11 / 88
10
しおりを挟む暫く無言でルティアはリアンと抱き合っていた。
楽器店の店裏は路地裏で幅も狭く、人1人が通るぐらいですれ違う事もままならない程の空間しかない。
だからこそ、触れ合ってる方が自然だった。
「リアン………この前の事で、私………1人で街に出られなくなって………」
「うん………その方が絡まれなくて済むなら、そっちの方が安全だ」
「…………良くない!」
「ティア?」
「だって………リアンと会いづらくなる……」
「そんな事か」
ルティアは、リアンから出た言葉が信じられない様で、リアンの胸に埋めた顔を上げてリアンを見上げた。
「そんな事?………酷いわ……だって………会えなくなるのよ?………わ、私だけ………リアンが好きで堪らない様に聞こえるわ……」
「あ………そ、そう………だよな……うん………そうだよ…………」
まだ立場を隠すリアンなのを、失念してしまった事に気が付いて、1人悶々とするリアン。
ルティアがリアンの素性を知らないのも少し困ってきているかもしれない。
「…………リアン……私………もう時間が無いの……結婚させられちゃう……毎日毎日……お相手の方から、教師を派遣されて勉強させられて………勉強が嫌いな訳じゃないけど………自由が奪われていく………まだ………何も世間を知らないのに………」
「ティア………俺と結婚していいと思うか?」
「…………うん!………好きだもの!」
「…………好きだからって、楽しい事ばかりじゃない………苦難も絶対にある」
「…………そ、そうだよね………逃げなきゃだし……」
恐らく、リアンの言葉にルティアは勘違いしているだろう。
「苦難から逃げちゃ駄目だろ」
「でも………多分………私がお相手との婚姻を断ればきっと罰が降るわ………首都から逃げないと……」
「……………あぁ、なる程………そっちか」
別人だと思っているから致し方ないのだろう。
それならば、考え様によってはルティアにリアンをどっぷりと惚れさせる仕方が無い訳ではないし、リアンから逃せられない方法もある。
「良い方法なんて………私、1つしか思い当たらないわ………でもそうすると絶対にリアンが罰を受けるのは私が嫌なの!」
「因みにそれ聞きたいけど、何?」
「…………ま、前言ったでしょ?………純潔を……って……」
「…………ったく……参ったな……」
リアンは、顔を横に向け、口元を隠してしまう。
ほんのり、耳が赤く想像したのだろうか。
「お相手との結婚は………未経験じゃなきゃ、って聞いた……から………お相手が知ったら、破断させてくれると思うの!」
「…………」
ポソッと、リアンは呟いた様だが、近くにいてもルティアには聞こえなかった。
「何て言ったの?リアン」
「あ、いや…………」
リアンは『いや、【破断なんて】しないって』と呟いていた。
寧ろ、その方法なら、ルティアは益々リアンを好きになってくれる可能性もあるからだ。
リアンも皇族という立場から、閨事の知識は必要なので、知識だけは入っているが、リアンもまだ経験は無い。
それでも、将来的に妃になる令嬢に恥をかかせない様に、脳内では何度も女を抱く想像をしていた。
ルティアと出会ってからは、その想像はルティアただ1人にはなったが。
「ティア…………お望みとあらば、今から如何だ?」
「…………え?………あ、あの……でも………連れが居て………」
「何とかしてやれるから、安心しろよ」
「出来るの?」
「あぁ………行くぞ、ティア」
「っ!…………え………リアンっ!」
「…………ごめん、俺もうその気………」
抱き合う腕を放し、手を繋がれたリアンの手が、熱を帯びているのか汗ばんでいた。
スタスタとリアンに引っ張られる様に歩く事しか出来ないルティアは、連れて行かれた場所を見て、緊張していく。
「入るぞ」
「っ!…………う、うん……」
其処は質素な宿屋で、ルティアの住む邸の様な豪華さも無い。
「両隣空室の部屋を利用したい。その両隣の分の金も払う」
「…………3階の奥3部屋空いてるよ」
「ありがとう」
「っ!」
「行くよ」
「う、うん………」
宿屋の店主に教えられた部屋の真ん中の扉を開けるリアンに、ルティアはただついて行くしか出来なかった。
「俺、汗を隣の部屋で流してくるから、ティアは待ってて」
「あ…………わ、私も汗かいたから、お風呂はいるね」
「うん」
ルティアを部屋に押し込むと、リアンは隣の部屋には入らず、宿屋の外に出た。
「…………」
街でリアンを警護していた変装した騎士と目線を合わせたリアンに近付いて来る。
「楽器店周辺で、ルティア嬢を探す3人が居る筈だ。彼等を警備隊駐屯地に連れて行け」
「何と説明をされるのです?」
「皇太子の権限で、ルティア嬢に面会を申し出た為、暫くお預かりする、とな」
「分かりました」
「夕方には駐屯地に送り届ける」
「はっ」
リアンはそう言うと、ルティアの待つ宿屋の3階へと戻るのだった。
166
お気に入りに追加
682
あなたにおすすめの小説
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
そうだ 修道院、行こう
キムラましゅろう
恋愛
アーシャ(18)は七年前に結ばれた婚約者であるセルヴェル(25)との結婚を間近に控えていた。
そんな時、セルヴェルに懸想する貴族令嬢からセルヴェルが婚約解消されたかつての婚約者と再会した話を聞かされる。
再会しただけなのだからと自分に言い聞かせるも気になって仕方ないアーシャはセルヴェルに会いに行く。
そこで偶然にもセルヴェルと元婚約者が焼け棒杭…的な話を聞き、元々子ども扱いに不満があったアーシャは婚約解消を決断する。
「そうだ 修道院、行こう」
思い込んだら暴走特急の高魔力保持者アーシャ。
婚約者である王国魔術師セルヴェルは彼女を捕まえる事が出来るのか?
一話完結の読み切りです。
読み切りゆえの超ご都合主義、超ノーリアリティ、超ノークオリティ、超ノーリターンなお話です。
誤字脱字が嫌がらせのように点在する恐れがあります。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
↓
↓
↓
⚠️以後、ネタバレ注意⚠️
内容に一部センシティブな部分があります。
異性に対する恋愛感情についてです。
異性愛しか受け付けないという方はご自衛のためそっ閉じをお勧めいたします。
妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします
リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。
違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。
真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。
──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。
大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。
いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ!
淑女の時間は終わりました。
これからは──ブチギレタイムと致します!!
======
筆者定番の勢いだけで書いた小説。
主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。
処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。
矛盾点とか指摘したら負けです(?)
何でもオッケーな心の広い方向けです。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる