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52 *リアン視点
しおりを挟む証拠集めに進展が見慣れない中、王城にある情報が飛び込んで来た。
戦をしている国から、ベルゼウス伯爵領以外の領地へと難民が押し寄せて来ていたという知らせだ。
しかもその難民は、ベルゼウス伯爵領に匿われている国側ではない。
シャリーア国は、何方の国とも国交があった為、救済も出るに出れない外交的問題もあった。
それが、両国民が流れて来るならば、人が住める様な場所はもう限りあるのだろう、と思われる。
ベルゼウス伯爵領からは、難民等が流れて来ているとの報告は無く、以前採掘場を視察したクレイオとライナスからは、シャリーア国語ではない言葉を話す子供達が居る、と知らされていたと知るリアンは、其処に追求する糸口を見つけた。
何故、両国から難民が流れて来るのか、ではなくベルゼウス伯爵領からの他国からの受け入れ報告が無いかを問いただす所からの追求だ。
「戦をしている国に最も接しているベルゼウス伯爵領の隣のマイヤー子爵領は、その国等と少ししか重なってない筈だ………何故マイヤー子爵からしか出てこない?」
「…………ジェスター殿下……覚えてないですか?帳簿と報告書を見て下さい……マイヤー子爵も武系貴族ではありますが、先日財政逼迫したと……」
「…………裏切りか?それとも全く関係ないか……」
「武系貴族は、結束も硬いですが、前者かと………財政難であれば、奪って行ったであろうベルゼウス伯爵に恨みを持っていても過言ではないと思います……難民が多くなり過ぎて、受け入れが出来なくなり裏切ったかと思われないでしょうか」
「…………ライナス」
「はい、殿下」
「カジノで標的になってた男達の中で、武系貴族家系も居たのか?」
「いえ、文系ばかり狙われてた筈でしたが………何故此処に来て、武系貴族から……」
リアンが調べさせていたのは、カジノでターゲットにされていた男達の家系も入っていた。
だが、其処には武系貴族の家の者は居らず、言うなればマイヤー子爵については調べていた対象では無かったのだ。
「別と考えていたんだがな………マイヤー子爵領は………あの土地は干ばつも多く、産業も弱いから、財政難なだけだと思っていた………」
「マイヤー子爵自身、賭事を趣味にはしてはいなかった筈です」
「…………マイヤー子爵を呼んでくれ」
「はっ」
しかし、難民受け入れの報告の為、皇王にも呼び出されていて、接見中と聞いたリアンは、執務室を出て自ら会いに行った。
「失礼します、陛下」
「皇太子か………呼びに行かせようと思っていた所だ……丁度良かった」
「私も、マイヤー子爵に聞きたい事がありましたので」
「若き獅子、ジェスター皇太子殿下に、マイヤーが挨拶申し上げます」
皇王の足元で平伏すマイヤー子爵は、肩を落とし小さくなっていた。
「頭を上げよ、マイヤー子爵」
「…………はい……」
「其方からの報告は今し方読んだ。戦中の隣国、コートヴァルからの難民で間違いないのだな?マスヴェルではなく………」
「コートヴァルからでございます………我が領土はこの数年、穀物の出来が悪く、財政も悪くなる一方………それを、陛下よりの温情の支援でやり繰りを行っておりましたが、コートヴァルの山から流れる川が堰き止められてしまい、水源が確保出来ず、難民を受け入れてくれるならば、川を堰き止めるのを解除する、と………唯一の水源であるので………仕方なく受け入れをするのに、陛下の許可を取りたく………」
「…………陛下、マイヤー子爵に質問させて貰っても良いですか?」
「構わん、皇太子申せ」
「ありがとうございます………マイヤー子爵、其方の領地の財政難は、私の耳にも入っているが、作物が取れなかったからの税収が滞ってでの財政難なのか?それとも別の事での財政難に陥る何かがあったのか、素直に述べてくれ」
「っ!」
眉と肩をピクッと動くマイヤー子爵。
それを見逃すリアンと皇王ではなかった。
「難民についてだが………少々私も調べているんだ………例えば、マスヴェル国からも………あったりなかったり………」
「…………そ、それは致し方ないのでは……マスヴェル国も隣国でお互いに戦をしておりますし、流れて来てもおかしくないと………」
「言い方を変えた方が良いか?マイヤー子爵」
「っ!」
「庇うなら庇え………その代わり……其方は領主として認められなくなる可能性も視野に入れよ」
リアンからの圧と、そのリアンの言葉で皇王もマイヤー子爵に威圧感を見せ始めた。
「…………わ、私の監督不行届で………次男が……領地の金を使い込んでいたのが、先日発覚し……どうやらとある令嬢に金を貢いでいた様でして………息子を……よ、擁護するつもりは無いのです!このままでは領地も、領民も餓死しかねず………恥を忍び……こうして報告を………」
「その令嬢の名は?」
「わ、分かりません………息子が口を割らず……」
「マイヤー子爵………領地に連絡し、難民を受け入れさせよ」
「あ、ありがとうございます!陛下!」
「その代わり………その財政難に陥らせた根源を連れて参れ。親子の縁も切るのだ」
領地の財産を使い込まれて、許す訳にはいかないだろう、当然の処置だ。
だが、それだけでマイヤー子爵領の問題は解決した訳ではなかった。
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