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 数日後、前回ルティアが言い合った教師との勉強時間がやって来た。
 教師もリアンに報告したが、やり合った事で勿論それはフェリエ侯爵にも筒抜けになり、またその後怒られた事は言うまでもない。

「良いか!ルティア!教師の言う事をしっかり聞くんだぞ!皇太子殿下にお前の事は報告が入っているに違いないのだ!心象を良くする為には淑やかで居るんだぞ!」
「…………一番性に合わない………」
「ルティア!」
「はいはい」
は1回だ!」
「…………は~い」
「伸ばすな!」
「…………はい……」

 ルティアの父に対する態度が、悪くなっている様に侍従達も感じている様で、皆ビクビクとしている。
 堪えず怒鳴り声が響いていた邸だ。
 それでも、ルティアは与えられた環境を文句を言いながら熟している。
 それは、結論として如何してもリアンとは添い遂げられる可能性が無い、と思えたからだ。
 ルティアはリアンが皇太子だとは微塵も思っていないので、リアンと駆け落ちも考えたが、貴族令嬢の身では、金を稼げても如何やって生活するかも分かってはいない。
 料理も出来ないし、住む家を如何やって探せば良いかも分からない。
 国内に住むのか、国外に逃げなければならないのかさえも、ルティア1人で決められる事でもないし、リアンに如何やって会えるか知らないからだ。
 ルティアが外出すると、見つけてくれていたので、普段リアンが居る場所すら知らないでいた。
 
 ---謹慎期間も終わったし、午後から勉強も無い………街に出ようかな………あ、でも1人での外出駄目だった………

 外出したくても、男の侍従を連れてではないと許可は出してはくれないだろう。

「…………でも、外に出たい!」

 外出許可を取り、2人程の男の侍従とマナを連れ、馬車は使わず徒歩で街に出たルティア。

「お嬢様、馬車をお使い下さい!」
「平民を装ってるのよ?貴族だと丸わかりの馬車なんて使えないわ」
「ですが………」
「歩くの!」

 ルティアが行きたいのは商店街の方なのだ。
 馬車を通る為には道幅が狭くなり、通行の邪魔になりかねない。
 貴族達が普段買い物する様な店ではない場所に、ルティアが行っていた楽器店は無かったのだ。
 侍従達にも平民風の服装にさせて、マナと横並びで歩くルティア。
 活気溢れる街並みに、久々に元気を取り戻せた気がした。
 そして、ルティアが街に出た、とリアンにも知らせが入ったのは、ルティアが邸を出て直ぐだった。

「俺も街に行くぞ」
?」
「彼女が外出したからな」
「ライナス、仕方ないさ」
「ベルイマン………お前だって殿下に仕事を回したかっただろ!」
「ルティア嬢との結婚の為だ」
「夕方には帰ってくるから、後は帰ってからやる」
「「………畏まりました」」

 コソッと城から抜け出して行くリアンだが、慣れている様だ。
 城には隠し通路が迷路の様に入り組み、城外に抜け出せる様になっている。
 リアンが出た先には騎士団の駐屯地で、其処でリアンは騎士達に護衛をさせながら、外出しているのだ。

「数人、警護を頼む」
「はっ」

 馬に跨り、街へと行くと、リアンには手に取る様に分かる、ルティアの行き先に向かうのだ。

「…………何で今日1人じゃないんだよ……」

 ルティアがマナと侍従2人と歩いているのを見て、リアンはルティアの視界に態と入った。

「っ!」
「ティア様?」
「な、何でも無いわ………楽器店の周辺で待ってて」
「ですが、お1人には出来ません」
「…………ゆっくり中で過ごすだけよ」
「なりません」
「…………じゃ、1人だけ一緒に」

 楽器店に入れば、リアンが後から入ったとしても、侍従達の目を晦ませられると思っていたが、侍従達はフェリエ侯爵からキツく指示されているのだろう。
 決して1人にはさせないつもりの様だ。
 店前に、ルティアはマナと侍従1人残させ、楽器店へと入った。

「こんにちは」
「やぁ、ティアかい」

 リアン以外の男と入店したのに、店主は何もルティアに聞いてこない。

「また新しい楽譜あるが、買って行くかい?」
「見せて貰っても良いですか」
「あぁ」

 店主と話す後ろに、付かず離れずの侍従が居て、ルティアは落ち着かない。
 だが、楽譜を開いた状態で店主はルティアに小さな紙を見せた。

 ---化粧室借りるフリして、裏口から出て来てくれ。リアン

 達筆な文字に目が行くと、ルティアは理解し、店主に言った。

「ごめんなさい、少し化粧室借りられません?」
「あぁ、良いよ………奥にあるんだ」
「貴方は此処で待ってて」
「ですが………」
「付いて来るなんて言うんじゃないでしょうね?貴方をそんな無礼な人だと思いたくないんだけど」
「…………待っております」
「…………そうして」

 店主に化粧室に本当に案内されるのでは、とも思ったが、案内されたのは裏口だった。

「若造が裏口で待ってるよ」
「…………ありがとうございます」
「時間稼ぎにしかならんだろうがね」

 お得意様だから、とも店主が呟いたので、懇意にしていて徳を得たルティア。
 嬉しくて、裏口の扉を開けると直ぐにリアンが微笑みを見せて待っていてくれた。

「リアン!」
「ティア!会いたかったよ」
「私も!」

 何方が何方からでもなく、手を伸ばし合い、抱き締め合ったのだった。
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