上 下
53 / 88

52 *リアン視点

しおりを挟む

 証拠集めに進展が見慣れない中、王城にある情報が飛び込んで来た。
 戦をしている国から、ベルゼウス伯爵領以外の領地へと難民が押し寄せて来ていたという知らせだ。
 しかもその難民は、ベルゼウス伯爵領に匿われている国側ではない。
 シャリーア国は、何方の国とも国交があった為、救済も出るに出れない外交的問題もあった。
 それが、両国民が流れて来るならば、人が住める様な場所はもう限りあるのだろう、と思われる。
 ベルゼウス伯爵領からは、難民等が流れて来ているとの報告は無く、以前採掘場を視察したクレイオとライナスからは、シャリーア国語ではない言葉を話す子供達が居る、と知らされていたと知るリアンは、其処に追求する糸口を見つけた。
 何故、両国から難民が流れて来るのか、ではなくベルゼウス伯爵領からの他国からの受け入れ報告が無いかを問いただす所からの追求だ。

「戦をしている国に最も接しているベルゼウス伯爵領の隣のマイヤー子爵領は、その国等と少ししか重なってない筈だ………何故マイヤー子爵からしか出てこない?」
「…………ジェスター殿下……覚えてないですか?帳簿と報告書を見て下さい……マイヤー子爵も武系貴族ではありますが、先日財政逼迫したと……」
「…………裏切りか?それとも全く関係ないか……」
「武系貴族は、結束も硬いですが、前者かと………財政難であれば、奪って行ったであろうベルゼウス伯爵に恨みを持っていても過言ではないと思います……難民が多くなり過ぎて、受け入れが出来なくなり裏切ったかと思われないでしょうか」
「…………ライナス」
「はい、殿下」
「カジノで標的になってた男達の中で、武系貴族家系も居たのか?」
「いえ、文系ばかり狙われてた筈でしたが………何故此処に来て、武系貴族から……」

 リアンが調べさせていたのは、カジノでターゲットにされていた男達の家系も入っていた。
 だが、其処には武系貴族の家の者は居らず、言うなればマイヤー子爵については調べていた対象では無かったのだ。

と考えていたんだがな………マイヤー子爵領は………あの土地は干ばつも多く、産業も弱いから、財政難なだけだと思っていた………」
「マイヤー子爵自身、賭事を趣味にはしてはいなかった筈です」
「…………マイヤー子爵を呼んでくれ」
「はっ」

 しかし、難民受け入れの報告の為、皇王にも呼び出されていて、接見中と聞いたリアンは、執務室を出て自ら会いに行った。

「失礼します、陛下」
「皇太子か………呼びに行かせようと思っていた所だ……丁度良かった」
「私も、マイヤー子爵に聞きたい事がありましたので」
「若き獅子、ジェスター皇太子殿下に、マイヤーが挨拶申し上げます」

 皇王の足元で平伏すマイヤー子爵は、肩を落とし小さくなっていた。

「頭を上げよ、マイヤー子爵」
「…………はい……」
「其方からの報告は今し方読んだ。戦中の隣国、コートヴァルからの難民で間違いないのだな?マスヴェルではなく………」
「コートヴァルからでございます………我が領土はこの数年、穀物の出来が悪く、財政も悪くなる一方………それを、陛下よりの温情の支援でやり繰りを行っておりましたが、コートヴァルの山から流れる川が堰き止められてしまい、水源が確保出来ず、難民を受け入れてくれるならば、川を堰き止めるのを解除する、と………唯一の水源であるので………仕方なく受け入れをするのに、陛下の許可を取りたく………」
「…………陛下、マイヤー子爵に質問させて貰っても良いですか?」
「構わん、皇太子申せ」
「ありがとうございます………マイヤー子爵、其方の領地の財政難は、私の耳にも入っているが、作物が取れなかったからの税収が滞ってでの財政難なのか?それとも別の事での財政難に陥る何かがあったのか、素直に述べてくれ」
「っ!」

 眉と肩をピクッと動くマイヤー子爵。
 それを見逃すリアンと皇王ではなかった。

「難民についてだが………少々私も調べているんだ………例えば、マスヴェル国からも………あったりなかったり………」
「…………そ、それは致し方ないのでは……マスヴェル国も隣国でお互いに戦をしておりますし、流れて来てもおかしくないと………」
「言い方を変えた方が良いか?マイヤー子爵」
「っ!」
「庇うなら庇え………その代わり……其方は領主として認められなくなる可能性も視野に入れよ」

 リアンからの圧と、そのリアンの言葉で皇王もマイヤー子爵に威圧感を見せ始めた。

「…………わ、私の監督不行届で………次男が……領地の金を使い込んでいたのが、先日発覚し……どうやらとある令嬢に金を貢いでいた様でして………息子を……よ、擁護するつもりは無いのです!このままでは領地も、領民も餓死しかねず………恥を忍び……こうして報告を………」
「その令嬢の名は?」
「わ、分かりません………息子が口を割らず……」
「マイヤー子爵………領地に連絡し、難民を受け入れさせよ」
「あ、ありがとうございます!陛下!」
「その代わり………その財政難に陥らせた根源を連れて参れ。親子の縁も切るのだ」

 領地の財産を使い込まれて、許す訳にはいかないだろう、当然の処置だ。
 だが、それだけでマイヤー子爵領の問題は解決した訳ではなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵に媚薬をもられた執事な私

天災
恋愛
 公爵様に媚薬をもられてしまった私。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】【R18】素敵な騎士団長に「いいか?」と聞かれたので、「ダメ」と言ってみました

にじくす まさしよ
恋愛
R18です。 ベッドでそう言われた時の、こんなシチュエーション。 初回いきなりR18弱?から入ります。性的描写は、普段よりも大人向けです。 一時間ごとに0時10分からと、昼間は更新とばして夕方から再開。ラストは21時10分です。 1話の文字数を2000文字以内で作ってみたくて毎日1話にしようかと悩みつつ、宣言通り1日で終わらせてみます。 12月24日、突然現れたサンタクロースに差し出されたガチャから出たカプセルから出て来た、シリーズ二作目のヒロインが開発したとあるアイテムを使用する番外編です。 キャラクターは、前作までのどこかに登場している人物です。タイトルでおわかりの方もおられると思います。 登場人物紹介はある程度話が進めば最初のページにあげます イケメン、とっても素敵な逞しいスパダリあれこれ大きい寡黙な強引騎士団長さまのいちゃらぶです。 サンタ×ガチャをご存じの方は、シンディ&乙女ヨウルプッキ(ヨークトール殿下)やエミリア&ヘタレ泣き虫ダニエウ殿下たちを懐かしく思っていただけると嬉しいです。 前作読まなくてもあまり差し障りはありません。 ざまあなし。 折角の正月ですので明るくロマンチックに幸せに。 NTRなし。近親なし。 完全な獣化なし。だってハムチュターンだもの、すじにくまさよし。 単なる獣人男女のいちゃいちゃです。ちょっとだけ、そう、ほんのちょっぴり拗れているだけです。 コメディ要素は隠し味程度にあり 体格差 タグをご覧下さい。今回はサブタイトルに※など一切おきません。予告なくいちゃいちゃします。 明けましておめでとうございます。 正月なのに、まさかのクリスマスイブです。 文字数→今回は誤字脱字以外一切さわりませんので下書きより増やしません(今年の抱負と課題)

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王女の朝の身支度

sleepingangel02
恋愛
政略結婚で愛のない夫婦。夫の国王は,何人もの側室がいて,王女はないがしろ。それどころか,王女担当まで用意する始末。さて,その行方は?

裏切られた傷心令嬢は狂ったように穴を掘る

mios
恋愛
ちょっとした出来心で浮気をしてしまったエディ。婚約者にバレて平謝りの末漸く許して貰ったのだが。 ある日、突然穴を掘り出した婚約者にエディは青褪める。

処理中です...