皇太子と結婚したくないので、他を探して下さい【完結】

Lynx🐈‍⬛

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 リアンが提案したのは次の通りだ。

「ティアの誕生日の祝いは城で行うからね」
「え?…………フェリエ侯爵家で行う予定でしたよね、お父様」
「あ、あぁ………殿下、それは余りにも急な事では………」
「婚約発表もするんだから当然でしょう?ベルイマン」
「準備は始めております、フェリエ侯爵」

 フェリエ侯爵さえも知らなかった婚約発表とルティアの誕生日祝い。それがルティアの社交界デビューという事にリアンはしたい様だ。

「それ迄は皇太子妃教育は、フェリエ侯爵家でしていいよ。だけど、婚約発表を行ったら、ティアは居住を城に移してね」
「…………結婚もまだなのに?」
「関係無いよ。俺からも教えたい事沢山あるし」
「で、でも兄が邸にやっと帰ってくるのに……」
「スヴェン卿の任期満了は来月だろ?充分時間あるじゃないか」
「だ、だけど………お父様……」
「分かりました。娘が皇太子妃に、と打診があった頃より覚悟しておりました故、その様に致しましょう」
「お父様!」

 ルティアにはこの日、目まぐるしくて頭の中が整理が出来なくなっていた。
 皇太子妃を辞退したい、と伝える気満々だったのに、皇太子はリアンで、リアンが好きだから辞退出来なくなり、婚約発表も誕生日の日にされて、それだけでも驚いていたのに、スヴェンの恋の行く末の心配迄しなければならなくなったのだ。
 許容範囲は優に超えている。

「決まりだな。ティア、楽しみだな。誕生日と婚約発表」
「…………な、何でも私の居ない所で決めないでよ……」
「うん、ごめんね………嫌わないでくれ、ティア」
「…………嫌わないけど……話合いはしたかった……」
「これからは話合いで俺達の事を決める。全て、ティアを俺に振り向かせたくて必死だったからさ」
「…………怒りたくても怒れないわ」

 惚れた手前、ルティアもリアンがルティアの事で動いたのだと分かるから、起こるに怒れず、拗ねた表情をする。

「っ!…………可愛い!如何してそんなに可愛いんだ!ティア!」
「っ!」

 それが人目を憚らず、リアンがルティアに抱き着いてきたものだから、見ていたフェリエ侯爵やベルイマンもびっくりしてしまった。

「殿下!場所を弁えて下さい!ルティア嬢の父君の前なんですよ!」
「ルティア………皇太子殿下といつの間にそんなにも仲が良くなったのだ?」
「…………は、離れて下さい!」
「放したくないなぁ………やっぱり泊まって……」
「泊まれません!」
「俺の事好きじゃないのか?」
「っ!…………す……っ!……………父の前で言わせないで……」

 好きだと言いそうになるが、ルティアは留めた。
 後に、必ず説明させられるに違いないのだ。
 リアンとの出会いが皇太子妃を打診される半年も前からなのだ、と。
 そうでなければ、初対面だった筈なのに、このイチャイチャ振りはおかしいと思う筈だ。

「婚約発表後はいつでも場所問わず聞かせてくれて構わないからな」
「殿下、戯れもそこ迄すると、押し付けですよ。ルティア嬢が混乱状態です」
「…………あ、ごめん、ティア」
「…………か、帰ります」
「手紙出すよ。気兼ねなく出来る関係に早くしたかったから」
「…………私も出します」

 名残り惜しいが、ルティアはフェリエ侯爵邸に帰る事が出来た。

「疲れた………本当に疲れた………」

 帰りの馬車は、恐ろしいぐらいフェリエ侯爵は無言でルティアを見ていて、帰宅早々呼び止められて、説明させられる羽目になったのだ。
 お忍びで皇太子の身分を隠したリアンと街で出会った事。
 皇太子妃になりたくなかったのは、リアンが皇太子と同一人物だと思っていなかったので、皇太子との結婚は嫌だった事。
 王城で対面した後、リアンから伝えられて、今迄悩んでいた事が、馬鹿らしくなった事等、説明したら、電池が切れた様に、自室に戻ると脱力して、何も手が付かなかった。

「ルティアお嬢様」
「…………何?マナ」
「皇太子殿下からお手紙が」
「っ!………は、早く見せて!」

 マナからリアンの手紙を受取ると、直ぐに元気が湧き上がっていた。

 ---今日は驚かせてごめん。黙っていて、騙していても、ティアが欲しかったんだ。今夜泊まってくれたら、と本当に思ってたんだ。この前より可愛がって貪りたかったよ。父君の前で恥ずかしかったのかな?今度会ったら覚悟しておいてくれ。1回で済ます気もないし、この前以上、俺の腕の中で可愛がってあげるから。それ迄に俺も、どうやってティアを満足させてあげられるか、更に精進しておくからね。他にも試したい体位あるからさ

「っ!」

 手紙を読んで、直ぐに手紙を伏せたルティア。
 手紙の内容が途中から卑猥で、人に見せられない手紙。
 初めて好きなリアンから貰った手紙で嬉しいのに、この手紙は嬉しくなかった。

「お嬢様、皇太子殿下は何と仰ってました?」
「っ!み、見ちゃ駄目!」
「…………あらまぁ……お2人のなんですねぇ……あれだけゴネていたのに、やっぱりお会いにならないと分からないんですって」
「そ、そうね…………お、お返事書くから、ちょっと1人にしてくれる?わ、私も手紙の内容見られたくないなぁ、て………」
「はい、分かりました」

 お邪魔だと思ったマナは、クスクスと微笑ましそうにルティアの部屋を退室した。

「…………リアン……な、なんて内容の手紙書くのよ……なんて返していいか分からないわ……」

 ルティアの疎い閨知識では、リアンの卑猥な言葉の受け取り方が分からない。
 そのまま受け取って、と言っていいかも、と反論していいのかも、正解を誰かに聞くのもおかしい気がして、業務連絡的な他愛のない返事しか出来なかった。
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