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しおりを挟むシスリー達が退城させられてから、ルティアのドレスと同色を纏う令嬢やその両親達は、形見が狭そうだった。
彼等は、武系貴族の者達ばかりで、端々でシスリーに命令されて、と自分可愛さに取り繕う言葉をルティアやリアンに伝えて来たのだ。
「も、申し訳ございません、皇太子殿下、ルティア様」
リアンとダンスを1曲踊り終えると、忽ち囲まれたルティアとリアン。
ルティアは謝罪があれば気にしない、と思っていたが、リアンは違う。
「その点については後日沙汰を出す………目障りだ。ルティア嬢と同じ色のドレスを彼女と私の目に触れさせるな!」
皇族主催の夜会で、主役のルティアとリアンの衣装に合わせた装いをされるマナーの悪さは、主催者側からは余程腹立たしい事なのだ、と知るルティア。
泣きながら、壁の華にさせられる令嬢達を、その両親達は庇いたいのか、退城するしようとする者も居た。
しかし、リアンから指示があったのだろうか、帰ろうとする彼等を呼び止められて帰そうとしない、ライナスやベルイマン。
ベルゼウス伯爵の息の掛かる家であるので、伯爵位より同爵位や下位爵位の家の者の様で、公爵位のライナスやベルイマンに反発出来ないのだろう。
さぞかし、彼等達には屈辱的な事に違いない。
ベルゼウス伯爵家が帰らされた事で、肩身が狭い思いをさせられているからだ。
「ティア、煩い蝿は静かになった様だから、1曲ティアの演奏も聴きたいんだけど駄目?」
「…………えっ!この場でですか?」
確かにデビュタントである夜会で、演奏してくれと、皇妃からも話しがあり、ルティアも練習はしてはいたが、耳の肥えた来賓達に聴かせて、恥を掻く事にならないのだろうか、とルティアは焦る。
「聴きたい、て言っただろ?協奏曲でも良いよ?管弦楽に合わせて弾くのも聴きたいし」
「い、いや………それは練習してはいないので、自信は無いです………それならソロの方が……」
「じゃ、ピアノの方に行こうか」
「こ、心の準備ぃ!」
「大丈夫大丈夫、いつものティアなら出来るって」
そんな自信をリアンが持っても、ルティアには移行しないだろう。
練習していても、緊張はしてしまうのだ。
リアンに演奏家達の方へ連れて行かれ、指揮者がリアンと目が合うと、頷いて曲が終われば指揮台から降りてしまう。
「フェリエ侯爵令嬢、ルティア様………かなりの腕前と皇太子殿下から聞き及んでおります。貴女様の演奏を近くで聴ける名誉を頂き感謝致します」
「か、買い被り過ぎます!事前に過大評価しないで下さい!」
「何言ってんの、自信持ちなよ」
「っ!」
オーケストラのピアニストがピアノを空けてくれ、待ち構えているのを見て、ルティアは後には引けなかった。
「玄人の方々と、趣味の私では腕前は違いますから………お耳汚しにならない様、精一杯演奏します………」
ルティアがピアノの前に座り、1小節目を鳴らした時、会場の来賓達は、会話を止めルティアに注目する。
ルティアの傍で、愛おしそうに見つめるリアンも、来賓達の視界に入り、微笑ましい目線が注がれた。
「まぁ………皇太子殿下……なんて素敵にルティア嬢を見つめているのでしょう……」
「殿下の表情を見ると、望まれた婚約だと分かるな……」
「珍しく、皇妃陛下もお優しい表情でらして」
あまり長い曲を選曲しなかったルティアは、曲を弾き終えると、来賓達に会釈して終えようとしたが、拍手を浴び、恥ずかしさで顔を覆う。
「ほら、大丈夫だったろ?今日も上手だったよ」
「こ、皇太子殿下………皆が見てますから……過度な接近は……」
リアンに肩を抱き寄せられ、満悦な表情でルティアの顔を覗かれ、隠す顔を更に赤らめていく。
「婚約者なんだから、不思議じゃないよ」
「立場という物があるかと………」
「フフッ………そうだね……じゃ、後で」
「っ!」
肩を抱き寄せられるのは止めてはくれたリアンだが、ルティアの手を取り、甲にキスを落とすのを、来賓達に披露される。
後でが何か等、もう想像出来てしまうが、今は夜会中だ。
不謹慎で恥ずかしい。
「もう1曲お聴かせ願います、ルティア嬢」
「お聴かせ下さいませ」
チラホラと聞こえるルティアへのリクエスト。
弾くのは構わないが、演奏家達の仕事を取り上げてしまいそうで、ルティアは如何していいか、リアンを見上げた。
意見を求めて、リアンの返答次第で、ルティアも決めたい。
しかし、リアンは手を翳し、そのリクエストは拒否を示す。
「今宵、我が婚約者は初めての夜会だ。疲れている………よって、1曲のみとする。いずれまた皆に聴かせる日が来るであろう。皇族主催の夜会でまた機会を作ろう」
「…………」
確かに疲れてはいるが、弾けない事はない。
それでも、夜会中色々あり過ぎて、緊張感はずっと続き、終わる頃にはもうクタクタだろう。
「ルティア嬢、少し休憩しましょうか」
「はい………皇太子殿下」
玉座の脇に用意されていた椅子に案内され、ルティアは腰掛けると、皇妃がルティアを見ている。
「皇妃陛下、如何でした?ルティア嬢の演奏は」
「…………まぁまぁでしたわ。次も上達した演奏を聴かせて欲しい、と思うぐらい………」
「良かったね、ティア………褒められたよ」
「ありがとうございます、皇妃陛下」
「…………」
褒められたのか?と伺わしい部分もあるが、それが皇妃の最大の褒め言葉なのだろう。
ルティアが礼を伝えると、皇妃はぷいっと前を向いた。
その後、隣に座る皇王がクスクスと笑い、皇妃に小声で話していた様子を見ると、皇妃は只管顔を扇で隠していたのが、可愛らしかった。
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