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 更に数日後、王城からの使者で、ルティアのドレスの採寸をするので、登城する様にと伝えられたルティアは、何故か採寸する仕立て係に囲まれる事なく、待機していた部屋で皇妃と面談していた。

「仕立て係が来る前に、如何してもルティア嬢とお話したかったのです」
「は、はい………」

 扇を広げ口元を隠し、ツンとした表情の皇妃が、ルティアをマジマジと見つめるので、目を合わせられる気がしない。

「貴女は皇太子妃になるのでしょう?堂々たる姿で居なければなりません。1人きりで居る時間は起きている間、無いと思って下さい」
「は、はい!」
「…………優雅に、清楚……わたくしが皇太子妃に求める物です」
「っ!…………申し訳ございません……」

 威圧感もじゃないのか、とルティアは皇妃を見て思ったが、威圧感があっても皇妃は優雅さが見える。

「政敵も日々目まぐるしく変わる王城……隙を見せては皇太子が脅かされます」
「………はい」
「ただ、好きという感情のみで、結婚を考えた若輩の皇太子に落胆致しました。貴女の様な令嬢で…………」
「も、申し訳ございません………」
「あら、泣くのですか?泣けば済むと?」
「っ!」

 ルティアは皇妃に認められてないのだ、とヒシヒシと伝わってくると、普段フェリエ侯爵が相手であれば、言い返しも出来るが、相手が皇妃とならば話は別だ。
 父親以外にキツい言葉をルティアは掛けられた事が無かった。

「若い娘は良いわね………泣くと慰めてくれますし………そうやって、皇太子を手篭めにしましたか?」
「し、してません!」

 違う事は否定しないと、ルティアの立場が悪くなる一方だ。
 それに、皇妃の言葉は間違ってはいない。
 だからこそ、皇太子がリアンでなければ、絶対に皇太子妃になるのは避けたかった事だ。

「私は………リアンの前で泣いた事なんてありません!」
「………………ねぇ……皇太子の呼び方も分かりませんか?」
「っ!あ………殿………です……」
「正式な場は例え、親しき仲でも愛称で呼ぶのはご法度………今後、わたくしの前だけでなく、皇王陛下や皇太子、第二皇子クレイオは勿論、人前で愛称呼びを禁じます」
「…………分かり……ました」
「教養も、学もだそうですね……貴女にはあるのかしら?その若さ?肌のきめ細かさ?そんな物は歳を重ねれば衰えます。何があるのです?」
「……………です……」

 ルティアは自信が無くなっていく。
 好きなピアノさえも自信持って言葉に出せなかった。

「はっきり仰っい!」
「っ!……………ゔっ……ピ………ピアノ……です……」

 認めて貰えない相手との時間はなんて苦痛なんだろう、と泣きたくないのに泣けてきて、一口も飲めない冷めた紅茶に涙が落ち、波紋が浮かぶ。

『なりません!皇太子殿下!今は皇妃陛下が人払いを!』
『煩い!退け!』
「っ!」
「…………来てしまったのね……」

 今一番会いたくて会いたくない声が、ルティアの耳に届く。

「母上!」

 扉が強引に開けられると、呼吸粗く入って来るリアンが汗ばんでツカツカと詰め寄って来た。

「ティア!」
「っ!」
「くっ………」
「……………」

 ルティアを庇うように、リアンがルティアを腕に納め、皇妃を睨んでいた。

「…………母上……泣かせたのですか」
「勝手に泣いたのですが?」
「今日は、仕立て係にティアの社交界デビューのドレスを作る予定でしたけど?」
「その前にお話出来る時間があったので」
「…………だからといって、泣かせるとは酷いのでは?」
「ち、違います………皇太子殿下……」
「ティア!」
「私が至らないから………」
「ゔっ………ティア………な、泣き顔……か、可愛い……」
「み、見ないでっ!」
「……………はぁ……全く……本当にジェスター……貴方は甘い……」

 扇を畳み、溜息と共に口調も少しだけ和らぐ皇妃。

「俺が甘やかさなくて誰がこれから甘やかすんです!皇太子妃になるティアにはまだ味方になれる者も少ないんですよ!」
「だから、ルティア嬢には強くなって貰わねばならないのです………わたくしの言葉はヌルい………今後、皇太子妃になればもっと卑劣な言葉がルティア嬢に降り掛かります………訓練だと思いなさい!」
「だとしても、初対面から泣かすなんて聞いてませんよ!」
「何事も始めが肝心………ルティア嬢」
「っ!………は、はい……」
「わたくしは貴女には厳しい言葉を掛けていきます。堪えて貰わねばなりません。良いですね?」
「は、はい………」

 嫌だと言っても回避出来ない圧力がルティアに掛かり、皇妃は席を立つ。

「…………涙を拭き落ち着いたら、仕立て係を入れます。可愛らしいドレスも捨て難いけれど、皇太子妃になる貴女には、度胸が足らないので、大人っぽくさせて貰いますからね。皇太子とお揃いの仕立てにして、わたくしの目を潤して貰います」
「…………母上……どうにかなりません?そのツンデレ…………」

 ツンデレ、とリアンに言われ、ルティアも察した。
 威圧的な言葉でも、ルティアを拒絶はしなかった。
 皇太子妃になる為の根性を教えたかったのだ、と分かっていて、ルティアにはそれが足りないと分かったからだ。

「可愛らしい嫁は大歓迎よ、ルティア嬢………ですが、教えねばならない所は厳しくいきますからね!」
「は、はい!」
「…………全く………素直に優しく言えばいいのに………」

 ルティアは、それがリアンと似ている、とは思ったが、この場で言うと2人から突っ込まれそうなので、言葉を飲み込んだ。
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