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45 *シスリーside

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 ベルゼウス伯爵側。
 王城を退城させられたシスリーは、ベルゼウス伯爵とマーガレットと馬車に乗るなり、叱咤され続けられていた。

「何を考えてる!何て馬鹿な事をしたんだ!」
「馬鹿な事じゃないわ!」
「馬鹿な事だ!私の立場という物も、家の事も考えろ!ドレスの事だけでも頭が痛いと言うのに………お前はもう何もするな!」
「嫌よ!出来ない内に、あの女に皇太子妃の座を奪われちゃうわ!」

 父娘揃い、実権を握ろうとしているのだろう。
 ベルゼウス伯爵がどうにかしようとしている間、シスリーが手伝う中で、手に届きそうな所迄来たと思ったのだろうか、シスリーはルティアの着るドレスのデザインを、色違いで作らせているのを、ベルゼウス伯爵の圧力で漏れる事を捻り潰していた。
 シスリーに漏らしたドレスのデザインを渡した仕立て係は、もう城には居らず、幾ら探しても証拠を見つける事は難しいだろう事迄、ベルゼウス伯爵はしている。
 同じデザインの色違いのドレスを着て、偶然を装い、訳を聞かれ近付いて来るのを待っていたのだ。
 同じ様なドレスを友人や、皇太子妃を狙う令嬢達にも着させておいて、ルティアを認めないという暴挙に出たのも、リアンにシスリーを印象付けたかっただけだ。
 案の定、ライナスにシスリーは声を掛けられ、人の目が付かなそうなバルコニーで待つリアンの元に連れて行かれた時、シスリーはルティアからリアンを奪う事を思い付いたのだ。
 だが、リアンから掛けられ言葉は、事務的な話しばかりで、シスリーとは一線を引いていて、近付こうとすると避けたり、立つ位置を変えられたりし、会話もすり替えようとしても、シスリーを相手にはしない。

 ---何もしないなんて無理よ!絶対に私が皇太子妃になるんだから!

 身分上、伯爵家の血筋が皇族に近付く事等、おいそれと出来ない立場だった。
 始めてシスリーが、リアンを見た時、眉目秀麗の皇太子であるリアンの横に立つには自分が相応しい、とさえ思って2年。
 陞爵ぐらい、父にしてくれなければ、シスリーは交友出来る立場では無いと思い知った。
 何度、不慣れな社交場で話し掛けに行こうとしても、シスリーの前には立ちはだかる爵位の壁があったのだ。
 伯爵位である以上、上位の公爵や侯爵の令嬢達から阻まれて、苦渋を味わった事があるシスリー。
 だからこそ、なんとか馬鹿そうな上位爵位の、貴族令息や令嬢達から、自分を売り込んで行ったのだ。
 上位爵位の者達の輪にさえ入れば、シスリーも伯爵位なのを忘れられ、次第に輪の中心に居座る事が出来て、人脈を作って来た手腕がシスリーにある。
 それでからだろうか、父のベルゼウス伯爵もそのシスリーの人脈を利用する様になり、カジノ経営に活かしてきた。
 ベルゼウス伯爵の目論見をシスリーは聞いたのだが、陞爵になれそうなら協力を惜しむつもりもなかったシスリーは、自身の見目の良さから、令息達から財産を奪う事に快感さえも思えて来る様になった。
 好きな男が居るのに、皇太子妃になりたいのに、自分の身を他の男に捧げる事も厭わなかった。
 寧ろ、覚えた手管で男達を骨抜きにしてきたという自信もあった。
 おかげで、ベルゼウス伯爵が予定していた事も、順調に事が進み、戦をしているシャリーア国の近くの国達の滅亡も目前に来ていた。
 戦を煽っておいて、ベルゼウス伯爵はをするつもりなのだ。
 シャリーア国では戦が出来ない。
 よって、武系貴族のベルゼウス伯爵家に活躍出来る場は無い。
 周辺国を次々と煽って、戦をさせてシャリーア国の藩国にでもさせれば、シャリーア国も潤うのだ。
 そうして、ベルゼウス伯爵ののシナリオが完成すれば、皇王だとて陞爵を考え、皇太子の義父にベルゼウス伯爵がなれても誰も反対はしまい、とシスリーもベルゼウス伯爵から口車に乗せられていて、ゆくゆくは政権さえも奪おうとしている。

「シスリー………皇太子妃になりたくば、邪魔だけはするな………今迄隠せているのだ。このまま戦が続き、滅亡する時が来る迄、お前は私の言う通りにすれば良い………裕福な家の男から金を巻き取ってくるのだ!それ迄皇太子には近付こうと思うな」
「あ、あの女に奪われちゃうわ!」
「それならば、フェリエ侯爵の嫡男を口説き落とせ!この前落としたのではなかったのか!」
「カジノに連れて行こうとしたら、あの男の友人に呼び止められて、カジノに連れて行けなかったのよ…………」

 シスリーは自分の目的を果たせず、苛々して爪を噛み始めた。

「呼び止められた?一体誰にだ」
「…………ヴィクセル公爵公子よ……」
「…………兄弟が居た筈だが、どっちだ?長男のベルイマンか?それとも次男のサイモンか?」
「ベルイマンだけど」
「っ!…………何だと!」
「え?な、何?」
「…………ベルイマンは皇太子の側近だ………知られてはならん………クソッ!フェリエ侯爵の気弱な息子とヴィクセル公爵のベルイマンと繋がりがあったのか!」
「親しそうだったわ」
「…………予定は変更だ、シスリー………フェリエ侯爵の息子には手を出すな………一番奪いたかった家の資産だったが………」

 ベルゼウス伯爵は、スヴェンとベルイマンの交友関係を知らなかったと見えた。
 ベルイマンがもし、リアンにその事を知らせていたら、調べられる可能性もある。
 巧みに隠して来た金の流れを調べられたら、ベルゼウス伯爵の企みも水の泡だ。
 完全に頓挫するだろう。

「クレイオとボルシア公爵公子のライナスの我が領視察の事もある………何も探られてはいなかったが、念には念を入れお前はフェリエ侯爵の息子と関わるな」
「…………分かったわ、お父様」

 もう、既に調べられているという事にも気が付いていなかった、ベルゼウス伯爵だった。
 クレイオやライナスは、スケープゴート。
 部下達の活躍で、既に調べられた領地であった。
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