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しおりを挟む1曲踊り終えると、来賓達は踊り始めたり、皇王や皇妃、勿論リアンにも祝辞を伝えに来ていて、ルティアは来賓達の顔と名が一致しきれない程、頭に叩き込まなければならず、戸惑うばかり。
だが、平然を装わなければならず、ルティアの手袋やドレスの中は緊張で汗を掻きっぱなしだった。
それでも、リアンがルティアに分かるように紹介をしてくれていて、何とか事なきを得たのだが、少しでも疲れた表情をすると、皇妃からルティアに声が掛かったりしてくる。
「ルティア嬢、ご紹介したい方が居ますの、此方へいらっしゃい」
「は、はい………」
リアンが隣でルティアをフォローしているのに、リアンから引き離し始めた皇妃に、来賓の前でリアンは止られる雰囲気は無い。
「こ、皇妃陛下………私もルティア嬢に紹介したい方が居るのですが………」
「わたくしの横に立たせるのが、そんなに不安なのですか?皇太子」
「あ、いえ………そうではなく………」
「貴族婦人同士の交際も重要なのです………妃として、しっかり覚えて貰わなければならない方達ばかり………分かりますよね?」
「ゔっ………」
皇妃の圧が凄く、リアンの周りに居るのは、ほぼリアンの友人達だったのに対し、皇妃の周りは国政に関わる貴族達の婦人達だ。
重要性を比べたら皇妃の周りに居る婦人達の方が、ルティアにとっても無下には出来ない相手だと分かる。
「私、皇妃陛下の元へ行かせて頂きますね」
「…………すまない、ルティア嬢」
「謝らないで下さい、皇太子殿下」
ルティアが疲れを見せたから悪いのだ、と思わざる得ず、その場に居たリアンの友人達に挨拶を済ますと、皇妃の方へ場所を変えた。
再び、顔と名を覚えるのが必死過ぎて、ルティアはなかなか会話の内容が入って来なかったが、皇妃もそれに気付くと、さり気なくフォローを始めてくれる。
「ルティア嬢は社交界に出るのが始めてですの………まだまだ不慣れな所を皆に見せてしまいますわね………至らぬ所は、皆で教えて差し上げて下さる?」
「道理で、始めてお見掛けする方だと思いましたわ」
「成人して、直ぐに皇太子殿下に見染められたのですねぇ」
「お可愛らしい方」
貴族婦人達はにこやかな表情ではあったが、本心を隠しているのではないか、と疑っていなければならない貴族界の付き合い。
神経がすり減りそうで、ルティアも顔の表情を作るのに必死だった。
暫し話し、また別の人と話し、を繰り返し、皇妃がルティアの様子を見て耳打ちをして来た。
「今迄の婦人達はあの無礼な令嬢達の母達ですよ」
「え………」
そう、皇妃がルティアに紹介してきた婦人達は、ルティアのドレスの色を合わせて来た令嬢達の母親達だったのだ。
「…………まだ、ベルゼウス伯爵夫人は挨拶も来てませんが……呼んでもいませんので、その内痺れを切らし、自ずと来るでしょう……」
令嬢達のルティアへの嫉妬の言葉を、皇妃は見逃しても聞き逃してもいなかった様だ。
婦人達は、皇妃から呼び出され挨拶に来させられた、という事らしい。
皇妃自ら、皇太子妃になるルティアを見せる事で、娘達は無理だと知らしめてくれたのかもしれない。
そして、ベルゼウス伯爵夫人を呼ばなくても来る事が分かっている様だ。
案の定、人が捌けたら、ベルゼウス伯爵夫人がルティアと皇妃の元へとやって来た。
「ご無沙汰しております。皇妃陛下………ベルゼウス伯爵が妻、マーガレットがご挨拶致します」
「…………まぁ、ベルゼウス伯爵夫人……素晴らしい装いですのね」
「ありがとうございます……陛下には到底及びませんが、皇太子殿下の喜ばしき日に、目一杯厳選して参りましたわ」
皇妃への挨拶なのに、チラチラとルティアを目部味する視線を送るシスリーの母、マーガレット。
そして、マーガレットの背後で、母親と皇妃の会話が始まると、見守っていたシスリーがサッっと、何処かへと向かった。
「でも………」
「!」
---い、いけない……皇妃陛下のお話を聞いてないと………
口元を隠し、会話する皇妃にハッとし、ルティアは気合いを入れ直した。
例え、マーガレットから挨拶が無くとも、ルティアからは話掛けて、会話を遮ってはいけない。
「貴女ともあろう方が、今日は失敗されましたわね………」
「…………何がでございましょうか」
「何って………ご令嬢の装いですわ………まさか招待状の意図を貴女が知らないという事はございませんでしょう?………ご令嬢にお教えされてませんの?」
「勿論存じ上げておりますわ………ですが、娘のシスリーは、濃いピンクでございます………っ!………そ、其方のご令嬢とは似ても似つかない色ではございませんか」
皇王の挨拶でルティアの名も家名も公表していて、忘れたというのだろうか。
もしくは、認めていないから名を言わないのか。
そして、ルティアのドレスを見て、何やらマーガレットは驚いた表情を見せた。
「…………似ても似つかない……そうかしら?………わたくしには色が濃いだけの同じドレスに見えていますが」
「…………あ、あら………そうでしたでしょうか………」
色の濃淡で、何故かシスリーは派手に見えているのだ。
顔立ちや化粧でも、ルティアの化粧の仕方とは違うので、大分印象は変わってしまっているが、ルティアのドレスと同じデザインだったのだ。
「おかしな事ですわね………わたくし……皇太子妃になるルティアには、城の専属の仕立て係にこのドレスを作らせましたのよ?何故ベルゼウス伯爵令嬢が色違いで同じデザインのドレスを着ているのか、説明頂けるかしら?」
「…………わ、私には何の事か……少々似ているな、とは思いましたが………色に関しては、娘が濃いピンクが良い、と申すものですから………勿論、招待状の事は娘には説明しておりますわ………濃淡等、そこ迄お気になさるとは……」
「…………わたくしが申したい事は、濃淡ではない………何故同じデザインかと問いておる」
皇妃が言葉をキツめに言って、扇をピシャッと音を立てて綴じた。
それが威圧的で、マーガレットの表情は焦りを隠せなくなっていく。
「っ!………も、申し訳ございません………娘にはキツく注意しておきますので……」
「…………最近……わたくしの周りで蝿が飛び交ってますの………継娘の近くにも寄って行くのを危惧してますわ………貴女が排除してくれると安心するのですが………ね………」
「…………」
皇妃が蝿と例えたのはシスリーの事だろう。
その言葉で、マーガレットは青褪めていく。
「た、直ちに………」
「ドレスの件………調べさせてもし何か蝿に関わっていたら………追求します………下がりなさい」
「っ!…………は、はい……」
マーガレットが皇妃に圧され、逃げる様に離れて行った。
表情を見るに、恐らくマーガレットはシスリーのした事を知らなかった様だった。
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