待つと、再び皇王は続ける。
「戦等にはさせん!戦は恨みを買い、新たな恨みを呼ぶ………更なる被害を出す訳にはいかぬ!ベルゼウス伯爵の真意を聞き、沙汰を出す迄待つのだ!」
しかし、首都に居る筈のベルゼウス伯爵が呼び出しに応じず、一向に現れないとなると、一旦この集まりも解散せざる得なくなってしまった。
「逃げたんでしょうか」
「かもしれないな………勘は働くらしい……ライナス、ベルゼウス伯爵領に潜ませている密偵達から何か連絡はあったか?」
「いえ…………伝書鳩で、ベルゼウス伯爵が逃亡した恐れあり、と知らせましたので、警戒は怠らない様にはさせました。保護した子供達は此方に向かってはいますが」
「…………ベルゼウス伯爵夫人と令嬢の所在は?」
「首都の邸に………既に邸内に騎士達も配置させ、監視下に置いてます」
「…………そうか………隣国や第3国に逃げ込まれる前に捕まえないとな」
「そうですね」
今更逃げた所で、証拠は揃っている。
逃げれば逃げるだけ、罪が重くなるのはベルゼウス伯爵も分かっている筈だった。
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