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しおりを挟む走り出したルティアだが、リアンの方が歩幅も大きく、背も高いのもあり、直ぐに追い付かれてしまう。
「待てよ!」
「は、放してっ!1人で帰れるわ!」
「俺からの返事を聞かずにか!」
「っ!」
腕を捕まれたルティアはリアンの顔を見れない。
俯いたまま、涙が溢れそうになるルティアは、捕まれていない腕で、目を拭った。
「…………ほら、顔を上げろ……ティアのハンカチは俺の汗ついて汚いから、俺のハンカチを貸してやる」
「い、いい!」
「黙ってろ!」
「っ!」
顎を上げさせられたルティアは、一瞬の出来事で何が起きたのかさえ分からなかった。
驚き過ぎて、涙が止まる。
目の前にリアンの顔が近付き、唇をリアンに奪われたからだ。
「………リ………ア……」
「………う、嬉しかったさ………俺だって……ティアに会いに店に行ってたんだから」
リアンに捕まれた腕は解かれ、ルティアはリアンに抱き締められていた。
「う…………嘘じゃ……」
「俺は自分の気持ちに嘘は吐かない」
「ゔっ………ぅ………っく……」
「…………如何して泣くんだよ」
「…………う、嬉し……」
「そっか………」
ポンポン、と頭を撫でられるルティアは、そのままリアンの胸に顔を埋め暫く泣いていたが、直ぐにある事を思い出す。
「あっ!」
「な、何だ?」
「…………リアン!お願いがあるの!」
「お願い?」
「わ、私の…………じ……じゅ……純……潔を……も、貰ってくれない………かな?」
「っ!…………な、な………お前……今何………あ、いや………その……」
余りにも突拍子無い事をルティアに言われたリアンは、周囲に誰も居ないかを確認し、挙動不審になった。
ルティアの言葉に察したのは、ルティアにも分かる。
突然な事で、リアンも驚かない筈はないのだ。
「私………結婚したくないの………」
「…………は?………あ……あぁ………そ、その男と?」
「…………うん………純潔じゃなきゃ駄目なんだって………」
「…………は?………誰がそんな事………あ、いや………まぁ……そりゃ順序を考えたら……」
「私がふしだらな女だったら、結婚が無くなるんじゃないかな、て………両親も諦めてくれるんじゃないかな、と………それにお相手も………」
「…………無くなるか如何かは、相手次第じゃねぇの?ティアの両親からは、かなり怒られるだろうけど」
「無かった事にならないのかな………私がリアンに抱かれても………」
「…………さ、さぁな………お、俺なら無かった事にはしないぞ」
「…………私……リアンとは結婚出来ないの?出来る方法は無い訳?」
「…………あ、いや………か、考えてみる……」
どうも、リアンは歯切れが悪い。
ルティアを好きだと態度で示しているのに、ルティアの婚姻を壊す様な話方にはなってはいないのだ。
「リアン?やっぱり………私とはそこ迄考えれない?リアンがその気なら、私家出する覚悟だって…………っ!」
「ティア…………それを考えたら駄目だぞ」
口元にリアンの指が当てられ、ルティアは言葉を留めた。
ルティアの両親、フェリエ侯爵やカリーナをリアンは知らない筈で、リアンは親を捨てさせたくないから、そう言ったのだと思われた。
「で、でも………私……多分、このまま家に帰ったら、外出もさせて貰えなくなりそうで………」
「ならないさ」
「そんな事分からないじゃない!」
「その婚約者と会ってた、とでも言っておけば?」
「…………それこそ、信じないわよ。だって、街に出て来る様な人じゃなさそうなんだもん」
「…………どんな印象してんだよ、ティアの中で……」
「え?…………多分忙しい人なんじゃないのかな」
「…………それしか知らないのか」
ルティアから見れば、皇太子ジェスターは雲の上の存在でしかない。
社交界にもまだ出た事のないルティアに、想像でしか言えないのは仕方ない事だった。
「会った事無いし………ここ数日、会いたいと連絡もあるけど、全部断わってるし」
「…………会えば?」
「会ったら、話が進んじゃうでしょ!」
「…………なる程ね」
「リアンは良いの?私がそのお相手と会って、結婚の話が進んだら!」
「…………立ち話もそろそろ止めないと、本当に外出禁止にさせられるぞ、ティア」
「はぐらかしたわね!」
「いや、本当にマズイだろ」
「ゔっ…………」
気持ちを通い合わせられても、リアンに現実に引き戻され、はぐらかされた事を聞きたいのに、フェリエ侯爵家の事を思い出すと、聞くに聞けなくなってしまったルティア。
「送ってくから」
「と、途中迄で良いから!」
「…………男と一緒に居るのを見られたくないよな………分かった。近く迄な」
余り、リアンに送って貰いたくなかったルティアだが、今の様に男達に絡まれたくなかったので、邸の近く迄送り届けて貰った。
フェリエ侯爵家が建つ区域は貴族の邸が多い。
そんな区域にリアンを連れて行きたくなかったが、リアンは気にする素振り等なかった。
「こ、此処で良いわ!ありがとう。送ってくれて」
「…………気を付けてな、ティア」
「う、うん………リアンも」
「俺は大丈夫だ。もしティアが両親に怒られて外出出来なかったら、外出可能な人間に使いを出せ。そうだな………楽器店の店主に使いを出せば、迎えにきてやるから」
「う、うん……そうする」
ルティアはリアンの手を放して、足早に邸の方へと走って行った。
「殿下」
「…………今の輩達は捕まえたか?」
「はい………拘束してございます」
「聴取したら解放していい。くれぐれも再犯しない様に念を押してな」
「殿下は直ぐにご帰還をなさって下さいね。執務を放り出したんですから」
「分かってるよ!」
先程の警備隊の1人がリアンの背後から声を掛けてきていた。
「馬を此方に連れてきていますので」
「あぁ…………俺も帰る。引き続き、フェリエ侯爵邸の近辺の監視を怠るなよ。ルティア嬢やフェリエ侯爵にも知られない様にな」
「はっ………ジェスター殿下」
偽名を使い、リアンもまたルティアと会っていた、シャリーア国の皇太子、ジェスター・ミリアン・シャリオルト。
ルティアとの結婚を望んだ男だった。
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