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結婚♡
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しおりを挟む何故か、レイラが見たアーロンはロヴァニエ子爵領へ慌てて帰って来る事で冷や汗をかいている様には見えなかった。
「アーロン様、汗が………」
「っ!………レ、レイラ………い、いや良いよ……」
「でも、凄い汗ですよ?」
レイラはアーロンの額にハンカチをあてようとするが、それをアーロンは跳ね除けた。
「ち、ちょっと……庭を散歩しないか?………それとも遅いから休みたいというなら、また今度にするが………」
「…………遅いと言っても、寝るには早いですし、お散歩にお付き合いしたいです………でも、先に汗を拭かせて下さい。そのままでは風邪を召されますよ?」
「い、いや………本当に………いいから……」
頑なにレイラがアーロンに触れようとする手を拒むアーロン。
庭に向かうエスコートでさえ、過度な密着を避けようと、されているかの様だった。
話がありそうで、レイラは待ってはいるが、庭に出ても話を切り出しては来ず、レイラは痺れを切らす。
「アーロン様、今日お義母様とセイラとドレスの仕立てを頼んだんです………出来たら楽しみにしていて下さいね」
「っ!…………そ、それ……断わってくれないか………レイラ……」
「…………え?……ど、どういう事でしょう……」
「す、すまない………理由は……ちょっと言えないんだが………」
「…………分かりました……お義母様には私からお断りして参ります………っ!」
アーロンは結婚式の準備を始めた事に、まだ早いと思っているのだろうか。
吟味し、相談し、生地も装飾も悩み悩んで、時間を掛けた。
アーロンに見て欲しくて、出来上がった姿でアーロンの横に立ち、誓いを立てたかったが、まだ今は早いのか、それとも無かった事にしたいのか。
ただ、アーロンの肘に少し指が掛かる程度の距離で、この距離が余所余所しくて、アーロンとの心の距離が遠い。
「母上にはもう断わっておいた………勝手にされて俺は今腹が立ってるよ」
「っ!…………勝手に?」
「そうだ!勝手だろ………俺に一言も無く、仕立屋や宝石商迄連れて来て………何を勝手に、レイラ迄巻き込んで………」
「酷い………」
レイラはその距離が近くならない気がして、アーロンの腕から離れた。
ドレスが皺になろうとも構わない。
ケリー夫人が、レイラを思って準備を始めた結婚式のドレス選びだ。
忙しいレイラとアーロンが出来ないから、とわざわざ首都から遠いロヴァニエ子爵領迄来てくれたというのに、勝手に巻き込んで、とは聞きたくなかった。
レイラとアーロンの結婚を楽しみに、応援してくれていたからこその心遣いだ、とレイラは喜んでいたのに、勝手とは。
ドレスを握り締めてレイラは俯き立ち止まる。
「レイラ?………な、何故怒ってるんだ?」
「怒りたくもなります!酷いです!アーロン様!………お忙しいアーロン様と私も首都のオーヴェンス公爵邸にご挨拶も行けないから、お義母様が私の為に、ウエディングドレスを作ろう、て仰って頂いて、私は嬉しかったのに!それを勝手に、だなんて………巻き込んで、だなんて………私がウエディングドレスを着てはいけませんか?………も、もう………私は……アーロン様の………傍には………居られない……のですか?」
「レイラ!違っ………」
「良いんです!言い訳なら聞きたくありません!それなら、はっきり仰って下さい!………私が忙しくしているから、アーロン様は愛想を尽かしたんでしょう?」
「…………え……?何を言って……」
「だって………アーロン様に私………触れる事さえ許されないんだから………」
復興からずっと、傍に居てくれていたアーロンだったが、ロヴァニエ子爵邸には来ても、仕事を終えたら泊まる事がなく、そのまま首都へアーロンは帰っている。
一緒にしているのは仕事だけで、仕事以外の話をこの半年していなかった。
心が離れても仕方ない事かもしれない。
「ゔっ………っ……今日も泊まらず帰られるのでしょう?………私に話をしたら……首都へ帰ったら、また暫く会えない………それならば、もういっその事………無かった事に………領地の防衛もアーロン様のおかげで、海賊の被害も減りましたし、アーロン様はもう此方のお仕事をお気になさらなくても良くなりましたものね………此処が無事でいられたら………元々、それが目的…………っ!」
「レイラ!」
久し振りに鼻を摘まれたレイラ。
涙も流れ、ぐちゃぐちゃの顔に、鼻も詰まり、息もし辛い状況にさせられる。
しかも、直ぐには放してはくれなかったアーロン。
「何を君は勘違いしてるんだ?」
「ふぇっ?………は、はらしてくらはいっ!」
「放さない!…………いいか?良く聞け……何を勘違いしているか分からないが、俺には俺の………あぁ………内緒にしたかったのに!………もう仕方ない………話すが………実は、別の港から珍しい無地生地の美しい物が届いた、と聞いて、それが競売に掛けられる事を知って、如何しても手に入れたかったんだ………その競売に間に合う様に向かっては、なかなか買えなくて………そ、それをレイラのウエディングドレスに……と………」
「……………ふぇっ?」
「…………ちゃんと聞いてくれるなら、もう放す………聞く?」
「あい………」
少し強く摘まれて、レイラの鼻は赤くなっていたのは、アーロンが何かレイラは誤解しているから、それを解きたくて、力が入ってしまった様だ。
「ご、ごめん………痛かったよな……」
「…………い、いえ…」
「後で俺の鼻も思いっきり抓っていいから……」
「それは………いいです……アーロン様が痛いでしょう?」
「…………全く……俺に泣かされてるのに、仕返ししないなんて………」
アーロンはレイラを呆れるが、苦笑いしている顔から反省の色を見せていた。
「話を戻すが、その生地で作らせようと思って、やっと持って帰って来たら、母上は邸に居ないし、何処に行ったかと聞けば、レイラに会いに行った、て言うから、慌てて追って来たんだ……だから、勝手だと言ったんだよ……触れさせなかったのは………久し振りに会えて嬉しいのに、汗だくだからレイラが汚れる、と………」
「…………で、では……アーロン様は私と婚約解消という事を望んではいなくて………」
「勘違いした、ちょっとマヌケな婚約者にちょっとお仕置き………」
「っ!」
「……………疑うな、俺の気持ちを………結婚式を挙げよう………幸せにする」
「っ!…………はいっ!」
ロヴァニエ子爵邸でのプロポーズは、ちょっとした誤解でちょっとした喧嘩のおかしなプロポーズになってしまった。
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