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しおりを挟むルティアが、リアンから説明を受ける。
恐らく端折られたであろうが、ベルゼウス伯爵が法律違反をしていそうなので、その監査に入る為に、調査をしているという。
「カジノは違法では無いですよね?」
「違法じゃない………だが、この1年で破産した貴族が増えてね………正直、回収された領地を国だけで管理を全て見る事に負担が掛かる可能性があるんだ」
「…………領主が居なくなっている地区がある、て事ですか?」
「そうです、ルティア嬢」
「知らなかった………」
ただのんびり、貴族の令嬢をしていたルティアに、国の内政を知る事は少なかったであろう。
だが、これからはルティアも気に留めなければならない事になる。
「公表してないからね………破産したなんて、爵位ある貴族達には不名誉だ。罪を犯した訳でもないのに、財産が無くなり、領地民の管理が出来ず、税収を上乗せされたら、それこそその領主が犯罪をしかねない。幸い、人の良い爵位のある家ばかりが破産したから、そのまま国に領地は返還されてはいるが、それ等を買い取りたい、とベルゼウス伯爵が言い出していてね……何を企んでいるのか、調べていた所なんだ」
「…………でも、何故我が家のフェリエ侯爵家が関係していると?」
「それも今調べている最中…………そのカジノの事で調べ始めた頃、俺はティアと出会い、恋して婚約に持ち込んだ。父上を巻き込んで、議会でティアに皇太子妃を打診させたから、議会に出席した貴族達には、ティアが婚約者として知れ渡っていた所に、ベルゼウス伯爵令嬢が城内を彷徨き始めてね………」
「それで、私の兄に近付いている、と?」
違法するだけで、何故今迄関わらなかった家の令息に接近する意味があるのだろうか。
「もしかしたら、次の標的にされるんじゃないか、とね」
「あ、兄は…………騙されやすいかも……」
「…………ベルイマン」
「何ですか?殿下」
「お前………スヴェン卿の性格把握していて、事前に注意しろ、と言えなかったのか!」
「…………会わなかったので、ベルゼウス伯爵令嬢が近付いている等知りもしませんでしたよ?それに、今ベルゼウス伯爵令嬢を調査しているのはクレイオ殿下ではないですか」
「…………お前…………本当にクビになりたいか?」
「いえ?」
「それなら、ある程度は予測して、クレイオにぐらい伝えておけよ!」
予測出来るなら、予測出来た時点で動ける人は動くだろうが、予測していなければ無理な話だろう。
怒り混じりでベルゼウスに詰め寄るリアンだが、当のベルイマンは至って平然としている。
「私は帳簿関連の仕事に忙しく、ベルゼウス伯爵令嬢がスヴェンに接近していたのを知っていたら、私も伝えていたと思いますよ?」
「ゔっ………そ、そうだな………」
多少感情的でいたリアンはベルイマンに言いくるめられて、もう何も言えない。
「私からもお兄様に伝えておきます?……でも、お兄様………多分シスリー様が好きだと思うので、その点が伝え辛いですけど……要は、罰せられる可能性のある家の令嬢だから、好きにならないで、としか伝えられないかも………」
「…………ん~、そうだな……どう思う?ベルイマン。スヴェン卿を知るお前からの見解は」
「フラれて終わりでしょうから、伝えなくても良いかと」
「お前………冷たいよな」
「ベル兄様………変わってない……」
「恋なんて、フラれて強くなるんです。殿下もティアにフラれて強くなっては如何でしょう」
「フラれてたまるか!やっと婚約出来たんだからな!」
「…………でも、お兄様がカジノにお金注ぎ込ませるのは回避したいです!本当に、資産を根こそぎ取る為に、近付いて来られたなら………」
「そうですね、それは流石にフェリエ侯爵家にも影響あるでしょうし」
「クレイオに任すか……それ」
「その方が良いでしょうね………ただの失恋で終わらせた方が傷が浅いかと」
騙された、と思うより、フラれた、と思わせた方がスヴェンの性格からでも、後を考えた方が良い気がするのは、ルティアも同意見だった。
兄の心根が優しいと知っている妹、ルティアの観点からでも納得する。
『失礼します。フェリエ侯爵閣下がルティア嬢をお迎えになられておりますが』
「…………ティア、本当に泊まっていかない?」
「え…………っと………父が怒るかなぁ………」
「失礼します、皇太子殿下………娘がご迷惑お掛けしておりませんでしたでしょうか………」
フェリエ侯爵が部屋に通されると、リアンに手を握られ睦まじくしているルティアが目に入り、固まった。
それもその筈で、頑なに皇太子を拒否していたのだから、少しの時間で距離の縮まり方が早過ぎている、と感じたに違いない。
「そうだな………迷惑は掛けられているよ」
「ルティア!お前また何をしたんだ!」
「え!」
ルティアはリアンに迷惑を掛けた事は、今日はしていない筈だ。
それなのに、困った様な顔をリアンはする。
「フェリエ侯爵、私が迷惑と言ったのは、彼女の愛くるしさに私の欲が留まらない事で帰したくなくて、そういう迷惑は掛けられているんだ…………ね?ティア」
「っ!…………お、お戯れを……あの………そろそろお手を……」
お惚気か、と安心はしたが、これはこれでルティアも照れるので困る。
「ねぇ、帰っちゃう気?帰したくないんだけど………フェリエ侯爵、良いだろうか?」
握られた手に力が篭り、リアンが優しくルティアの顔を覗けば、益々火照るルティア。
「お父様!私、帰った方が良いのでしょう?」
「…………皇太子殿下がご迷惑でなければ、どうか娘を宜しくおね……」
「皇太子殿下!私帰らせて下さい!こ、皇太子妃の勉強もありますから!」
強い者に巻かれる性格が出るフェリエ侯爵を見て、咄嗟に言葉を被せた。
「え~…………城でしたら?準備させるから」
「…………あ、あの………今日は……本当に驚いていて………夢みたいで………1人で反芻したくて……」
「…………分かったよ………私も仕事が山積みで構ってあげられないし、その代わり………」
「ん?…………な、何ですか?」
不敵な笑みを向けるリアンに、ルティアは何を言われるのか怖かった。
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