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復興
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しおりを挟むロヴァニエ子爵領は、首都から馬車で2日程の距離で到着する。
数日、オーヴェンス公爵家でのんびり過ごした後、懐かしの故郷へと降り立ったレイラは、海の香りと海風を浴び深呼吸した。
「懐かしいか?レイラ」
「はい………でも、街がこんなに荒れて……」
「早く復興出来ると良いな………領主邸は、君の家族が住んでる。会ってくか?」
「会いますよね?ロヴァニエ子爵家ですし……帰って来てるんですか?」
「もう戻ってる筈だ………だが、俺達が過ごす邸は其処じゃない………旧ロヴァニエ子爵邸となった、君の実家にはな」
意味が分からないアーロンの言葉。
目の前にその旧ロヴァニエ子爵邸が見えているのに、ふとその奥の高台に見知らぬ建物があるのに気が付いた。
「あれ?あんな建物あったかしら……」
「あぁ、彼処が新ロヴァニエ子爵邸だ」
「…………は?いつの間に建てたんですか?……というか私知りませんし、父が建てたんですか?」
「いや、君の父君が土地を売った元夫が途中迄建てた別荘予定だった建物を俺が途中から引き取って建て直した」
「…………は?」
一際、大きな邸が、あの憎きカエアンが愛人ティアナの為に、建築法を無視して建て損ねた別荘だった、と言うのか。
更に驚いたのがそれをアーロンがアマルディア伯爵家から買い、建築工事を再開していた事が驚きだ。
「安心しろ、あの愚者達の好みは一切入れて無い」
「……………見取り図ぐらいは見ましたけど、凄い大きかったんですよ?………それを?………買われた?」
「一応、領民から反感買う訳にはいかないから、ロヴァニエ子爵家だとは公表はしてない。俺の名義だ」
見れば見る程、もしカエアンが買っていたら、維持費も管理費も無理な話だ。
それを簡単に買った、というアーロンの資産は如何ほどのものか、とレイラは思ってしまう。
「あ、あまり散財しないで下さいね、怖くなります………」
「普段、金を使って来なかったから、貯蓄で買えたぐらいだ……まだ俺も若いし稼げるから、彼処は好きに使ってくれ」
そして、レイラは家族に挨拶だけしようと、旧ロヴァニエ子爵邸へと帰って来た。
呼び鈴を押しても誰も出て来ない。
侍従達も見当たらない事から如何したのか、ともう一度押す。
「はい………レイラお……ご主人様、おかえりなさいませ」
「爺や!ただいま!」
「オーヴェンス公爵閣下、ご主人様の事では大変お世話になりました………ロヴァニエ子爵家侍従一同、代表して感謝致します」
「爺や!爺や!何処に行ったの!」
「お姉様?」
極端に居ない侍従達に、響き渡るライラの声。
玄関ホールの階段から駆け下りて来るライラは、所作にだけは気を付けていたライラらしくなかった。
「…………レ、レイラ?………っ!ア、アーロン様っ!」
ライラには突然の遭遇だったのかもしれない。
アーロンを見た瞬間、階段の駆け下りも止めて、ゆっくりと淑女らしく下りて来るので、レイラもアーロンも苦笑いしか出来ない。
「アーロン様………あぁ、なんという幸運……お会いしたかったですわ………」
「ライラ嬢………距離を取って頂きたい………ジュドー、此処の侍従達が少なくなってないか?」
「はい、殆どの者が新しく出来たロヴァニエ子爵邸で働く事になりましたから、其方の準備を……今日からお2方がお過ごしになりますし」
「レイラ、お願い!私もあっちに住みたいの!爺やったら駄目だって言うのよ、酷いと思わない?」
先程のライラの騒ぎは、この事だろう。
「ライラお嬢様、それは無理なお話です、とあれ程申し上げたではありませんか……もう、この邸の旦那様にはロヴァニエ子爵の権限がございません。あちらには入邸も皆様お断りしております」
「そこをレイラに頼み込んでるのよ!帰って来たら私のお気に入りのドレスや宝石、靴が盗まれちゃってて、まだ窓や壁が修繕出来てないの!怖くて眠れないわ!お母様も心労で倒れちゃうし、お兄様はこの状況を見て、寄宿学校へ入っちゃうし、お父様は呆けちゃってるし、トリスタンは………まぁ、相変わらず?」
一気にまくし立てたライラの言い分は理解出来る。
だが、それでも彼等の自業自得なのだから、諦めて貰うしかない。
「お姉様、いつもの様に大事な物を保管していなかったのですね……これからはお金を貯めて計画を立てて買い直して下さい。爺や、お父様とお母様を呼んで」
「畏まりました」
「呼んで、てレイラ………そんな事を言う貴女じゃなかったじゃないの!」
「お姉様も、ご理解して下さい。私はもうロヴァニエ子爵です」
ジュドーが両親を呼びに行っている間、リビングへとアーロンを案内して入った。
リビングには家族の揃った絵姿が飾ってあるが、父と兄の顔には刃物傷が付いていて、見るに耐えない。
家族はこの絵を見て後悔してくれていたら良い。
余程、恨みを買ったのだろう。
その端にレイラが立っている姿が笑顔で描かれているが、この顔で立っていた訳ではない。
家族が向いている方向とは真逆で無表情だったのだ。
レイラはその自分の顔にそっと手を当てる。
「如何した?」
「私………この時、この顔で立ってませんでした………下書きで確認した父が、レイラを笑顔で書け、と頼んだんです………私は逆を見て無表情でしたから………」
「此処はリビングか?」
「はい」
「クズだな…………この絵でリビングに居るのは辛かっただろ」
「…………過ぎた事です。もう、今日でこの邸に来るのは最後にするつもりですから」
「取り壊すか?此処………家族には別の家を用意して………」
「そんな事をしたら付け上がります。この邸で反省してもらわないと、私の気が済みません」
リビングと言っても、もう座るソファが無かったという事は持ち出されたのだろう。
罰は充分受けていると思うが、刻まれた絵姿の傷は本人にも傷付けられて、ゆっくりとでも良いから償って、会心して欲しかった。
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