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しおりを挟むルティアがリアンに抱かれてから、更に数日後。
久々にルティアの兄、スヴェンが帰宅した。
「久し振りだなぁ、ルティア、ティリス。元気だったかい?」
「お兄様ぁ!」
「相変わらず、ティリスは元気だ」
2日程休暇が取れたとの事で、ゆっくりするのに帰ってきたのだ。
「お兄様もお元気そうで安心しました」
「ルティア、婚約も決まって直ぐ祝いに帰ってきたかったんだけど、忙しくてさ」
「まだ正式に婚約した訳じゃ………」
「それでも、皇太子殿下から望まれた縁なんだから、喜んで良いんじゃないか?僕ももう直ぐ任期満了になるし、騎士業務は終われるし、結婚式迄は邸で一緒に過ごせると思うよ」
シャリーア国では貴族令息が成人すると、最低3年は体質に問題が無ければ、騎士として勤務する事を義務付けられていて、任期満了になれば各自騎士を望まなければ、騎士は辞められるのだ。
「やっと好きな文学に携われる仕事が出来る」
「ご苦労様です、お兄様」
「ちょっと寂しいけどね」
「寂しい?」
「あ………まぁ……普段寝食を共にした仲間達と離れ離れになるからね………ところで、ルティアはベルゼウス伯爵令嬢とは親しいの?」
「ベルゼウス伯爵令嬢?知らない方ですが」
「あれ?そうなのか?」
「はい………私、まだ社交界にも出てませんし、お母様のご友人方のご子息やご令嬢の限られた方達しか………」
「おかしいなぁ………シスリー嬢からルティアと親しくさせてもらってる、と聞いたんだが」
「いえ?会った事もないと思います」
何故、スヴェンから交流の無い令嬢の名が出るのかが分からない。
しかも、ルティアでさえ分かる、文系家系のフェリエ侯爵家と武系家系のベルゼウス伯爵家とは両親自体交流が無かった筈だ。
「じゃあ、聞けないなぁルティアに」
「何をですか?」
「シスリー嬢の好きな食べ物や趣味とか………」
「…………お兄様……シスリー様にご好意が?」
「っ!…………ま、まだそんなに親しくしてはいないんだ!僕も………ベルゼウス伯爵がよく騎士駐屯地にお越しだから、シスリー嬢もたまにお見かけするんだ………あまり会話も出来てはいないけど………」
「良い縁になると良いですね、お兄様」
「う、うん………」
照れ臭そうに後頭部を掻きながら俯くスヴェンを見て、漸く兄も春が来た、と思えた。
勉強が出来て、次期フェリエ侯爵家を背負って立つ兄に、恋人が出来て引継いでくれたなら、両親も安心するだろう。
それが例え、交流が無かった家同士の婚姻だろうとも。
だが、ルティアには普段気にならないであろう事がある。
ベルゼウス伯爵令嬢のシスリーの事だ。
顔も知らない相手で会った事も無い令嬢に、何故ルティアは知られているのかだ。
皇太子妃になる、というルティアに興味を示したのは致し方ないにしても、親しくしている、と言うのはおかしい話だからだ。
シスリーの周辺を取り巻く人間に、ルティアの友人が居て、その友人伝てだとしても、それで親しいとは言い難い。
---私には武系貴族の出自の友達の令嬢は居ないけど………そんな事で友達に聞くのも、変な話よね………
「ルティア」
「…………何でしょう、お父様」
「お前が皇太子殿下より、招待を無しの礫にし続けておるから、皇王陛下より呼び出しを頂いた。よって、明日の午後、私と登城するからな」
「…………え!」
「え!じゃない!皇王陛下から、お前の社交界デビューはまだか、とも聞かれて、その日に正式に皇太子殿下との婚約を発表する、と迄決められているのだ」
「い、いつの間に………そんな話を………お父様!私の意見を何故無視して進めるのですか!」
「お前の意見等聞ける訳無かろう!」
如何しても言い合いになる、父と娘。
その場に居たスヴェンやティリスは、オドオドするだけで、仲裁には入れない。
それだけ長男と次女は大人しい性格だからだろう。
「私の事を私が居ない所で決められては困ります!」
「もう決定事項だ!覆すのも許さん!それだけ皇太子殿下のご意向が通るのだ!………全く………何故皇太子殿下がお前の様な不出来な娘を……」
「ち、父上………ルティアは不出来な娘じゃありませんよ」
「そ、そうです………お姉様は不出来じゃありません」
スヴェンやティリスは言い方がキツイ、フェリエ侯爵に、口答えをする。
「お前達は口答えするな!」
だが、その強い口調に、ビクつく2人。
元々諍いが苦手な2人なので、直ぐに口を噤んだ。
「お父様!…………お父様はいつもそう!強い者に巻かれ、弱い者には強気!私達は感情があるんです!傷付くわ!」
「私の一言で傷付いていては、世の中渡り歩けぬわ………私の言葉を言い負かすぐらいで居てもらわねば困る………ルティア!お前もだ!行く行くは皇妃になって国を統治する皇太子殿下を支えねばならないのだからな!」
「っ!…………そんな……責任重大な事……私じゃ出来ないわよ!」
「出来ないなら出来る様になるのだ!分かったな!」
ルティアの性格はフェリエ侯爵似なのは明らかで、似たもの同士と言える。
「分かりたくもない」
「良いな!ルティア!明日は必ず私と登城するのだ!」
---街に逃げよ……
「お前達!ルティアを部屋に閉じ込めておけ!明日登城する時間迄、一歩も部屋から出すな!」
「……………なっ!………悪魔!」
「申し訳ございません、お嬢様」
「は、離してよぉ!」
「申し訳ございません、ルティアお嬢様」
体格が良い侍従と共に、スヴェンやティリスと話す場に来たと思っていたら、こういう事だったのか、とルティアは油断していた。
結局、家族団欒の時間はルティアには与えられないまま、登城用に着飾らされて、またたく間に馬車に乗せられたのである。
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