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プロローグ
しおりを挟む「ルティア!ルティアは居るか!」
シャリーア国の貴族、フェリエ侯爵家の邸では、フェリエ侯爵が娘であるルティアを探していた。
「お父様、此処です」
音楽室から顔を覗かせたルティア。
ルティアは暇さえあれば、音楽室のピアノを弾いている令嬢だった。
「喜べ!お前の結婚が決まったぞ!」
「…………お断りします」
「なっ!何を言っている!女は結婚して子供を産んで、やっと1人前になるんだ!結婚する事が幸せなんだぞ!」
「お母様を見ていて、幸せそうだと思った事、ございませんから」
「ルティア!」
結婚が必ずしも幸せになる等、思ってはいないルティア。
それは、浮気性の父、フェリエ侯爵を見ているからだった。
恋愛して結婚した両親だったが、ルティアの母は度重なる夫の浮気に悩まされている1人。泣く母をルティアは間近で見ていたので、結婚に幸せを見出す事は全く出来なかった。
「私、一生独身で構いませんから」
「そうはいかん!お前のお相手は皇太子殿下なんだからな!」
「…………え……こ、皇太子……殿下………」
そこら辺の貴族であれば、断る事も出来るかもしれないが、皇族という事は、ほぼ決定事項になるだろう。
「そうだ!陛下より皇太子殿下の伴侶はルティアに、と打診があったのだ!」
「お、お断り………」
「出来る訳無かろう!」
「…………い、嫌です!私はまだ15歳です!結婚可能年齢迄まだ達してません!」
「そんな事は分かってる!16歳になってから結婚式だ!」
「…………い、1年弱………絶対に嫌です!」
「あ!こら!ルティア!開けんか!」
ルティアは音楽室の扉に鍵を掛け、父のフェリエ侯爵を拒んだ。
『打診があった時点で決定されたのだ!断れば我が家の存続に関わるのだぞ!ルティア!』
「知りません!そんな事!それならティリスに嫁がせたら如何です!」
ティリスとは、ルティアの妹だがまだ10歳の幼い少女だ。
結婚にはまだ早い。
『ティリスはまだ子供ではないか!姉が結婚せず、妹が先に結婚したら、世間的にも悪いわ!』
「私に関係ありません!」
父の声を聞きたくなかったルティア。
そう思えば、ピアノに怒りをぶつける事に限る。態と激しい曲調の曲を弾き始め、ルティアの耳に届かない様にする事に集中するしか無かった。
粘り強く、フェリエ侯爵も廊下で怒鳴るが、根負けする迄、ルティアは弾き続けていた。
「旦那様」
「…………何だ、カリーナ」
「私がルティアと話してみますわ」
話を聞き付けた、ルティアの母、カリーナがフェリエ侯爵の居る廊下へと追って来ていた。
「…………頼む………私に似てルティアは頑固だ。結婚に前向きにさせてくれ」
「…………本当なんですね?皇太子殿下との婚姻……」
「はぁ………私だとて、まだルティアには結婚は早いと思っていたが、デビュタントもまだなあの娘に何故話が舞い込んたのかも検討が付かんわ」
貴族の社交界に出れるのも、成人と認められた16歳からで、ルティアはまだ1年先の事でもあり、社交界へのお披露目もしていなかった。
それだから、18歳である皇太子の目に止まる事も無い訳で、国王から話が出る事も信じられなかった様だ。
それでも、娘が皇太子妃となるならば、フェリエ侯爵家は出世も約束されたとも言える訳で、フェリエ侯爵自身は断る事等全くもって考えてはいない。
娘を政治的利用するつもりは無くても、結果的に政治的利用する事になるだろう。
娘を貴族社会で話す事もしてこなかった様で、フェリエ侯爵からすれば寝耳に水だった。
「お相手が皇太子殿下では、私も嫌だとは言えませんわ」
「思っていても………な……本当に参ったな……もう少し手元に居てくれると思っておったのだが……」
浮気性の父だとて、娘達は可愛い存在の様だ。
まだ手放したくはないのだろう。
頭を悩ませながらフェリエ侯爵は音楽室から離れて行った。
母カリーナは、音楽室を開けようと試みても、内側から鍵が掛かり開けられず、ノックもしても、ピアノに集中するルティアには聞こえなかった。
「………出て来たら話をしようかしらね……」
だが、この選択がルティアに猶予を与えたのだと、フェリエ侯爵もカリーナも思いもよらなかった---。
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