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 ルティアがフェリエ侯爵家に帰宅すると、当然の様に、フェリエ侯爵に怒られたルティア。

「街に行くな、とは言わん!だが何故夕方から出ていくのだ!共も連れずに1人で等と!お前は貴族の令嬢なのだぞ!」
「も、申し訳ございません……お父様……」
「しかも、皇太子妃になろうとする身で、狙われたら如何するのだ!」

 ガミガミと、フェリエ侯爵から怒鳴られ、ルティアは言い返す隙も無い。

「だ、旦那様…………只今、王城から使者が……」
「何だと?」

 フェリエ侯爵家の執事が、手紙を持って来たので、それが王城からと言うならば、其方を優先させられるだろう。

「ジェスター殿下から?…………ルティア!暫くお前は謹慎だ!部屋からも出さぬ!」
「え!」
「何だ………文句あるのか?ルティア………ピアノも弾かせぬぞ!これは罰だ!」
「……………はい……」

 シュン、とするルティアは、部屋に戻ろうとするが、フェリエ侯爵が手紙の確認をすると、再びルティアは呼び止められた。

「………ま、待て、ルティア」
「はい?」
「…………外出は許す……その代わり、必ず共を連れ、馬車を使え。それが嫌なら楽器店の店主を此処に呼んでやる。いいな!だが、3日は謹慎だ!」
「お、お父様?………一体何が……」

 手紙を読み、何やら怒りが治まる父に、ルティアは部屋を出るのを止めて、フェリエ侯爵の前に戻る。

「…………ジェスター殿下はお前のお忍びはご存知だった様だ………密かに護衛を付けておられたのかもしれん………今日も無事で帰って来られたのは、護衛あってこそだから、余り怒らぬ様に、とな」

 溜息混じりで、頭を掻き手紙から目を離さないフェリエ侯爵。

「…………え?……た、確かに絡まれそうになったけど………」
「何だと?」
「あ、いえ………警備隊に助けて頂けたので………」

 絡まれた、との一声でまた怒りが出て来そうで、直ぐ様助けられた、と言い足すルティア。

「…………そうか………では、ジェスター殿下に感謝するのだな」
「あの、そのお手紙を見せて頂いても宜しいてすか?お父様」
「…………私が今言った通りの事だ」

 ---フェリエ侯爵、貴殿の娘、ルティア嬢の街での評判は私にも耳に入っている。悪い評判等、微塵も無いのだから、皇太子妃として私の横に立つにルティア嬢以上の娘は居ないと信じている。本日の事もあるので、今後帰宅が遅くならぬ様、私の方からも警備隊には注視させておくので、結婚迄の間は少しばかり、自由にさせてやって欲しい。皇太子妃になったら、街に気軽には行かせてやれなくなるからな。だから、あまり怒りに任せ、ルティア嬢の自由を奪わないでやって欲しい。皇太子、ジェスター。

 と、書いてあった。

「いつの間に………何故、皇太子殿下はご存知だったんでしょう?」
「知らぬ………知っておったらお前にはピアノばかり弾かせず、もっと教育させておったわ……教養も知能も人並みでしかないのだからな」
「…………教養無くてすいませんでしたね………」
「そういう態度を止めんか!皇太子妃になるのだ!行儀も悪いし、言葉使いも叩き直すからな!」
「皇太子妃になりたくないんですが………」
「ルティア!もう決まった様なものなのだ!諦めんか!」
「…………謹慎でも良いです!皇太子殿下と結婚するなら、幾らでも謹慎します!絶対に会いませんから!」

 折角、リアンから助け舟を出してくれたのに、リアンが皇太子だと迄は結びつかない様だ。

「お前がそのつもりなら勝手にしろ!それでも皇太子殿下から教育係は送られて来るのだからな!怠ける様なら、ピアノは処分する!」
「処分させませんから!」

 皇太子妃の打診を受け取ってからというもの、ルティアとフェリエ侯爵の諍いは酷くなっていた。
 仲は元々良くはないのもあり、皇太子妃になるならないでの意見相違が激しくなっているのだ。
 ルティアが、皇太子がリアンだと知ればなくなるかもしれないが、今は分からないので益々仲違いが絶えない。
 
「旦那様………ルティアは無事で帰ってきたのですから……もうその辺りで……」
「カリーナもカリーナだぞ!お前がルティアを甘やかすから…………」
「お母様に怒るのはお門違いです!お母様に八つ当たりするのは止めて下さい!」

 家族を顧みず、浮気相手と過ごしている間、カリーナは陰で泣いていたのだ。
 それを知らない筈はないだろう。父の代わりに、母は息子や娘達を育ててきたのだから。
 夫婦間の諍いも見るに堪えず、ルティアは仲裁に入る事が多かった。
 ルティアには兄が居るが、騎士の駐屯地に居があり、月に数日しか帰っては来ない。
 貴族の若い令息ならば、爵位を継承する迄、騎士や王城での勤務に駆られる事も多い。
 フェリエ侯爵も登城はするが、家主という立場から、帰宅するか浮気相手の家に行くかの何方かで、今はルティアの結婚があるので毎日帰宅していた。
 だから、毎日の様に、何らかルティアは父のフェリエ侯爵と言い合ってしまっている。

「…………まぁ良い……ルティア……謹慎は3日!それは守れ!良いな!」
「…………分かりました」

 謹慎になってはいなくても、数日は外出予定も無かったので、幾らでも我慢出来る。
 憂さ晴らしはピアノに向けるだけの事だ。

「そうだ、ルティア!ピアノも3日間弾くな!」
「…………なっ………悪魔よ!お父様!」
「罰にならんからな」
「ひ、酷いわ………あんまりよ……この鬱憤は何処に向ければいいの!」
「皇太子妃教育を忙しくさせてやる。ピアノ等どうせ弾けんわ」
「悪魔…………」
「ルティア!父に向かって何て言い草だ!」
「ふん!」
「旦那様!お静まり下さい!私が言い聞かせますから……」

 顔を見ると、もっと喧嘩になるので、ルティアは部屋を飛び出し、自室へと戻るのだった。
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